1362話 イグサの植え付け
湯船につかる。アレクは私にぴっとりと。
「ふぅー。それで、どんな予感があるの?」
「クラヤ商会の長女ヤヨイのことよ。拐われたって話だけど、きっと違うわ。夢の雫側にいい仲の男がいる気がするわ。」
「あー、じゃあ盗賊側からしたら拐ったんじゃなくて取り返したって認識なのかな。数年かけてようやく……」
「きっと準備か何かが整ったんじゃないかしら? 例えばヤチロに戻ってくるための。」
「なるほど。今まで野放しにされてたのか捕まらなかったのかは知らないけど、機が熟したってとこなのかな。」
こりゃあただの盗賊退治とはいかなくなったか。まあどうでもいいけどね。せいぜい稼がせてもらうさ。まったく、この街はどうなってんだ? 畳の注文だけして通り過ぎるはずだったのに。ヒイズルの他の街もこんな感じなんだろうか? 物見遊山に来ただけだってのに。
「ガウガウ」
おっとカムイめ。また自分でドア開けてきやがって。洗えって? この甘えん坊め。やっぱり私の洗い方が一番いいんだろ? まったく、体は正直だぜ。ほーれほれほれ。
「ガウガウ」
だろ? 気持ちいいだろ? あの妹は丁寧だが力が足らんって? そりゃそうだろ。うりうり、ここか? ここがええのんか?
「カース、カムイが終わったら次は私も洗って欲しいわ。お願いね?」
「もちろんだよ。少し待っててね。」
もうアレクったら。さてはカムイが羨ましくなったな? そんな素直なアレクも可愛いぜ。
そして翌朝。看板娘一家と連れ立ってイグサ田に向かうべく城門へと歩いていると……
「てめっ! 昨日の!」
「こいつか! 舐めた真似ぇしやがった奴は!」
「けっ! そんなパーティーで盗賊退治に行く気かぁ?」
「やめとけやめとけ。どうせ失敗すんのがオチだぜ?」
「いや、それどころか女達が危険な目に遭うぞ? 考え直した方がいいんじゃないか?」
こいつらは昨日会長室に押し入ってきた奴らか。
「今日はまだ行かないぞ? お前らこそたった五人でいいのか?」
「へっ! 俺らぁ無敵のヘルタスケルタだぜ? そんなことも知らねぇんだろ!」
「盗賊の五十や六十なんざ楽勝に決まってんだろぉが!」
「けっ! 今日は行かねぇだぁ? 余裕かましやがって! 冒険者は早いもん勝ちだぁ! 後からガタガタ言うんじゃねぇぞ?」
「おおそれがいい。後からゆっくり来いや?」
「そうしろそうしろ。わざわざ危ねえ目に遭うこたぁねえぞ?」
なーんか勘違いされてる気がするな。別にいいけど。
「文句なんか言わないさ。冒険者は早い者勝ち、それはどこでも常識だろうよ。お前らもせいぜい気をつけな。」
「へっ! ガキがいっぱしの口ぃききやがって!」
「おおかた会長に依頼されたんで断りきれなかったんだろぉ? だから少し遅れて行ってゴマかそうって魂胆だなぁ? お前長生きするぜぇ!」
「けっ! それでも冒険者かよ! 盗賊ごときにビビってんぐれえなら男ぉやめちまえ!」
「おっと、俺らの番だ。行くぜ。じゃあなガキ。長生きしろよ?」
「そうしろそうしろ。ヤベェ事するだけが冒険者じゃねぇからよ?」
言いたいことを言って、奴らは手続きを終え城門から出て行った。さほどムカつきはしないが、あいつらがどれ程やるのか少し気になったかな。ヘルタ何とかって言ってたな。何等星なんだろう? 十等星だったら笑うけど。
「カース、私達の番よ。」
「おっと、そうだね。」
さて、城門をくぐりイグサ田に到着。よーし、ガンガン植えてやるぜ!
「順番はどこからでもいいのか?」
「はい! ですが分かりやすくあっちから順番にお願いできますでしょうか? あ、それから先に田を水で満たす必要がありますけど……」
「問題ない。とりあえずあの田だけに水を入れてみるから、量を教えてくれ。」
「はい! と言いましても
なるほど。あんまり入れすぎると畔が崩れてしまいかねないな。まずはゆっくり入れてみるかな。
『
「このぐらいでいいか?」
「す、すごい……魔法でこれだけの水が出せるなんて……は、はい! バッチリです!」
水量は魔力に比例するもんな。平民だって魔法は使えるから飲み水には困らないだろうけど、農業ができるほどの水は出せないのが普通だもんな。
「じゃあ植えるから。」
「はい! お、お願いします!」
では……植える前の苗に……
『オーグンソー コーユータ リキショウジョウ シーインユイ シンジンワク ゼンボンワク 大地に根差す か弱き息吹よ 那由他の恵みを受け
まずは全体の三割ほどにかけてみた。結構きついな……魔力が半分以上なくなってしまったぞ……
「すごいわカース! これだけもの苗を! ここまで成長させることができるなんて! やっぱりカースはローランド王国最強の魔法使いね!」
「いやぁ照れるなぁ。」
まあ今のは技術が必要なのではなく魔力量さえあれば誰でもできるんだけどね……
「す、すごい……」
「とんでもねぇ……」
看板娘と父親が驚く。妹はカムイのブラッシングに夢中でこっちを見てない。
「じゃあ植えるね。」
『風操』
予定通りの間隔に予定通りの本数の苗を植える。うん、順調にできそうだな。
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