1364話 盗賊の炙り出し

さて今日はもう帰ろう。今から帰ればちょうど昼だな。


「あの……魔王、様……」


おや、こいつが口を開くとは珍しい。


「どうした?」


「あっしはここで見張りをしてようと思うんですが……」


こいつは驚いた。えらく殊勝なことを言うではないか。まあこのイグサが枯れたらこの一家は終わりだもんな。


「いい考えだな。ただしあんまり近寄るなよ。ある程度離れた所からにした方がいいな。」


見張ろうにも何も見えないだろうしな。怪しい奴が近付いたら私達に報告しさえすればそれで充分だろう。さすがにリアルタイムとはいかんだろうけど。


「へ、へいっ! お任せくだせぇ! そこの納屋にでも潜んでいようと思いやす!」


「分かった。任せる。」


「へいっ!」


酒さえ飲まなきゃ真面目なのかね。初めからそうやって一生懸命働いていれば借金なんか背負うことはなかったのかも知れないなぁ。


「これ、食べなさい。」


「おありがとうございます!」


おお、さすがアレクは優しいね。クタナツのギルドで買った干し肉か。私も持ってるけど普段あんまり食べないんだよな。


「ちなみに明日は来ないからな。次は明後日か、三日後だな。」


「へ、へい、分かりやした……」


だって魔力が足りないんだもーん。計算上は明日の朝には三割近くにまで回復するはずだが、明日は盗賊を狙いに行くことにした。盗賊なんて一割もあれば充分だけどさ。念のため三割ぐらいまで回復してからだな。今から行ってもいいけど、さすがに一割を切った状態だと不安だからな。まあ私は黙って見ているだけでアレクとカムイに戦ってもらってもいいんだけど。


あ、そうだな。それがいい。うん、そうしよう。私は往復の便だけ担当しよう。


「アレク、今から盗賊を捕まえに行かない?」


「いいわよ。でもいいの? カース、魔力は?」


「うん。少ないよ。だからアレクとカムイに頑張ってもらうの。だめ?」


笑顔でお願いだ。


「もうカースったら。問題ないわよ。それにこの盗賊の件だって私がお願いしたことだもの。カムイ、一緒にやってくれる?」


「ガウガウ」


「カムイが任せろって。だから今夜はアレクにしっかり手洗いしてって言ってるよ。」


さっきあれだけ汚しやがったもんな。その分はすでにきれいにしたけどさ。


「あの、魔王様……今から行かれるんですか?」


「ああ、だからもう帰っていいよ。」


「もし私達が夕食までに帰ってこなかったら、イロハとクレハで食べていいわよ。それでも余るでしょうから彼に届けてあげるといいわ。」


「お嬢様……ありがとうございます!」

「ありがとーございます!」


期待させて悪いが夕食までに帰る気満々だからな。見つかりそうになかったらさっさと切り上げて帰るつもりだし。まあカムイの鼻があれば意外とすぐ見つかる気もするしね。


「それじゃあ行こうか。乗って乗って。じゃあ後でな。」


ミスリルボードの出番は久々かな。そうでもないか。


「はい! 行ってらっしゃいませ!」

「いってらっしゃいませ!」


ここから東に五十キロル。十分もあれば着くな。




「なんだかすごく久しぶりな気がするわ。こうしてカースが空に連れてってくれるのって。」


「ヒイズルではほとんど飛んでなかったもんね。飛んでばかりだと旅がすぐ終わっちゃうからね。」


あ、着いた。うーん山だ。ムリーマ山脈に比べたらとても小さい。でもクタナツの西、オウエスト山よりはだいぶ大きいな。とりあえず会長の地図通りに探してみるかな。


『隠形』を使い順番に近寄ってみる。バレても構わないので『魔力探査』も併用する。『隠形』使った意味ないじゃん……まいっか。


カムイ、どう?


「ガウガウ」


ここら辺では匂わないのね。よーし次行こ。


二ヶ所目。魔力探査に反応なし。カムイの鼻にも。


三ヶ所目。さっぱり反応なし。


四ヶ所目、五ヶ所目。何もなし。上から見える盆地はこれで以上か……この山意外と広いな。もしかしてフランティア領都の北、カスカジーニ山ぐらいあるかな。それに高低差が激しい。尾根なんかうねりまくりじゃん。あー、だから龍の背山って言うんだったか。こりゃ谷底とかも探さないといけないパターンか? 洞窟とかさ。参ったな。


何かいい方法ないかな……楽な方法が……


うーん……


アイデアその一、山を丸ごと焼く。

だめだな。拐われた女の子が死んだら大変だもんな。


その二、四人でバラバラに探す。

だめだな。そんな危ない真似ができるはずもない。


その三、誘き寄せる。

どうやって?


その四……「アレク、何かいい考えない?」

困った時はアレクに頼るのさ。


「そうね……人質なんてどうかしら?」


「人質? 一体誰を?」


「貧民街の人間よ。でも実際には適当に名前を出すだけの話だわ。」


「名前を出すって、どうやって伝えれば……あ、なるほど。分かったよ。さすがアレクだね。」


「ええ。カースの『拡声』で山中に響き渡らせればいいの。それで現れなければ明日にでも貧民街の人間を連れてきてもいいし。」


はは、アレクはえげつないなぁ。でも採用。いちいち谷底やら洞窟やら探してられるかっての。


では少し高度を上げて……


『おらぁ! この山にこそこそ隠れてる盗賊ども! 話があるから出てこいや! 一時間だけ待ってやる! 出てこない時はヤチロの貧民街を丸焼きにするぜ! こんな風になぁ!』


『火球』


適当な山頂に火球を一発。それだけで山頂は消し飛びモクモクと煙を上げる。ちなみに周囲の火は消さない。もう少し延焼したら消そうかな。


『分かったか! チラノやフォルノ! イロハやクレハも丸焼きにしてやるからな! さっさと出て来いよ!』


うーん、私めっちゃ悪人じゃない? 殺す気なんかないんだけどね。


「じゃあカース、お茶でも飲みながら待ってましょ?」


「そうだね。アレクのお茶は美味しいもんね!」


山々を見下ろしながらのティータイム。うーん風流だね。

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