第1224話 シーカンバーのナマラ

「エチゴヤ? 何だそれ?」

「聞いたことねーなー?」

「何の話ぃしてんだ?」

「あー酒うめー」


ふーん。こいつらでも命は惜しいと見える。多少は知ってるけど関わりたくないってところか。


「ならシーカンバーとエチゴヤの関係は?」


「シーカンバー? 落ち目の闇ギルドもどきか?」

「エチゴヤとの関係って言われてもなー?」

「エチゴヤが分からんからなー。関係も何もないわなー」

「ふー肉もうめー」


「よく分かった。そんなにエチゴヤが怖いってことだな。朝起きて殺し屋が枕元に居たらびっくりだしな。で、今朝の殺し屋はどうなった? 少しは取り調べできたのか?」


「あー死んだぜー?」

「おー、ちょっと係のモンが目ぇ離した隙によー?」

「よくあることだよなー。担当誰だっけ?」

「知らねー。どうせコンタ達じゃね?」


なるほどね。


「よく分かった。ちょっと目を離したってより『たまたま』席を外したってとこか。まぁ今の時代に魔石爆弾使うような奴らだ。お前らも命が惜しいんだろ? しっかしお前ら、あんな爆弾も対処できねーってそれでも騎士か?」


「できるわけないだろ……」

「一緒にすんなよ……」

「俺らはヌルい暮らしがしてーんだよ……」

「そーそー。触らぬ闇に危険なしだぜ……」


「よーく分かった。まあせいぜいクビにならんよう励むといい。がんばれよ。」


「うぇーい! ぬるぬるいぇーい!」

「魔王にかんぱーい!」

「いつまでもオワダに居てくれよー!」

「大歓迎うぇーい!」


何なんだこいつらのテンションの幅は……

上下差が激しすぎるぞ……




それからしばらく飲み続け、奴らが一人二人と酔い潰れてきたのでお開きとした。具体的には宿の外に捨ててやった。夏だし風邪をひく、風邪病ふうじゃびょうにかかることもないだろう。




「いやーびっくりだね。ヒイズル全体がそうなのか、オワダだけがそうなのか。腐敗具合がとんでもないね。」


「あきれるわね。こんなことでよく街が成り立っているものね。よほど儲かっているのかしら。」


「みたいだね。貧富の差が激しいみたいだけど、上の方はかなり儲けてるようだね。」


そりゃあ国にいくつもない貿易港だもんな。この地を支配すればどれだけの富を生み出すことか。難しいことは分からないが、ぼろ儲けしてんだろうな。あれだけの無駄飯食いを飼ってるぐらいなんだから。


まあ、私がよその国のことなんか気にしても意味ないしな。とりあえずは明日だ。魔力的に問題はなさそうだし……がんばろ。




今夜はオラカンを小さく切って湯船に浮かべてみた。ほほぅ、なかなかいい香りがするではないか。前世で言うところのオレンジの甘さとユズの酸っぱさを兼ね備えたような香りだ。肌がきれいになると言うのもまんざら根拠がないわけではなさそうだ。


シーカンバーのナマラか。あんな気のいいおばちゃんが弱小とはいえ闇ギルドのトップとは、世の中分からないもんだな。


「いい香りね。落ち着くわ。」


「そうだね。ケイダスコットンよりすべすべのアレクの肌がこれ以上きれいになったら、一体どうなるのか想像もつかないよ。」


「もう……カースったら。私の肌が綺麗なのは……カースのおかげなんだからね……//」


ぬふふ。女性ホルモン的な理由かな? もちろん心当たりはあるとも。毎日毎日夜な夜な退廃的に交わってるからな。




なお、この夜のアレクはいつもの激しさが鳴りを潜め、ねっとりという言葉がぴったりな攻めを見せてくれた。

私はと言えば、忘我の境地でされるがままだった。うーん完敗。





そんな翌朝、少し寝過ごしながらも私達はのんびりと朝食を済ませて約束の場所へと向かった。ナマラおばちゃんちは分からないから海辺だ。待ち合わせ時刻にはぎりぎりセーフってところだろうか。時計なんかないから分からないよな。

まだ来てないのか。感心しないな。先に来て待っておけってんだ。


「ガウガウ」


何? あっちに?


カムイが言う方向を見ると、昨日の護衛の奴が倒れていた。いや、這ってこっちに進んでいた。走り寄って声をかける。


「おい! どうした!?」


「た、助け……ナマラ……さま……」


「アレク! こいつをお願い! コーちゃん行くよ!」

「ピュイピュイ」


カムイはここを頼むぞ!


「ガウガウ」

「分かったわ。」


街中だろうと構わず飛ぶ。コーちゃん、昨日行ったあの家は分かるよね?


「ピュイピュイ」


さすがコーちゃんだ。




到着!


ドアは蹴破るまでもなく、開いていた。


「ナマラ! どこだ!」


玄関周辺には配下と思わしき奴らの死体が転がっている。


「ピュイピュイ」


あっち? よし!


「ナマラ!」


昨日の和室へと立ち入る。ここにいるのか!?


「ナマ……ラ……」


居た……


居たのだが……


「ま……魔王……さん……」


「ナマラ……」


そこに居たのは、四肢を切断され……囲炉裏の熾火の上に放置され……背中を焦がされるナマラだった……


くそっ! 慌てて囲炉裏から抱え上げ、ポーションを取り出す。生きていれば何とでもなる!


「無駄……だで……やめぇ……」


「だがっ!」


「やつら……わしの手足を……持っていきおったで……」


クソが! いくら高級ポーションでも繋げるべき手足がなければどうにもならない……傷を塞ぐことはできるが、ろくな義手や義足のないこの世界だ……待っている人生は……芋虫以下……


「頼む……夫を……弔いを……」


「分かった。任せろ。」


「わしの仇など……気にせんと……夫を……」


「分かった。任せろ。」


『無痛狂心』


せめて痛みだけでも消す……


「あぁ……ありがとなぁ……こんな見ず知らずのババアに……死んだ息子が生き返った……ようだで……」


「ナマラ。後は任せろ。」


「ありがとうなぁ……ほんにありが」


死んだ……


むしろよくここまで生きていたものだ……

たぶんギリギリ死なないように、なおかつ確実に死ぬように……

舐めた真似しやがって……

これがエチゴヤのやり方か……

おおかた私への警告と言ったところだろうか……クソが……

それに、あの沈没船を引き上げられると……よほど都合が悪いらしいな……上等だ……

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