1420話 崩れ落ちない繚乱華

黒い球! まさか魔石爆弾か!『金操』


とっさに上に跳ね上げる! その瞬間、轟音を立てて爆発した。危な……


「アレク、油断はよくないよ。」


「もうカースったら。対応できてたのに。でもありがとう。」


さすがアレク。後ろを振り向いたのは誘いだったか。


「さぁて豚野郎、いや豚。お前もう終わったな。あれは魔石爆弾だよな? てことはお前エチゴヤと付き合いがあるのか。あーあ、ゴッゾがそれを知ったらどう思うんだろうな?」


「ちっ、違う! あんなもん誰でも手に入れられる! エチゴヤと付き合いなんぞないわあ!」


「ふーん、そう。お、ちょうどいい。ゴッゾが来たぞ。」


今日は部下を連れてやがるな。


「ゴッゾさぁーーん! 助けてください! 私の店が! こいつです! やっちゃってください!」


「よう魔王。昨日ぶりだなぁ?」


「よう。昨日はあれから大丈夫だったのか?」


「へっ!? ゴ、ゴッゾさん!?」


首をキョロキョロ、目をギョロギョロさせる豚。


「てめぇんとこのモンがこの魔王に暴言を吐いた上に殴ったそうだな。で、どうやって落とし前つける気なんだぁ?」


「へ? ゴッゾさん? 落とし前って……こいつからぶんどってくれるんですよね……? ね!?」


「バカがぁ! どう見てもてめぇに筋がねぇだろうが! これでどうやってケジメぇとれってんだぁ! こいつぁこれでも国王直属の身分証持ってやがんだぞ! つまり王族並みの応対する必要があんだよ! ちったぁ想像してみろや! もしもローランドであっちの国王を殴ったらどうなるかをよ! よくて手討ちだろうが!」


普通は奴隷落ちで一生鉱山だろうね。ローランド王国って犯罪者を殺さないえげつない国だもんなぁ。まだスパッと殺してやった方が幸せなんだろうな。ヤコビニを殺した代官のように。


「そ、そんな……お願いです! 金ならいくらでも払いますから! 助けてください!」


太い体を小さく丸めてゴッゾの足に縋りついてやがる。


「おい魔王ぉ……こう言ってんぞ?」


「おい豚、何でもするんだな? 約束するか?」


「ち、ちが! それはゴッゾさんに……!」


さすがに引っかからないか。蔓喰の誓約野郎のせいで契約魔法に慣れてやがるのかな。


「あー、いかんな。あんまり長いこと魔法を使ってると魔力が切れるな。うっかり建物を落としてしまったらどうしよう。あー、魔力が切れそうだー。」


現在の高さは三十メイルってとこだろうか。野次馬もぞくぞくと集まってきたなぁ。


「魔王! さま……やめろ……てください! 中にはまだ姉やがいるんだ! です!」


何だよ。全員避難してないのかよ。仕方ないなぁ。


「俺に言っても意味ないな。この豚に言え。諦めて詫び入れろってな。」


「そ、そんな……おい! おっさん! 意地張ってねーで謝れよ! 今なら建物は無事なんだからよ!」


「うるさいチビぃ! 街年寄り五人衆の一人ブーダン・オークシャーを舐めるなよ! いくら他国の王族だろうが! よそ者のガキに舐められたんじゃあテンモカで生きていけねぇんだよ! おらぁガキぃ! 建物ぶち壊す前にオレの命ぃとってみろや! おらどうした! ビビってんの『狙撃』かぴっ……」


バカが。殺すに決まってんだろ。シムに口を出されてキレたのか?

贅沢を言うならこいつの魔力庫に入っているであろう財産が欲しかったけどね。あーあ、消滅しちゃったよ。


「さてゴッゾ。何か問題あるか?」


「ちっ、ねぇよ……だがよ! てめぇちっと飛ばしすぎじゃねぇんか!? あんま調子乗ってってと……事故っちまうからよぉ!」


「お前がそう言うなら素直に聞いておこう。さて、建物を降ろすから少し待て。それから飲みに行くか?」


夕方までまだまだ時間はあるしね。


「てめぇあんま調子こいてんじゃねぇぞ!」

「なにゴッゾの兄貴にタメ口きいてんだぁ!」

「あんま兄貴の優しさに甘えてんじゃねーぞ!」


兄貴の優しさに甘える……不穏な場面を想像してしまったじゃないか……


「お前らには聞いてねぇよ。ちっと待ってろ。」


ゆっくりと建物を降ろす。




よし。これで元通りだ。


『氷壁』


建物を丸ごと囲う。いきなり中に入ろうとしやがる奴らがいたからな。火事場泥棒だろ? 分かってるんだよ。そうはいかないぜ。


「悪いなゴッゾ。ちょっと待っててくれ。アレク、シム、中に行こうか。」


「ええ。」


「姉や!」


あーあ。シムが走って行っちゃったよ。私達が入ったら入口を封鎖っと。『氷壁』




「アレクは人間を探してくれる? 僕は金目の物を狙うから。」


「ええ、分かったわ。」


シムはどっちに行ったんだろうね。そこまで広い建物じゃないけど。楽園の自宅ほど広くもないしね。


さぁーて金庫はどこかなぁ。それにしても出費がなくなってラッキーだったな。楼主や従業員が普通に対応すれば、私は言われた通りの金を払う気だったってのに。


おっ、金庫発見。中身の確認は後でいいや。収納収納っと。


「なんで! なんでだよ姉や!」


おや? シムが何やら叫んでるな。

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