第1290話 無数の蛭

さーて昼休みはここまでだ。本当は昼寝でもしたいところだが、今日はガンガン行きたい気分だからね。ちなみに食後にボス蜂がまた出てきたのでカムイが仕留めた。


さあ地下十四階だ。さてと、ここの魔物は……マジかよ……蛞蝓なめくじだ……


動きは遅いしサイズも小さい、魔物にしてはだけど。


問題は……


上から落ちてくるんだよな……

これまでの魔物は先頭を歩く者の前方五メイルに現れていた。だがこの蛞蝓は……先頭だろうが後方だろうが分け隔てなく降り注いでくる。しかもそのサイズが……五十センチ……


嫌なサイズだ……

しかも上にばかり注意していると、いきなり足元に現れたりするし。見た感じ体液に触れると火傷とかしそうなタイプかな。安物の靴なら溶かされるのかも。まあこの階はスルーだな。風壁で覆った鉄ボードに乗ってボス部屋に直行だ。轢き逃げ御免。


よし到着。やはりボスは五メイルの蛞蝓か。キモっ。『火球』終わりだ。腹具合からすると夕食までもう少しありそうだな。それなら、この勢いで次の階も行ってしまおう。




地下十五階のボスはトカゲだった。そして今夜の宿泊場所は十六階の安全地帯にした。


「ご馳走様。今夜も美味しかったわ。」


夕食後、アレクが言う。


「そう言ってもらえると嬉しいよ。」


私が焼いてるんだからな。十階で手に入れたクロウラーの肉も食べてみたのだが結構美味かったんだよな。オーク以上トビクラー未満ってとこかな。やはり迷宮産の素材は旨いってことか。


「それで少し思ったの。どうせなら台所設備があればいいのになって。」


「あー、言われてみれば。そしたらアレクの色んな料理が食べられるもんね。」


今でもアレクは可能な限り料理をしてくれる。それでも思い通りに作れているわけではないのだろう。楽園エデンで作ってくれたような絶品料理は望むべくもないもんな。


「そうなの。私は肉を解体したり切るだけで全部カースが焼いてくれるから。たまには私も料理したいなって思ったの。」


「じゃあ大きい街に寄った時にあれこれ揃えてみようよ。そしたら他の迷宮に行った時に使えるよね。」


「それいいわね。こんな所が後二つあるものね。楽しみだわ。」


ピラミッドシェルターを発注した時にはそんなこと考えてもなかったからな。魔境で寝ることをイメージしてたからとにかく頑丈さが優先だったもんな。


それにしても今日は疲れたな。蜂には刺されるし。あれは痛かったなぁ……風呂入ってゆっくり休もう。はあ……




翌日からは少し飛ばすことにした。全員を鉄ボードに乗せガンガン行った。そして二日後……


「ボス部屋だね。ここも手強いらしいから油断しないでね。」


「ええ、任せてもらうわ。」


地下二十階のボス部屋前に到着した。ここでもアレクが戦うと言うので任せることにした。この階の魔物ってひるだったんだよな。嫌な魔物ばっかりだ……


私達がボス部屋に入ってから数秒後。現れたのは、全長十五メイルを超える吸血蛭……


『燎原の火』


アレクの上級魔法が炸裂するが蛭には何の影響も及ぼしていないようだ。そしてそんな蛭の周囲だけでなく、部屋中に小さな蛭がひしめいてきた。床だけでなく、天井にまで。キモすぎる……


『燎原の火』


一発目の魔法がなぜかかき消えたため、アレクは二発目を放った。そして、そんな炎をも物ともせず蛭どもは私達に襲いかかってきた。子猫のような速度と軽快さで。蛭のくせに……

ちなみに私はコーちゃんやカムイと一緒に風壁の中に引きこもってるから大して問題はない。ただキモいだけだ。


『燎原の火』


三発目だ……蛭が意外にしぶといな……奴らは炎に焼かれながらもアレク目がけて集まっていく。ボスだってズルズルとアレクににじり寄ってやがる。


『火炎旋風』


ぬおっ! あれは! 知ってる!

王国一武闘会の魔法あり部門の準決勝で勝負を決めたあの技だ! 確かあの時の相手は……思い出せないな。髪の毛が紫の陰気っぽい女の子だったような。でもあの時と違うのは、アレクも炎の竜巻の中にいるんだよな……大丈夫だよな……?

それにしてもアレクめ。私は遠慮してあんまり使ってないのに容赦なく火の魔法を使うんだから。密室ではそれが危険なことぐらい知ってるくせに。


やがてボスを取り巻く炎の竜巻が消えると、そこには何も残されていなかった。部屋を埋め尽くしていた蛭の大群も姿を消した。


おっ! 部屋の中央に何やら素材が見えるぞ。やはり肉の塊か。でもなぁ……地下十階は芋虫の肉で、二十階は蛭の肉かよ……あーもーここの神は何考えてんだよ……


「アレク、お見事だったね。火の魔法を連発ですごかったよ。」


「ありがとう。先に燎原の火を置いておこうと思ったんだけど消えてしまったわ。やっぱりどうやっても先制攻撃はさせてもらえないみたいね。」


「そうみたいだね。じゃあ、一休みしたいところだけどここの魔物は気持ち悪いからもう降りようよ。」


「そうね。さすがに鳥肌が止まらなかったわ。行きましょう。」


さすがのカムイもここのボスと戦いたいとは言わなかったな。次はついに二十一階か。まずは様子見してから休憩だな。

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