第1222話 荒ぶる民間人
殺す。そう口にしたからには、もうこいつらは民間人ではない。
「相手してやるよ。かかってきな。」
魔力庫からイグドラシル製の棍『不動』を取り出して構える。平民相手だし、魔法なしでいいだろう。
「ガキがぁーー!」
「そねぇな棒っきれでイキがんじゃねぇ!」
「ぶっ殺す!」
「沈めちゃるけぇのぉ!」
連携も何もなく、野郎どもはただ襲ってきた。手元には錆びた刃物、ナイフにしては少し長いかな。近寄らせるかよ。棍ってのはリーチが長くていいね。
軽くぶん回すだけで奴らの刃物は折れるか手元から飛んでいく。二突き、三突きもすると血飛沫が舞う。切れ味はなくとも破壊力は抜群だからな。
「ひぃぎゃあぁぁぁーーー! 俺っ、のぉ! 指がぁぁぁーーー!」
あらら、私を無視してアレクに襲いかかった奴もいるね。サウザンドミヅチの短剣で指を飛ばされてるよ。バカな奴。
「女を狙うとはそれでも海の男か? 恥ずかしい奴らだな。」
弱いところから狙うのは立派な作戦だけどね。問題はアレクが弱くないってことだよな。
「クソがぁ! よそもんが調子んのんなやぁ!」
「仲間ぁいくらでもおるんじゃけぇのぉ!」
「ぜってぇゆるさっごばぁ!」
呑気に喋ってんじゃないよ。バカが。
「てっ、てめぇ! ひきょっおぼぼぉぉ!」
だから呑気に喋ってんじゃないって。マジでバカだな。私の棍が見えないのか?
結局、私が叩きのめしたのが六人、アレクの短剣に斬られたのが二人だった。
そしてお約束のように事が治まってから騎士がやってきた。赤い女騎士はいないようだが……
「よー、ローランドちゃーん。お疲れちゃーん」
「派手にやったねー!」
「あーあー、かわいそーだねー」
「もうすぐ勤務が終わりだってのにさー。あーだりー」
「見ての通りだ。襲われたから返り討ちにしただけだ。問題あるか?」
「うーん、問題ないんだけどさー。刃物は勘弁して欲しいなー」
「そーそー。一応街の中だからさー。刃傷沙汰はちょっとねー?」
「まーこいつらも刃物出してんみてーだしー? んっ、んー? ねぇ?」
「そーそー。あー今日も疲れたなー。あー、疲れを癒す何かが欲しい今日この頃だよなー?」
またか……マジで腐ってやがるな。でも不思議と憎めないのはなぜだろう。
「ほれ。これで酒でも飲みな。」
今回は二万ナラー。木札を二枚だ。こんな奴らでも餌をやっとくと役に立つことがあるかも知れないからな。
「はーいお疲れちゃーん!」
「行っていいよー!」
「オワダの平和は俺たちが守る!」
「捜査にご協力ありがとうございます!」
変な奴ら。
しかもこいつら帰る方向が私達と同じだったようで倒れた野郎どもを介抱することもなく、一緒に歩いている。
「オワダって代官とかいるのか?」
「いーやー、普通の貴族領だぜー?」
「代官がいたのって何年前だっけ?」
「五年前とかじゃね?」
「あー、そんかなもんかー」
ん?
「代官が居たってことは昔はここって天王家の直轄領だったってことか?」
「おー、そうだぜー」
「正確には天領って言うんだけどよー」
「理由は知んねーけどいつの間にか貴族領になったんだよなー」
「俺らーは仕事がヌルくなったから大歓迎だけどなー」
それはおかしい。今の天王はローランド王国に攻め込もうと考えてるほど支配欲旺盛なやつだ。そんな奴が自分とこの領地を貴族にくれてやるか?
「ふーん。ここの領主ってどんな奴なんだ?」
「うーん、知りたいのー?」
「知りたいならさー? げふんげふん、んっ、んー」
「あー、今夜は何か旨いもんが食いてぇよなー」
「おー、俺らってオワダの平和を守る激務で疲れてんもんなー」
すごいなこいつら。金さえ出せば雇い主ですら簡単に売るってのかよ。
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