1380話 一件落着?

さて、こっちはこれでいい。残りは小太り、クラヤのおっさんだけだな。


「ヒチベ、こいつもう殺していいんじゃないか? どうやら反省してないみたいだし。」


あっさり本性見せるぐらいだしね。


「そうだな。魔王様の言う通りだ。どうせこいつが死ねばクラヤ商会は潰れるだけ。財産は惜しいが我らの心の平穏のためにはいいかもな。」


「ちっ! ちが、ちがうんだ! そ、その、カドーデラが来たから、つ、つい!」


つい本音が漏れたのね。


「諦めちゃあどうでぇ? 今ならまだ命だけぁ助かるみてぇだぜ?」


闇ギルドの人間に諭されるレベルかよ。すでに見ていて面白いなどというレベルではない。領主もこいつも信じられないほど腐ってるもんな。よし、ムカついてきたから……


「これを見ろ。」


久々に魔力庫から出したのは二代目ミスリルギロチンだ。長いこと使ってなかったんだよなぁ。


「なっ……」

「げっ……」


ヒチベもカドーデラも驚いてやがるな?


「これはローランド王国のミスリル製でな。人間でも大木でもよーく切れるぜ? ザクっとな。」


さすがにムラサキメタリックは切れないだろうけどね。


「それともこっち側でギコギコとゆっくり切ってやろうか?」


刃じゃない側はノコギリになってるんだよね。


「それともグチャっと潰すこともできるぞ?」


ハンマー代わりにも使えるからね。


「魔王様はこう言ってるぞ? さあ、どうするアラカブ・クラヤ! 性根を据えて返答するがいい!」


「ひいぃぃ! する! 約束するっうっぽっごぉー!?」


「契約魔法がかかったぜ。全てお前のものだ。」


よーし、これでこの件は終わりだな。


「魔王様、何から何までありがとう。我らの全身全霊をもって極上の畳を仕上げること、改めて約束する!」


「はあ!? 畳だぁ!? まさか魔王さん! 畳を見返りにユメヤ商会に手を貸したってんですかい?」


「少し違うな。畳を条件に配下に入れてやったってところかな。ここの畳は最高だからな。」


今思えば、素直に領主の所に行って畳を売れって直談判してもよかったんだけどね。そんな下衆な奴だと分かったからにはこれで正解だ。あ、ついでだから聞いておこう。


「生き残りはまだまだたくさんいるんだろ? 目付け役とか騎士団とか。どうする気なんだ?」


いくら蔓喰と組んだからって真っ当な騎士団は強いんじゃないか?


「問題ない。騎士長を始め腐っている幹部どもが力を振るえたのも領主が生きていてこそだ。今こうして反抗してないということは、家でぶるぶる震えているんだろうさ。取り巻きに自宅を警備でもさせながらな。」


へー。クラヤみたいに捕まってないってことは逃げようとしなかったってことか。いや、逃げられなかったのか?


「じゃあ役人連中も似たようなものか?」


「ああ、目付け役や家老、それからヤチロ家の家宰なんかは朝方始末が終わった。生き残ってる役人はカスばかりと、わずかな真っ当な者だからどうにでもなる。」


「ほー。手際がいいんだな。じゃあ、頑張れよ。イグサができたら改めて持ってくる。それから貧民街のフォルノって畳職人は知ってるか?」


「もちろん知っているとも。酒で身を持ち崩さなければ今頃ヤチロで最高の職人に育っていたことだろう。だが、それも魔王様が救ってくれたそうだな。あの万能薬を使ってまで。無駄死にするよりはと観念して配下になったが、その話を聞いた時に我らの判断は間違ってなかったと安堵したぞ。改めて礼を言う。」


「まあそれはいい。言いたいことは、フォルノを使ってやれってことだ。あと、いい女を紹介してやってくれ。」


「もちろんだ。貧民街にまで目を配る魔王様の恩情を我ら一同、終生忘れぬ!」


前も聞いた気がする。だが感謝されるのはいい気分だ。手助けしてよかったなぁ。さて、問題はギルドだな。いや、たぶん問題じゃないだろうな。


「ギルドの方にも手回し頼むわ。お前らの首を狙って冒険者が来る前にな。」


「分かっている。領主を打倒し印璽を手にした時点で我らは勝ったのだ。当然ギルドにも通知は出している。魔王様に余計な手間はかけないさ。」


へー、印璽ねぇ。命令出し放題なのか?


「ああ、じゃあな。」


「全員整列! 魔王様をお見送りしろ!」


おおっ? ドア前に向かい合って二列!?


「イヨカ! 魔王様を正門までご案内しろ!」


「はいっ!」


おっ、来る時案内してくれた女の子かな?


「全員! 礼!」


おおっ!? 全員が腰を折った。角度は四十五度! そのせいで出口が狭くなった。アレクと腕を組んだまま歩けないじゃないか。まったく……


おお、私達が通り過ぎても女の子以外ぴくりともしない。ちょっと感動。やっぱ助けてよかったなぁ。




そんな私達の後ろを付いて来るのは……闇ギルドの奴と若旦那の奥さんだ。ヤヨイって言ったっけ? さっきまでどこにいたんだ?




「魔王!」


ん? 若奥さんの語気が強いぞ。


「ユメヤ商会を救ってくれたことは感謝している! だが! クラヤ商会を潰したこととは話が別だ! お前に恨みはない! だが、この胸が疼くのだ! この心が張り裂けるのだ! 最後にひと勝負申し込みたい!」


まあこいつも微妙な立場だよなぁ。愛した男の家を父親が潰して、愛した男の母親も父親のせいで死なせて。今度は自分で自分の父親を含む家を潰してしまった。おまけに愛する男と引き裂かれて、危うく顔がいいだけの盆暗と結婚させられるところだったんだもんな。あれ? それって感謝されても良くない?


それどころか、こいつも私の配下になる契約魔法がかかってるんだけどね。こいつの中ではこれは反抗じゃないってことか……

まあいいや……

人には飲みたい夜があるように、暴れたい日だってあるよな……


「いいだろう。かかってこい。」


「いくぞ魔王!」


お前は勇者かよ……

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