1383話 蔓喰とエチゴヤ
まあ忘れてるぐらいだから大したことではないんだろう。あ、もう酒がなくなった。
「ピュイピュイ」
もー、コーちゃんたら。飲み足りないのね。しょうがないなぁ。
行商人から買った酒。味は悪くないはずだ。
「ピュイピュイ」
まあまあ? コーちゃんたら贅沢なんだから。
「ガウガウ」
もっと焼けって? まあそう慌てるな。この間の大口が少し残ってたかな。
「魔王様おいしいです!」
「まおー様お父ちゃんよんでもいいですか?」
あ、忘れてたのはそいつか。
「いいよ。呼んであげな。」
妹は口に二、三切れの肉を放り込んでから呼びに行った。かわいらしいところがあるじゃないか。
「ど、どうも魔王様、あっしもいただいてよろしいんで?」
「おう食え食え。見張りありがとな。」
「よう、とっつぁんじゃねえか。最近賭場に顔見せねぇと思ったら真面目に働いてたんかよ。」
「げえっ!? ひ、人斬りカドーデラ!? な、なんでここに!?」
「ちいっと魔王さんと話してみてえって思っただけでぇ。まあとっつぁんも飲みねぇ。」
「い、いや、それが……」
「このおっさんは禁酒中だからな。まあ肉でも貝でも食べればいいさ。」
イグサの収穫が終わったら契約魔法は解くけどね。そしたらまた酒と賭博に溺れるのだろうか?
「そいつぁ見上げた心意気じゃねえの。まっ、また賭場にも顔出してくれや。」
「あ、ああ……」
おやおや。営業するカドーデラに困るおっさん。こいつ人斬りって言われてるくせに経営も熱心なのかねえ。あ、若者頭とかって言ってたな。
「なあカドーデラ、若者頭ってどの程度の地位なんだ?」
「ああ、ヤチロの蔓喰の中じゃあ二番目ですぜ。アタシの上にぁオヤジがいるだけでさぁ。」
「へー。結構偉いんだな。それが昼間っから酒飲んでていいのか?」
「こいつぁ手厳しい。まっ、固ぇことぁ言いっこなしですぜ。ささ、こいつも飲んでおくんなせぇ。」
「ピュイピュイ」
ふふ。外でこうして飲む酒も旨いよな。うーん秋の風が心地よいなぁ。
さ、腹も膨れたことだし行こうかね。
「じゃあ、また見張りを頼むな。まだ必要かどうかはよく分からないけど。」
「へいっ! お任せくだせえ!」
てっきり街の内外を問わず争いが起きるかと思ってたら、全然そんなことなかったもんな。それもこれもヒチベ達が手際よく領主を仕留めたからだろうか。
「さて、オヤジって言ったか。そこまで案内してもらおうか。」
「うぅーん、案内するのはやぶさかではないんですがねぇ……暴れないでくだせぇよ?」
「当たり前だろ。無法者じゃないんだからさ。」
囚われのローランド王国民のためなら頭ぐらいいくらでも下げてやるさ。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
おっ、二人とも一緒来るかい? さては私と離れてたのが寂しかったか?
「ちいっと歩きますぜ。馬車でも呼びますかい?」
「いや、いい。あんまり馬車って好きじゃないからさ。」
「さようで。そんじゃ行きますかい。」
せっかくだから道中でヒイズルの闇ギルド事情を聞いてみようかな。
「エチゴヤはヒイズルの南西部には手を出してないって聞いたけど、何か理由でもあんのか?」
「いやーエチゴヤは天王と繋がってまさぁね。アタシら蔓喰は元を辿ればアラカワ家に行き着くんでさぁ。」
「アラカワ家?」
どこかで聞いたような家名だな。
「このヒイズルぁ昔ですね、西のアラカワ家、東のフルカワ家で成り立ってたんでさぁ。まっ、それから色々あってアラカワ家が負けたみたいなんですがね。で、その割にお家断絶は免れたんでさぁ。それからアラカワ家は表と裏に別れやしてね? 表はただの一領主として、裏は闇ギルドとしてテンモカの街の裏側で生きてきたんでさぁ。」
「へー。それはあれか? 血を絶やさないため的な?」
負けても家は残ったのか、ラッキーだったな。どんな争いだったんだか。
「さあ? その辺は定かじゃありゃせんや。ですがね、昔のヒイズルぁ各地にそりゃあ色んな闇ギルドがあったもんでさぁ。それこそアタシが人斬りって呼ばれ始めた頃でしてね。当時のうちはヒイズル南西部を仕切ってたもんでさぁ。それがいつの間にやらエチゴヤなんぞに国中牛耳られちまいやしてね。一時なんぞテンモカ以外全ての街にエチゴヤの手が入ってたんですぜ。」
「結構追い込まれてたんだな。」
「相当やばかったんですぜ? あいつらときたらムラサキメタリックの装備を持ってやすからねぇ。参りやすぜ。そんな時でした。当時のアラカワ家当主、ジュウザ・アラカワ様が天王相手に
「ふーん。天王がそんなあからさまに闇ギルドに口出しすんのな。この国どうなってんだよ……」
「はは……それからどうにか押し返してテンモカを中心とした南西部だけぁ取り戻したってわけでさぁ。それ以来エチゴヤとはどうにか反目せず持ちつ持たれつでやってまさぁ。業腹ですがねぇ……」
「ふーん、色々あるんだな……」
「なもんで魔王さんがオワダの番頭アガノをぶち殺したって聞いた時にぁ胸がすく思いでしたぜ。おごるエチゴヤ久しからずってなもんでさぁ。頼みますからうちを潰さないでくだせぇよ?」
「たぶんな。」
私だって好き好んで暴れるわけではない。素直にローランド人救出に協力してくれるなら何の問題もないさ。
「はは……さぁここでさぁ。どうぞお入りくだせぇ。」
ほほう、ここか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます