1478話 お仕置きアレクサンドリーネ
「待たせたな。解説するんだったか。俺が直接喋るのか?」
おやおや、私の登場を嬉しそうにしちゃって。惚れても無駄だぞ?
「先ほどのように耳打ちをお願いします。さあ、こちらに。さあさあ、私の肩をぐいっと抱いて。耳に口をぴたりと、さあ!」
おやおや、先ほどの実況プレイがそんなによかったのか。悪い姉ちゃんだね。
「こうか。では話すぞ?」
『お待たせいたしました! 放送席に魔王選手が来てくれました! なんと! 先ほどちらりとだけ見えた女神選手の全裸ですが! 実は女神選手の幻術だそうです! そして魔王選手は目に頼らない戦いで幻術を打ち破るべく『闇雲』の魔法で闘技場全てを覆ってしまったと! 武舞台周辺だけ覆えばよさそうなものですが……ああ! それだと容易く吹き散らされてしまいますもんね!
そして暗闇の中! 一歩も引かぬ魔法の撃ち合い! その果てに! ついに女神選手の魔力が尽きて倒れ伏してしまったわけですね! だからいち早く引き寄せたというわけで!
そして最後の質問ですが! 暗闇が晴れたあと、魔王選手の近くに倒れていた狼っぽい魔物はどうしたことで……ええ? 闇雲に興奮して武舞台に乱入した!? 飼い主は魔王選手なんですね!? それ、他の試合でやったら一発で失格ですからね! 気をつけてくださいよ!』
おっ、こんな解説でも会場は結構盛り上がってるな。話してよかった。
「こんなもんでいいか?」
「あんっ、もう終わり? つれないわね。それより宿はどこなの? 今夜行くわ。いいでしょ?」
いきなり口調が変わりやがった。司会モードは終わったのか?
「沈まぬ夕日亭。来てもいいけど期待には沿えないと思うぞ?」
「それなら私のウチに来てよ。一人で、ね?」
「悪いな。浮気はしないんだ。」
する気はないし、物理的にもできないしね。私はアレクにオンリーラブだからな。
「酷い男ね……火を着けるだけ着けて……放置だなんて。そんなに女神はいい女なの?」
「当たり前だろ。ローランド王国に二人といない素晴らしい女性さ。」
人間誰しも同一人物は二人といないんだけどね。
「いいわね。私もそう思ってくれる男と結婚したかったわ。」
げっ、この姉ちゃん結婚してたんか。見た感じ二十代前半だし、しててもおかしくはないか。いかんな。人妻にべたべた触るのはよくない。次から気をつけよう。つーかこいつ、人妻のくせにウチに来いとか言いやがったな。何て奴だ。けしからん。
「じゃあこの後も司会がんばれな。」
「この玉なし野郎!」
何を怒ってんだ? いきなり豹変しやがった。余裕のない女はだめだねえ。さて、アレクの様子を見に行こう。もう起きてるかな?
「邪魔するぜ。うちのアレクの調子はどうだい?」
「おぬしか。嬢ちゃんは無傷じゃ。ただの魔力枯渇、限界以上まで絞り出したようじゃの。少しだけ補充しておいてやったわい」
「魔力を補充だと? じいちゃんやるじゃん。でも大丈夫か? 魔力ポーションいるか?」
「いるものか。ほんの少し入れただけじゃからの」
つまりこのじいちゃんはほぼロスなしで魔力の補充ができるってことか。それなりにいい腕してやがるな。下手な治癒魔法使いなら百の魔力を込めたとしても五も入れられないんだからな。
「ピュイピュイ」
おお、コーちゃんも来てくれたんだね。それよりコーちゃんだってカムイが参戦することを知ってたんだよね? 止めて欲しかったなぁー。
「ピュイピュイ」
カムイにも意地があるからって? もー……それを言われてしまったら……仕方ないなぁ、で済ますしかないね。でもしばらくコーちゃんは酒とお薬抜きね。カムイはブラッシング抜き!
「ピュイピュイ!」
「ガウガウ!」
横暴だって? いくらコーちゃんが精霊だからってたまには休肝日が必要だよ? 肝臓があるのか分からないけど……
カムイは諦めろ。アレクとの約束に手洗いとマッサージはあったけどブラッシングはなかっただろ?
「カース……?」
「アレク! 起きたの!? 体調はどう!?」
「え、ええ……大丈夫よ……私……負けたのね?」
「うん。魔力切れみたい。たぶん最後の
もし直撃してたら……当たりどころによってはアレクの肉体が四散してたんだよなぁ……防具なしだから。
きっと防いでくれるとは思っていたけど……
「きっとそうね……よく見えなかったけれど尋常じゃない魔力が込められていたから……何がなんでも防がなきゃって……」
「見事だったよ。僕の行動を全て読み切った作戦だったんだね。でもね、アレク……」
「な、何かしら……」
アレクの顔が少しだけ青ざめる。
「当分の間お仕置きだからね。最低でも一週間。寝る所までは別にしないしお風呂にも一緒に入る。でも、それだけだからね?」
「そ、そんな……」
アレクの顔が絶望色に塗りつぶされる。そんな顔しても許さないんだからな。
「だからしばらくは我慢してね。いくらアレクでも今回のことは怒ってるんだからね。」
「ご、ごめんなさい……」
うーん、しおらしいアレクもめちゃくちゃ可愛いな……
「一応聞いておくけど、僕がなぜ怒ってるか分かるよね?」
「換装で服を脱いだから……」
「その通り。よく分かってるね。アレクの素肌は僕だけのものだよ。それを観客たちに……一瞬だけど晒したね? だからお仕置きだよ。いいね?」
「は、はい……ごめんなさい……カースに隙を作るためには……これしかないと思って……」
くっ、さすがアレク。私のことは何から何までお見通しか……
実際には隙どころか後手後手にまわりまくったもんな。普段の私なら同時に複数の魔法を行使することなんか何でもないってのに。アレクのせいで心をかなり乱されて……だいぶ発動が遅くなってしまったんだよな。さすがにアレクは私の弱点を的確に攻めてくるよなぁ……
「さすがアレクだね。参ったよ。カムイを動かしたこともすごいけど。僕の行動を読み切ったんだね。だからご褒美をあげるね。」
手持ちの魔力ポーションの栓を開け、口に含む。
「ああ……カース……嬉しい……」
そのまま口移しでアレクへと。
くそ不味い魔力ポーションだけど、アレクのためなら何てことない。むしろおいしい。
アレクは喉を鳴らして飲み込んでいく。
「よし。じゃあまた後で迎えに来るからね。少し待っててね。」
「うん。待ってる。だから早く終わらせて……待ってるから。」
『快眠』
よし。これでアレクはもう大丈夫だ。さっさと終わらせて迎えに来ないとな。
「やっと終わったか? ここは連れ込み宿じゃないんじゃぞ?」
「固いこと言うなよ。アレクは弱ってるんだからさ。それにどう見てもベッドは余ってるよな。終わったら迎えに来るからそれまで頼むわ。あ、なんなら魔力を少し渡そうか?」
「なんじゃ? 魔力譲渡を使えるのか?」
くっ、使えねぇよ……
「いいや。使えないから好きなだけ抜いていいぞ。」
「ほう? あと二戦もあるのにか? 大口を叩きおって。ならば遠慮なく抜かせてもらうぞ? 手を出せ」
「ほらよ。」
母上もそうだったが、魔力を抜く時は手の平からが基本だよな。まあ母上の場合、私の首の後ろからも抜いたりもしたけど。
「どうした? さっさと抜けよ。」
「もうええわぃ……」
あぁ、抜き終わったのか。少しも減った気がしない。当たり前か。母上ですら全力で抜いて一割も減らないんだから。
「いい魔力だったろ? それじゃ、アレクの世話を頼んだぜ?」
「ふん……」
素直じゃないジジイだなぁ。まあここにはコーちゃんもカムイもいるから警備は万全だ。
残り二戦。瞬殺で終わらせてやるぜ。
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