1397話 テンモカ到着

ふあぁーあ。よく寝た……朝か。まだ眠いな。もう少し寝てよう……



「はあっ! ふん! やあっ! くそっ!」



「はいっ! いやっ! ちがっ! そうです!」



うるせぇな……あのガキ朝から何やってんだよ……『消音』

よし。これで静かになった。寝よう、ぐう……




「……カース、お昼よ。起きて。」


「……おはよ……昼?」


思いの外、よく寝てしまったようだな。昨夜のアレクのせいなんだけどね……


「ええ、お昼よ。お腹空いてない?」


「……すいてる……」


「用意できてるわよ。」


ならば、外に出るとしようか。ふぁーあ。よく寝た。


「押忍! おはようございます!」


「おう、おはよ……」


ん? あれ? こいつってこんな奴だったっけ?


「魔王様! どうぞ!」


「お、おお……」


味噌汁が入った器を渡された……え? 何こいつ? マジでどうしたの? キモっ……


「さ、カース。食べましょ。シム、お前も食べなさい。」


「押忍! ありがとうございます! いただきます!」


めっちゃ従順になってる。アレクは何をしたんだ……

まあいいか。


「ねえアレク……あいつどうしたの?」


ひそひそと質問してみた。


「大したことじゃないわ。少し鍛えてあげただけよ。だってあの子ったら棒の振り方も知らないじゃない? 普段カースがやってることをあの子に教えてあげただけよ。」


なるほど……よく分からないがさすがはアレク。すごいな……


「せっかくだから、シム! カースに説明しなさい。お前が何をしたいのかを。」


「押忍! 魔王様! 昨夜は大変ご無礼いたしました! お嬢様のご指導のおかげで自分の愚かさに気付き、めっちゃ汗顔です! こちらの事情ですが、テンモカを目指しております! それと言いますのが、俺はここからだいぶ東のギマチ村の出です! 俺のオヤジは村長なんですが、俺の大好きな姉やを売りやがったんです!」


「ねえや? 売った?」


「押忍! その通りです! 俺が成人したら嫁に貰うって約束だった姉やを! オヤジは勝手に売っぱらいやがったんです! だから俺は姉やを取り戻すためテンモカに行くんです!」


なるほど。うちのオディ兄と同じような状況か?


「よく分かった。俺達の目的地もテンモカだ。そこまで一緒に行こうじゃないか。がんばれよ。」


「押忍! ありがとうございます!」


なるほどねー。オディ兄と同じか……それならどうにか助けてやりたいけどなぁ……

でも結局のところ金次第だよなぁ……


父上は金貨三枚で買ったマリーをオディ兄に金貨百枚で売ったんだったよな。そこだけ聞くと外道かと言いたくなるが、関係者全員から感謝されてるし。

はてさて、こいつの状況はどんな感じなんだろうねえ。


それよりこいつ、農村から家出してきたってことは……知ーらね。




昼食を済ませて歩き始める私達。それにしてもこのガキ、シムはやたらアレクに懐いてやがった。アレクは一体何をやったんだ……


「あっ! お嬢様! あの城壁はテンモカです! もうすぐです!」


峠を一つ越すと、遠くに城壁が見えた。あれがテンモカ……ヒイズル南西部最大の歓楽街か。楽しみじゃないか。何して遊ぼうかな。




そこから歩くこと一時間半。ついにテンモカの城門まで辿り着いた。歓楽街って言うだけあって城門からすでに混雑してやがる……

私達のような徒歩の旅人から馬車を引き連れた商人。はたまたお忍びの貴族らしき一行まで。


そしてようやく私達の番が来た。私はいつものようにローランド王国国王直属の身分証を見せ、千ナラーの小粒を係の騎士に渡した。


「お、お通りください……」


「おう。お務めご苦労。」


他人の顔色が変わる瞬間というものは、いつ見ても面白いものだ。


「あ、あの、お待ちください。そちらのお子は……マーティン様のお連れ様で?」


そりゃあ不思議だよなぁ……親子に見えるはずもないし、兄弟にしては顔も似てないし服装も大違い。そもそも普通の村人って奴は各村の村長が発行した身分証、いわゆる手形を持ってるもんだが……


「押忍! 私はギマチ村のシム・サキバルです! この度は故あってこちらのお嬢様の下人として仕えさせていただくことになりました! ギマチ村の村長メイザン・サキバルの長男でございます!」


「というわけよ。この子は私の下人。問題あるかしら?」


「い、いえ、どうぞテンモカをお楽しみください……」


なるほどね。アレクめ、この子のために色々と考えてやってんだね。慈悲深いね。偉い!


さぁてと、まずはどこから行こうかなっと……

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