第1267話 グランピング野宿

結局日暮れまでに次の村には到着できなかった。


「ガウガウ」


朝風呂に入ったカムイは当然のごとく約束を覚えていたようで、全身手洗いしろと催促してくる。分かってるって。夕食の後でな。


「お前らってこんな時はどんな食事をしてんだ?」


私達はもっぱらバーベキューだが。


「あー、だいたい鍋物だな。こいつが手っ取り早いからよ。もちろん一緒に食うよな?」


鍋か。悪くないな。


「いただこう。それなら火加減は任せてくれていい。食材を刻んで鍋に入れるところまでやってくれたら後は俺がやろう。」


私にかかれば釜戸を組む必要などないからな。


「おお、さすがぁ魔王さんだ。頼むぜ!」


タツが魔力庫から食材を出し、買った女に切らせたりしている。鍋には水や味噌などが入れられていく。よし、火をつけるとしようか。


『浮身』

『火球』


弱火でじっくりコトコトと。結構大きい鍋だよな。





そろそろかな。


『水操』


各自の器に取り分ける。私にかかればお玉も要らない。


「おお……すげぇな魔王さん……きっちり制御してやがる……」


当たり前だ。汁の一滴すらこぼしてないぜ。




旨い。キノコたっぷりの豚汁って感じかな。


「あ、あの……魔王様……美味しいでしゅ……」


やっと喋ったかこの子。昼からずっと黙って歩いてたよな。つーかこの子まで魔王って呼ぶんかい。


「それはよかった。いっぱい食べるんだぞ。」


他の女達もおどおどしながらではあるが食べている。盗賊の二人は無視だ。残り物でも食わせるつもりなのだろう。





「美味かったよ。ご馳走様。なかなかいい材料持ってんじゃないか。さすがに旅慣れてんだな。」


「まあな。馬車でもあれば便利なんだろうけどな。守るもんが増えるのぁ困るし狙われやすくなるからよ。結局旅はてめぇの足で歩くのが一番ってこったな。」


「それもそうだな。さて、ご馳走になった礼だ。後で風呂に入るといい。まず先にこの狼ちゃんを洗わないといけないからな。」


「お、おお……こんな野宿で風呂かよ……朝のやつだな? ビビったぜ。あんなのを魔力庫に入れてんだからよ。」


「いいだろ。おっと、覗くなよ? アレクの美しい脚と輝く胸元はいくら見てもいいが、その先を見たら死刑な。」


「ばっ、 バカ! そんな恐ろしいことするわけねぇだろ! さっさと入ってくれよ!」


冗談に決まってるのに。私の防御を掻い潜ってアレクを覗くなんて無理に決まってるってもんだ。







「ふう……」


「カースお疲れ様。カムイの手洗いも楽じゃないわね。」


「まったくだよ。カムイの奴ったらどんどん贅沢になるんだから。まあそれはそれで可愛いんだけどね。なあカムイ?」


「ガウガウ」


風呂上がりのブラッシングを忘れるなだと? 忘れちゃいないさ。もう少しゆっくりさせろよな。


「ね、ねぇカース……それより……そ、その、お、お仕置きなんだけど……」


やはりアレクも忘れてはいないよな。悪い子だ。


「うん、後でね。まずはゆっくり汗を流そうよ。」


日が暮れても暑さは引かないけどね。今夜も熱帯夜かな?

ちなみに虫対策は私が何か魔法を使うまでもなく、タツが虫よけ香ってものを焚いている。魔物には効かないが大抵の虫には効くそうだ。


「う、うん……」


むふふ、アレクが欲しくて堪らないって顔をしてるな。かーわいー。




よし、上がろうか。まずは体を乾かして……風呂上がりの冷たい水を一杯。あー旨い!


このまま服を着ずにブラッシングだ。どうせまた汗かくんだからさ。ちなみにアレクは待ちきれないと言って先にピラミッドシェルターに入っていった。あの中って夏は涼しくて気持ちいいもんな。




「お待たせ。じゃあ俺は寝るから。夜の見張りは好きにするといい。一応この狼ちゃん、カムイを外に置いておくから。困ったら肉でもあげて頼んでみるといいぞ。タツは知ってるよな? カムイは超強いぞ。」


頼むぜカムイ。


「ガウガウ」

「ピュイピュイ」


おっ、コーちゃんも一緒にやってくれるんだね。ありがとね。


「お、おお……なんてぇ格好してやがんだ……じゃ、じゃあ遠慮なく入らせてもらうぜ……?」


風呂上がりだからな。Tシャツにパンツ一枚だ。もちろん裸足だから少し浮身を使っている。


「ああ、好きにするといい。もしもカムイでも手に負えない魔物が出たら……いや、何でもない。じゃあおやすみ。」


「お、おお……おやすみ……」


さあて、待たせてしまったな。ふふふ、今夜もアレクと……むふふ。

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