1384話 蔓喰のケンダル・シキガワ
闇ギルドの建物がそこらの民家と変わらないのはあるあるだな。強いて言うなら周囲の建物より少しは大きいぐらいだろうか。ここは街外れ。貧民街ではないようだが……職人街かな?
「カシラ! お帰りなさいやし!」
「お疲れさんっす!」
「客人ですかい!」
「おう、こちらぁローランドの魔王さんだ。オヤジぁいるか?」
「まお……?」
「へっ、へい! おりやすぜ!」
「で、でもオヤジ飲んでますぜ……」
昼間っから飲んでやがるのか。ダメ人間め。
「あぁ……まあいいさ……行きやすぜ魔王さん。」
「ピュイピュイ」
こんな時私を差し置いて返事をするのがコーちゃんなんだよな。自分に飲ませろとばかりに。あらら、カドーデラの首に巻きついちゃったよ。よっぽど最初の酒が美味しかったのかな?
ちなみにここはまだ土足だが、二階に上がる際に脱ぐスタイルのようだ。
そしてオヤジとやらの部屋は二階の一番奥か。建物の外観はそこまで立派じゃないのに扉や柱は頑丈そうだ。
「オヤジ、入りやすぜ。ただ今帰りやした。」
「げっへっへぇ! ほらほらもっと飲めぇよぉ!」
「いやだもぉケンちゃんたらぁ!」
「もぉーケンちゃんのエッチ!」
「わたし飲むぅ!」
なんだこれ……
「邪魔したな……帰るわ。」
痩せてるのに脂ギッシュなオヤジだなぁ。
「ピュイピュイ」
えー? コーちゃん飲むのぉー?
「ガウガウ」
臭いから外に出てるって? いやーな煙がもくもくしてるもんなぁ。それならカムイ、ついでに………………を頼むな。
「オヤジ! 客人です! それも超大物ですよ! 正気に戻ってくださいや!」
「げへぇ? おおっとカドーちゃんじゃねーか。どぉこ行ってたんだぁ? おめぇも
「カドーちゃん飲もうよぉ!」
「きゃあこの蛇ちゃんかわいーい!」
「つぶらな瞳がたまんなぁい!」
「ふぅー……ちょいと魔王さん、お待ちくだせぇ……」
おや、カドーデラったら窓を開けたかと思えば……
「きゃあっ!」
「ちょっ、何っす!」
「いやぁぁーー!」
あーあ。三人とも窓から放り投げちまいやんの。まあ二階だから死にはしないかな。
それなら、せっかくだから……『解毒』
「ちっ、酔いが醒めたぜ……誰でぇおめぇは……」
「俺はカース・マーティン。お前が蔓喰のボスだな。頼みがあってやってきた。」
「ああん!? なんじゃてめぇやんのかおらぁ!」
「オ、オヤジ……まずは話を……」
「なんだカドーデラよぉ? お前らしくもねぇなぁ! 普段のお前だったら俺に舐めた口ぃきいた奴はすぐに斬ってんだろぉが!」
「斬れる相手なら斬ってまさぁ……こちらアガノを殺したローランドの魔王さんですぜ……」
さて、態度は変わるのかな?
「あぁん!? それがどうしたぁ! なんぼ魔王じゃあ言うてものぉ! 初対面で舐めた口ぃ叩かれて頼みをきくほど俺ぁ安くねぇんじゃ! おらぁ! 素直に頭ぁ下げてお願いしろや!」
「この通りだ。ローランドから拐われた民を助けたい。蔓喰みたいな素晴らしい組織の力を貸して欲しい。エチゴヤみたいなクソと違って仁義を重んじる昔
角度は六十度。
「カ、カース……」
アレクも驚く低頭ぶり。さあ、返事はいかに?
「ま、魔王さん……オ、オヤジ……魔王さんがこう言われてることですし……」
「おめぇ……」
頭は上げない。
「おめぇ、よく分かってんなぁ。うちぁエチゴヤみてぇなクソとは違うからよぉ。俺ぁ筋ぃ通す男だぜ?」
「知ってるよ。カドーデラほどの男が下に付いてるんだ。それほどの器量ってことぐらい分からないはずがないからな。」
「魔王さん……」
お、カドーデラめ、グッと来てるな? 私は演技派だからな。
「ふん、そこまで言われちゃあケツの穴のこめぇことなんざ言えねぇなぁ! 言えや! 頼みとぁ何だ?」
「簡単なことだ。ヒイズルに拐われてきたローランドの者を助けたい。とりあえずテンモカに向けて声明を発してくれよ。意に沿わぬ形でヒイズルに連行されたローランド人のうち、帰りたい者は魔王が保護する。大人しく差し出した所有者からは倍額で買い取る。そうでないならテンモカが更地になるとな。」
「あっ? なんじゃあそりゃあ? 俺ら蔓喰と戦争しよおっちゅうんか? あ?」
「いいや、儲けさせてやるって言ってんだ。買った奴隷が倍額で売れるんだぞ? 死に損ないの年寄りですら倍額だぜ? こんなおいしい話はないと思うぞ? その上、どの程度の街かは知らんが更地にならなくて済むんだぞ? 最高の条件じゃないか?」
「おめぇ……分かってんのか? 一億や二億じゃ足らねぇぞ? 下手すりゃ百億からのナラーが飛ぶぜ? 後で金が無いなんて言いやがってみろ! そっちの女とセットで一生飼い殺しの見世物にしてくれんぞ? 両手両足ぶち切って舌ぁ引き抜いた家畜ショーの目玉にしてやんぞ? お?」
「それは構わんぞ。だが、もしローランド人がそんな目に遭ってたら……やった奴も同じ目に遭わせるからな。よし、それじゃあ約束しようか。お前はテンモカに向けて通達を出す。俺はその通りの金を払う。いいな?」
実際のところこいつが通達を出したところでどの程度の効果があるかは疑問だがね。いつかの女衒も張り切って買い取りやってるはずだから合わせれば少しは効果が出るんじゃないかと見てはいるんだよね。
「ちっ、やったらぁ! っぐっおっほぼ……ふん、味な真似ぇしやがって……どうせ約束する以外に道ぁねぇんだろぉが! この外道が!」
正解。
「お前ら闇ギルドも充分外道だろ? たまたまヤチロにローランド人奴隷がいなかっただけで、ここを通過したことがないとは言わさんぞ? エチゴヤとそれなりに付き合いがある以上まったくの無関係じゃないんだ。それなのに命は助けてやるってほどの慈悲深さが分からんか?」
「クソがぁ! さっきから若ぇもん呼ぼうにも誰も来やがらん! おおかたさっきの狼の仕業だろぉが! ペットからしてその強さ……逆らうのんもバカらしいわぁ! おまけにそっちの蛇よぉ……カドーデラが動いたら即、絞め殺す気ぃだなぁ? クソ……やってられるかよ! 約束ぁ守るから二度と顔を見せんじゃねぇぞ!」
「おう。お前が約束を守る限り二度と会うことはないだろうさ。おおそうだ。これやるよ。オワダのエチゴヤが持ってたやつ、お前こんなの好きなんだろ?」
「あぁん? なんでぇこりゃ……ほほぉう……よぉく分かってんじゃねぇか。お前長生きすんぜ? 用が済んだらまた来いや!」
手のひら返しが早すぎる! エチゴヤの倉庫で見つけた白いお薬がそんなに気に入ったのか。長生きできないぞ?
コーちゃんに文句言われそうだけど、まだまだあるからいいよね。
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