1332話 カース、追い出される

さてと……何をもらおうかな。実はこの迷宮に入った時から決めてたんだよな。貰えるかどうかは分からないが言うだけ言ってみよう。


『言え。何が欲しいか?』


「エリクサーが欲しい。持ってますか?」


神の霊薬とも渾名あだなされる『エリクサー』前から欲しかったんだよな。これがあればどんな瀕死でも助かるし、手足を失っても再生できるって話だもんな。


『あるわけなかろう! この愚か者が! 万能薬で我慢しておけ!』


ないのかよ……あぁ、卑小な存在って言ってたもんな。くそ……


「万能薬ってどんな物ですか? 手足の復元とかできます?」


『できるわけなかろう! いかなるやまいをも治すことができるだけだ! 三つくれてやる! この愚か者が!』


どんな病気も治す……現代日本に持っていけば値段は青天井だな……でも私やアレクにはなぁ……

まいっか。迷宮は他にもあるし。


「ではそれでいいです。ところでカゲキョー様から見て、私って何か病気にかかりそうなもんでしょうか?」


『かかるわけなかろうが! なんだそのイカれた魔力は!? 神にでもなるつもりか!?』


やっぱかからないのか。普通の貴族でさえ滅多なことでは病気にかからないって話だもんな。やっぱ魔力が高いと得だよなー。まあいいや。万能薬も決して悪い物ではないもんね。


『受けとれ!』


「ありがとうございます。」


へー。木の箱に入ってんだ。中身は直径一センチの黒い球が三つ。ふーん、鹿の糞なんかと紛れてしまったら区別がつかなくて大変なことになりそうだ。


『次! そこのおなご! 言え!』


「魔力量を増やしていただくことはできますか?」


『可能だ。代償なしでも二割は増やせる』


「代償とは? 可能な限り多く増やしていただきたいと考えておりますので。」


『例えば魔石だ。貴様らはうなるほど持っておろう? 他には鉱物。鉄、銅、ミスリル。多ければ多いほど魔力量は増やせるぞ?』


マジか! それなら私も増やして欲しかった! でもアレクが優先だ!


「ではこれで。」


アレクが手持ちの魔石をばら撒く。おお、結構あるね。重さにして三百キロルは超えてるな。


『ふむ、これならば四割は増やしてやれるな』


「じゃあこれもお願いします。」


私も大放出だ。軽く一トンは超えてるぜ?


『ほう? 良質な魔石だ。いいだろう。二倍にしてやろう。よいな?』


「カース……いいの? こんなにたくさん……」


「もちろんだよ。一気に倍だね! おめでとう!」


「カース……ありがとう……大好き! はい! お願いいたします!」


『受けとれ』


「はぐあっ!」


「アレク!?」


『慌てるな。ちょっと胃の腑が数倍に膨張し、心の臓が数倍の速さで早鐘を鳴らす感覚を味わっているだけだ。じきおさまる。次! フェンリル狼!』


いるだけって……とりあえずアレクに膝枕しておこう。


「ガウガウ」


『ほう? 牙の魔法を伸ばしたいと? 容易いことだ。受けとれ』


「ガウガウ」


へー。牙から伸びる魔力の刃。あれの射程が伸びたら……カムイはますます無敵になるな……


『次! 大地の精霊よ! 何を望む?』


「ピュイピュイ」


『なっ!? 我の寝酒だと!?』


「ピュイピュイ」


『くっ……我はこの迷宮でしか力を発揮できぬ身……その我が苦労して手に入れたこの酒を所望すると言うのか!』


ん? なんだこの神? えらく人間臭いことを言うな。でも天空の精霊も酒が好きそうだったもんな。神々あるあるなんだろうか?


「また潜っていいんならローランドの酒を奉納することも可能ですよ。ね、コーちゃん。」


「ピュイピュイ」


『くっ、ローランドの地には酒と踊りの神パッカートル様が祝福を授けた人間がおるからな……それぐらい知っておるのだぞ! だがそんな酒を我の寝酒と一緒にするでないぞ! 我の寝酒は神の酒! パッカートル様から譲っていただいた神代の酒だ! おいそれと譲れるものか!』


マジか……神は他の神が作った酒を飲んでるのか……

しかもこの言い方からすると、酒と踊りの神はかなり上位っぽいな。こいつは下っ端みたいだし。


「ピュイピュイ」


『一杯だけだと……くっ、おい愚か者! 貴様も飲みたければ飲め!』


おお……目の前に現れたのは透き通るようなショットグラス。何でできてるんだろう?


『鍛治と武器の神ケルニャータ様に無理を言ってお作りいただいたエアリアルクリスタルの特製ショットグラスだ。人間ごときが飲むには過分な品よ』


エアリアルクリスタル? 知らないな。知らないけどこの透明さはただごとではないな。王都で買えるかな……


「ピュイピュイ」


あぁ……コーちゃん……そんな……全部飲んじゃったのね……飲んだ後もグラスの内部をきっちりと舐めまわしてるし……

あ、サザールが歯を食いしばって脂汗を流してる。こいつも相当飲みたかったんだろうな。


『ふん、さすがに主想いの精霊だな。貴様に一滴も飲ますまいとしておるわ』


え? 何それ?


「神の恩寵品……だったのですか?」


知っているのかアレク!?


『当たり前だ! 神たる我がくれてやった酒ぞ! 神の恩寵品に決まっておる! 跪いて感謝してもらいたいところよ!』


「ピュイピュイ」


人間がこれを飲むと神の眷属になれる? 魔力が足りないなどの理由でなれなければ何もかも吸い尽くされて死ぬ? 魂すら吸い尽くされるから来世なし? めちゃくちゃだ……


うへぇ……飲まなくてよかった。でもコーちゃん……めちゃくちゃ美味しかったんだね……尻尾が踊り狂ってるよ……

いいなぁ……

でも、教えてくれてありがとね。


『だが大地の精霊よ! そなたがこれを飲んだということは! 土と豊穣の神デメテーラ様に対する浮気のようなもの! 我はどうなっても知らんからな!』


「ピュイピュイ」


神の器は無限だって? くぅーコーちゃんったらカッコいいんだから! さいこー。


『さあ! では約束だ! 貴様ら四人は二度と我がカゲキョー迷宮へ立ち入るでないぞ!』


まあいいけどね。でも一応聞いておこう。


「こいつはどうなりますか?」


サザールだって短い間とは言え、仲間だったんだからさ。さっきから全然人数に勘定されてないんだよな。ひどいわー。


『そやつのように正面から正々堂々と迷宮を攻略せんとする者は大歓迎だ! ぜひまた来るがいい! 手ぐすねひいて歓迎するぞ!』


その言い回しは……まあいいけどさ……


「今、このままこの場から一人で行くのでもよろしいでしょうか?」


おお、やっとサザールが喋った。


『むろん構わぬ』


「マジで? お前ここから一人で行く気か? 確かに最深部が五十階って分かったからもう少しだけどさ……」


「すまんな魔王……本音を言えば怖い……そしてお前に命を救われておいて、その恩返しもせずに命を散らしたくはない……だが、クズのような奴らだったが仲間を五人も死なせておいて何も成し遂げず、おめおめと外に出るのは私の誇りが許さんのだ……」


その五人は私が殺しておいて言うのもなー。でもなー。


「じゃあさ、ここで少し待てよ。そしたらそのうち一番隊が来るんじゃないのか? そいつらと行けよ。それなら安全に行けるんじゃないか?」


「おお、それはいい考えだ。ぜひそうしよう……最後だ、魔王……これを受け取ってくれ……」


サザールは魔力庫から様々な物を取り出しては袋に詰めていく。見たところ、現金と鉱石と魔石だ。ちっ、バカが……


「じゃあこれやる。」


高級ポーションと魔力ポーションを二本ずつ。市販の中では最高級だ。それから食料を四日分。四日でクリアできないなら飢えて死ね。バカが……


『では良いな? 貴様ら四人は二度とここへは立ち入れぬ! クワァーッ!』


おお……さすが神の魔力だ……こんなギチギチの契約魔法……私の魔力が少なくとも五倍はないと解けないな……

それにしてもさすがは神だな。すでに私には自前の契約魔法がかかってるのに。おかまいなしかよ。きっと別物なんだろうな。


「じゃあなサザール。死ぬなよ?」

「あなたいいセンスしてたわよ。料理のね。」

「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


「さらばだ……」


『二度と来るな! この愚か者ぉぉーーー!』


ちっ、騎士の礼なんかしやがって……バカが……

一番隊を待つ気なんかこれっぽっちもないくせに……





うおっ? 一瞬の浮遊感の後、周りを見渡すと……夜だった。

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