1472話 決勝トーナメント選抜

「カース。見ててくれた?」


アレクが誇らしげに歩いてくる。見た目は無傷だが……


「うん。見てたよ。鮮やかだったけど魔力は大丈夫?」


「ええ、四割ぐらいは残ってるわよ。ここまで使うつもりはなかったのに。やっぱり二級闘士ともなると違うものね。」


「そうだね。それにあの魔法『雷矢』だっけ。速さだけなら僕の狙撃より上だね。まず避けるのは不可能だろうし、よく防いだと思うよ。」


ただ威力がしょぼいもんなぁ。あんなのでも当たれば勝てたのかも知れないけどさ。雷系って厄介だから対策しないなんてあり得ないもんな。私の場合は何の対策もしなくたって祝福のせいで効かないってのは反則だけどさ。


「よう女神。参ったぜ。俺の負けだ。」


おや、メドラウトか。何しに来たんだ?


「あら、逃げなかったのね。驚きだわ。」


「逃げるかよ。言え。大抵のことはやってみせるぜ?」


こいつ律儀な奴だなぁ。契約魔法のかかってない口約束を果たしにやってくるとは。いや、約束すらしてないか。好感度アップ。


「本来ならアレクの身体を狙った以上は死刑なんだが、自首したから大目に見てやるよ。魔力ポーション出しな。それも秘蔵のやつだ。持ってんだろ? 切り札的なやつをさ。」


私が口出しするのも変だけどね。まあ構わんだろう。


「お、おお、魔王か……そこまでいいポーションは持っちゃいねーが……これでどうよ?」


見せられても私にポーションの品質が分かるはずがない。だからせめて匂いだけ嗅いで……うげぇ、くっせ……


「まあいいだろう。どうアレク? こんなもんで。」


「いいわよ。ところであなた、あの盾の金属は何? 私はあの時の火球で盾を壊すつもりだったわ。なのにヒビしか入らなかった。よほどの素材と見たわ。」


言われてみれば確かにそうだな。アイリックフェルムでもムラサキメタリックでもない金属であれだけの温度差に耐えたんだからな。当然ミスリルでもオリハルコンでもないし。


「ああ、ありゃあ珠鋼たまはがねって金属だ。原料は鉄らしいんだが職人の腕次第で仕上がりに格段の差が出るらしいぜ?」


たまはがね……どこかで聞いた覚えがあるな。


「そう。あなたのそれはどの程度の品なのかしら?」


「俺のは安もんだ。それでも安もんなりにここまで付き合ってきたんだけどよう。参ったぜ。明日の戦い方を練り直す必要があんな。じゃあな、女神に魔王よう。」


そう言って奴は去っていった。あいつ明日も出る気なのか。タフな奴だなぁ。私も出るけど。


「アレク、これ飲む?」


「必要ないわ。回復なしでどこまで行けるか試してみたいの。カースが持っておいてくれる?」


「アレク……分かったよ。でもあんまり無理しないでね?」


「分かってるわ。でも、私はそれでもカースに勝つ気で挑むわよ?」


もう……人の気も知らないで……

いや違うな。知っててやってるな。まったくもうアレクったら。


「いいよ。それなら僕も本気で相手をするよ。本気でね。」


「それでこそカースね。痺れてくるわ。」


そう言ってアレクは闘技場の内部へと入っていった。トイレかな?




さて、三回戦が全て終わった。

残った奴の中で強そうなのは……一人、いや二人か。一人は魔力的にはキサダーニやメドラウトより上だ。高そうな装備を身につけてんなあ。どちらもまだ私とはあたりそうにないが……




『大変お待たせいたしました! これより決勝トーナメントを始めます! ですが現在勝ち残っているのは二十一人! 五人ほど余計です! そこで! 今からクジを引いていただきまして! 当たった選手に対戦していただきます! クジには一から五までの数字が書いてあるものが二枚ずつあります! 何も書いてないクジを引いた選手はそのまま決勝トーナメント進出となります! では今から係の者が参りますので、その場を動かずお待ちください!』


なるほど。そういえば確かに二日目も三日目も途中から人数を十六人ほど選抜して決勝トーナメントをやってたな。すっかり忘れてたわ。でもこうやって対戦相手をシャッフルした方が盛り上がるよな。少しは観客のことを考えているではないか。


おっと、アレクも戻ってきたな。何をしてたのか聞きたいけど、そうもいかないな。もうアレクったら……


「どうぞ、お引きください」


どれどれ……木札か。使いまわしてんじゃないのか?


「三だ。」


「私は何もないわ。」


つまりアレクは無条件で決勝進出か。




『さて当たりクジを引いた皆さん! その場を動かないでください! 一歩でも動けば負けとなります! 数字の書いてない外れクジを引かれた皆さん! 十秒以内に端に避けてください!』


何だ何だ?


『では皆さん! 対戦相手以外に攻撃したら負けです! でもこのまま開始!』


は? 何考えてんだ?

どいつもこいつもお互いをキョロキョロ見るだけで攻撃が始まらないぞ? そりゃそうだ。誰が相手か分からないんだから。


「俺は三だ。」


話が進むように動いてやろう。木札を掲げておく。


「二だ」


「こっちは四」


他の二人も同じように木札を掲げた。これでだいぶ絞れるんじゃないか?


「やれやれ。仕方ないな。僕は一だよ。さあどこからでも……」


先ほど注目した装備のいい奴だ。発言とほぼ同時に背中に魔法が着弾したが……微動だにしていない。


『今攻撃した選手は失格でーす! あなたが攻撃したのはシューマール・アラカワ選手! ご領主様の四男様ですよ! そして番号は二! 木札を確認する前に撃った迂闊さを悔やんでください!』


この野郎……しかも今のアナウンスの間に他の二の奴を片付けやがった。ちなみに私にも攻撃が来た。そいつが失格になってないところを見ると間違いなく三の奴だ。『風球かざたま




『さあ! 前哨戦も終わりました! 今の試合で勝ち抜いた順に決勝トーナメントの番号が割り振られます! つまり! シューマール・アラカワ選手は十二となります!』


なるほど。なら私は十三か。十三……狙撃したくなる番号だな。私の後ろに立つな……ふふ。

つまり対戦相手は十四の奴ってことだな。ほう、あいつか。

アレクは何番なんだろうか……

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