第1220話 海底探索
ちっ、もう帰るんだから放っておけってんだ。結構速いな……私の存在に気付いてるようだ……
餌の少ない深海だから、狙った獲物は逃がさないってか?
気泡に合わせて上昇する私より明らかに速く接近して来るではないか。ちっ、相手してやるよ! どっからでも来やがれ! まあ、目の前から来るんだけどさ。
うっわ……キモ……
鮫? 鰻? 分からんな……
鰻のような身体に鮫の歯、全長はわずか五メイルってとこかな。頭だけやたらデカいな。口をいっぱいに開いたら二メイルぐらいいきそうだわ。あーキモ。
生意気に大口を開けて私を食おうとしてやがる。せっかくだからちょっと実験といこうか。
私に対して歯を突き立て噛もうとしているが私の自動防御を破れず、ある位置から顎が閉まらない。フェルナンド先生には容易く斬り裂かれてしまう自動防御だが、お前ごとき深海の魔物に破られてたまるかよ。
そうこうしている間も私は浮上している。さあて、深海の魔物が浅瀬に浮上すると一体どうなるのかねえ?
途中から私を諦めて逃げようとした魔物だが、顎が外れず海上まで道連れとなった。逃がさねーっての。
気圧の関係なのか途中から腹が膨らみ始め、今はもうぐったりとしている。どこか破裂したせいか腹は引っ込んだけどね。
さて、アレクはどこかな? やはり潜った地点からかなりズレているようだ。周囲に見当たらない。
『魔力探査』
アレクは……あっちか。
『アレク、今から光源を使うから僕の所に来てくれるかい?』
『花火』
光源とは名ばかりの花火魔法だ。こんな実用性のない無駄にきれいな魔法を使うのはローランド王国広しと言えど私だけだろう。
やがて、ゆっくりとアレクが操作する鉄ボードが私の前にやって来た。
「お待たせ。バッチリ発見したよ。」
「おかえりカース。その気持ち悪い魔物はなぁに?」
「あはは、分からないよ。だからおばちゃんに聞こうと思ってさ。」
『拘禁束縛解除』
「待たせたな。行ってきたぞ。確かにこの真下に船が沈んでた。」
「お、おお……本当に行ってくれたでなあ……うぅう……ぉおぉぉ……」
泣くほどのことか、ことなんだろうな……行ってよかった。本番も油断せずにいくぞ。
「それ……ラブカザメか……?」
「食いついたら離さないとかって聞いたような……」
へー。そんな名前なのか。そろそろ死んだかな? よし、収納しよう。
「魔王さん……ありがたいでなぁ……ううっ……おおぉぉ……」
「本当に引き上げられるかどうかは次回のお楽しみだけど……せっかくだから聞いておこうか。本当の目的は何だい? 弔うだけなら旦那の遺体だけでいいだろ?」
「……分かっておったか……」
「そっちこそあんまり隠す気なかっただろ。別に本当の目的を聞いたからって手を引いたりはしないさ。言ってみな?」
「もちろん弔いが一番だで……だがなぁ……あれには良質の鉄材が積まれておるで……それに船そのものだって外装はアイリックフェルムだで……」
重そうなのばっかりじゃないか……
「じゃが……お目当ては名簿だで……エチゴヤの幹部やボスの名前、本名や表向きの名前まで詳細に記された名簿があるで……それがあれば……エチゴヤを潰すきっかけぐらいにはなるでなあ……」
ふーん、やっぱエチゴヤとは対立してんのかね。
「ほー、それは凄いな。エチゴヤの噂はタムロから聞いたよ。かなり悪どいそうだな。しかも天王家とも繋がってるかも知れんとか。でもそんな名簿って紙だろ? とっくに海に溶けてんじゃないの?」
「あぁ……わしもそう思う……じゃがな……あの人が、死を覚悟してなお操舵室から出てこなかった夫が! わしらの希望を! 容易くふいにするとは思えん! どうにかして後に託そうとするはずなんじゃ!」
私以外に引き上げができる奴がいるとは思えんが、それでも可能性を残すことは大事だよな。
「分かった。やはり引き上げてからの話だな。どうにか丸ごと引き上げてみるさ。だめならだめで違う方法を考えればいいしな。」
外装がアイリックフェルムってことは、少々強引に持ち上げても壊れる心配はないってことだな。ギリギリどうにかできそうかな。海底まで行って帰ってくるだけでだいたい魔力を
「あぁ……ありがとうなぁ……ほんにありがとう……」
こうやって素直に感謝されるのは悪くない気分だ。
「ところで、この地点を覚えておいてくれよ? また探すのは面倒だからな。」
「あぁ、問題ないでなぁ。わしがしっかり覚えたで。任せちもらうでな。」
「おお、それはすごいな。よし、なら帰ろうか。引き上げは明日の朝ってことで。」
どうやったら覚えられるのか分からんが、舟に刻みて剣を求むってわけでもないし。任せておけばいいだろう。
今すぐやっても悪くないぐらいに消耗してないが、一応満タンにまで回復してからでないとな。慎重にやろう。
「頼むでなぁ。わしらぁ祈ることしかできんでな……ほんに魔王さんはすごいでなぁ……」
明日はコーちゃんを連れて潜ろうかな。きっとその方が安全だしな。
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