1353話 浜鍋を終えて
待ってたよコーちゃん。近くにいるなら
「おわっ! 蛇ぃ! どっから来たんだよぉ!」
「首輪してんぞ?」
「あー大丈夫。この子は友達だ。大酒飲みのコーちゃんと呼んでやってくれ。」
「ピュイピュイ」
パッチリお目目でぴょこぴょこ挨拶。うーんコーちゃんはかわいいなぁ。さあさあ駆けつけ三杯といこうじゃないか。
「酒飲みなのか……?」
「白蛇……」
「これ、飲んでみるか?」
「ピュイピュイ」
たちまち飲み干すコーちゃん。まさにウワバミだね。さあ、これも食べてね。おいしいよ。
「ピュイピュイ」
ふふ、美味しい? 残っているうちに来てくれてよかったよ。
「待たせたな! 適当に小さく切ったぜ! こっちは鍋用、こっちは刺身で食おう」
おお。お待ちかね大口か。どんな味なんだろうなぁ。まずは刺身で……おお、コリコリかつシャキシャキ、不思議な食感だが……味は普通だ。普通の貝だ……不味くはないがそこまで旨くもないなぁ……
「ま、まあ食えるだけマシじゃねぇのか?」
「そうだな。食糧難の時代だったら選り好みなんてしてらんねぇもんな?」
「鍋に期待しようぜ!」
どうせなら旨いものが食べたいが……まあ不味くたっていいさ。これも旅の思い出だと思えばね。
「魔石あったぜ。いい値段で売れるんじゃねぇの?」
「おお、ありがとよ。ヤチロにも冒険者ギルドはあるんだよな?」
「おお、あるぜ。なんだお前もしかして冒険者までやってんのか? そんないい服着てるくせに」
ふふふ。分かるか。私のお洒落さが。
「ああ、これでも六等星だ。この子だって名門貴族なのに八等星だしな。」
「ふーん、変わってんだな。わざわざヒイズルまで来るぐらいだから当然なんかなぁー」
「おい、そろそろいいんじゃねぇか?」
「おっしゃ食おう食おう!」
「バカ! 最初に食うんはこいつに決まってんだろ!」
「おお、悪いな。一口目はいただくわ。」
もしかして譲ってくれたんじゃなくて、毒見的な意味もあったのかもね。構わないけど。もぐもぐ……あ、美味しい。軽く煮込んだことで柔らかくなってるし、少しだけ味が染みてる。貝って煮込むと固くなりそうなのに。へぇーこれは美味しいなぁ。
「旨いぞ。みんなも食べてみな。」
『水操』
給仕は任せろ。
「おっ! こいつぁうめぇな!」
「初めて食う味だなぁ!」
「海にぁこんな獲物がいんのかよ!」
「狙うんじゃねぇぞ! 死ぬのがオチだからよ!」
海は危ないもんな。さっき私がどっさり魔力を使ったもんだから結構魔物が集まってるんだよな。ここに人間もたくさんいることだし。まあ海から上がって来ない限り放置するつもりだけど。それにしても美味しいな。旨味たっぷりのアワビと味の染みた大根のいいとこ取りだろうか。うーん不思議。
時刻は昼をだいぶ過ぎたぐらいか。こうして見知らぬ人間とわいわい宴で盛り上がるのも楽しいもんだな。魔物はサハギンぐらいしか襲ってこなかったし。
「すっかりご馳走になったな。それじゃあそろそろ案内してもらおうか? 例の畳職人のところにな。」
「おお。ご馳走になったのはこっちだがよ。じゃあ俺が案内するわ。それにしてもそんなに畳が欲しいのかよ……」
欲しいとも。
「タタミは素晴らしいものだわ。むしろ職人やイグサをローランドに持ち帰りたいぐらいね。」
「そ、そうかよ……」
なんと。アレクはそこまで畳のことを! ならば楽園農業計画に米だけでなくイグサも加えるか……そうなると他の野菜も育てたくなるんだろうなぁ……
マギトレントだって数本ぐらい植えてみたいし。イービルジラソーレなんかを植えておくと警備にもよさそうだし……
いやいや、先のことは先のことだ。また今度考えればいい。今はまず畳だ。そのためには職人をゲットしておかなければ!
「そういえばお前らって仕事は何してんだ? 昼間からあんな所に集まってさ。」
「あー漁師だ。魚はいい値段で売れるからよぉ。朝のうちにたっぷり釣れれば昼間は遊んでられるってわけよ。それにしてもお前らって凄いんだなぁ……」
「ん? 大口を獲ったことか?」
「いや、もちろんそれもあんだけどよ? 平気で海に入っていくし、さっきのサハギンだって瞬殺だったろ?」
「あぁまあな。さすがにあの程度の魔物じゃ相手にならないさ。」
海で厄介だったのはやっぱヒュドラだよな。肉は超旨かったけど二度と会いたくないなぁ……
「やっぱ魔王とまで呼ばれる奴は違うんだなぁ……凄えよ……」
そうやって素直に言われると照れるなぁ。漁師って素直で親切な人間が多いんだろうか? タティーシャ村のツウォーさんも初対面でいきなり泊まっていくか? なんて言ってきたし。
そう言いながらも歩くこと三十分。貧民街っぽいところへ差し掛かった。スラムほど荒れてはいないようだが、いかにも貧民街って感じの見窄らしさだ。
「着いたぜ。ここだ」
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