第1213話 山登りと海難
分け入ってみると、意外にも歩きやすかった。高い木が葉を横に広く繁らせているためか、足元は結構スカスカだったりする。その代わり道は全然ないから傾斜的に上の方へ登るのみだ。
うーん、それでも道のない山を登るってのは存外きついもんだな。足元が踏み固められてないから全然踏ん張れない。でも、それも面白いからいいけど。
「ガウガウ」
このペースではダルいから先に行く? そりゃあ構わんがちゃんと戻ってこいよ? もう少ししたら飛んで帰るからな?
「ガウガウ」
カムイは先に行ってしまった。あいつって本当自由だよな。召喚獣って何なんだ?
それから歩き続けること約三十分。そろそろ暗くなり始めた。景色にも変化がないことだし帰ろうかというタイミングでカムイもちゃんと戻ってきた。これが領都やクタナツなら後で勝手に帰ってこい、で済むが。同命の首輪はしていても他国の街をカムイほどのサイズの狼が一匹で歩いてると駆除されかねんからな。まあその場合、駆除されるのはどっちだって話になるが。
「さあて、そろそろ夕方だし帰ろうか。」
カラスが鳴くからかーえろ。全然鳴いてないけど。腹もへったしね。いきなり宿に着陸するのはまずいかと思ったので『隠形』を使って街外れに降り立った。ここから夕暮れの街をのんびりと歩いて帰ろう。これはこれでいい雰囲気だもんな。オワダはヒイズルの西側だから海に沈む夕日を見ることができる。クタナツではまず見れない景色だな。うーん風情があるね。
海に沈む夕日を左に見ながら昼間に通った海沿いの道で宿まで戻る。さっきの子供達はまだ遊んでいるかな。さすがにもう帰っただろうな。
おや?
海辺に人が集まっているな。何やってんだろう。
「だからあれほど海で遊ぶなって言っただろ!」
「誰か! うちの子が!」
「早くしてぇね! 誰か! 早く!」
「もう呼んだ! 応急処置しとけ!」
おやおや、子供達が血塗れになってるじゃないか。その横には小さいサハギンが死んでる。キモい半魚人サハギンか。なんだよ、やっぱ魔物出るんじゃん。よし、少し助け船を出してやるか。海辺だけに。
「ポーションいるか?」
「なんだいあんたぁ!」
「ポーションだって!?」
「あっ! こいつ知ってる! 昼過ぎにここで泳いでやがっただろ!」
「いいからポーションを!」
見たところ手足が千切れたりしてないため、ポーションだけでも大丈夫だろう。
「ほれ、使いな。」
母親達は私からひったくるようにポーションを奪い、子供達に飲ませたり傷口に振りかけたりしている。これで後は治癒魔法使いが適切な処置をすれば助かるだろう。
「おおーい! 治癒魔法使いが来たぞー! 道を開けろー!」
グッドタイミング!
「怪我人はここか! おおっ、すでにポーションを飲ませたのだな! ほほぉ、いいポーションのようだな。よく持ってたな。これなら……」
問題なさそうだな。まったく、子供が海で遊ぶだなんて危険なことを。親の顔が見たいぜ。
「行こうか。」
「そうね。」
「待ちな! あんたが勝手に差し出したんだ! 金ぁ払わないからね!」
「だいたいあんたらが海で泳ぐから子供が真似したんだろう! どう責任をとるつもりだい!」
「そっちの女はいかがわしい服装で泳いでたそうじゃないか!」
「ちょ、あんたらそりゃないよ! 助けてもらっておいて!」
マジかよ……海には魔物、陸にはモンスターってか。
「こんな事態なんだ。こっちだって金を請求する気などない。だが覚えておけよ。今使ったのはローランド王国製の高級ポーションだ。こっちの価格にして一本小判五枚、五十万ナラーだぞ? それが四本で二百万ナラーだ。一言ありがとうって言えば終わったものを……」
大方、先に礼を言ってしまえば金を請求されるとでも思ったんだろう。ちっ、根性の卑しい貧乏人め。一人だけまともな母親がいるようだが……
「なっ!? そんな大金!?」
「払えるわけないだろう!」
「騙そうったってそうはいかないんだから!」
「そんなものをうちの子のために……」
「だから払わなくていいって言ってんだろ。子供の命を助けてもらって礼も言えないのか? ヒイズルの民は礼儀知らずなんだな。ローランド王国に帰ったらみんなに話してやろうか。」
まったく。私の魔力庫には市販のポーションならどっさり入ってるけどさ。それでも安物じゃないんだぞ? やれやれ。おっ、黙ったな。よし帰ろう。
「待てやぁ! うちの子ぁおめえらが泳ぎよんの見て真似したんじゃろがあ! どねぇしてくれんなぁ!」
「そうじゃあ! うちの子らぁに大怪我さっしょってただじゃあ済まんどぉ!」
おやおや、今度は父ちゃんまで現れた。こいつらバカか? 海の危険も教えてないってのか? それを人のせいにしやがって。ムカつくな。
「じゃあ今から飛ぶから真似しろよ。」
『浮身』
『風操』
『隠形』
相手にしてられるかよ。バカらしい。
結局宿の前まで飛んで帰った。
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