第1200話 決闘あるある

お約束のようにギルドには訓練場が併設されている。でもクタナツのより狭いな。田舎の小学校のグラウンドほどもない。

見物人がぞろぞろと集まるとますます狭くなってしまう。




「さあ、君が着替えるのを待ってあげるよ。せいぜい装備を整えたまえ。まさかそのような洒落た服装で戦うつもりでもあるまい?」


ふふ、こいつ私の服装が洒落ていると認めやがったな。当然だろう。こんなオシャレさんはローランド王国にも……にはたくさんいるか……まあ、見た目だけならね。


「お前こそ。そんな着流しでいいのか? 武器を抜いてもいいんだぞ? 遠慮するな。待っててやるからよ。」


「はっはっは。虚勢を張るのもいい加減にしておきたまえ。そんな君でも一応はレィディアレクの昔の男なんだろう? あまり彼女に恥をかかせるものではないよ。腐っても男の端くれだろう? せめて潔く散って見せたまえ。」


こいつすごいな……どんだけ舐めた人生送ってきやがったんだ……


「じゃあ私が立会人をやるわね。二人ともそれでいいかしら?」


さすがアレク。さっきからアシストがすごいぞ。ありがとう。


「いいよ。」


「ありがとう! ぜひとも私の勝利を最も間近で見ておくれ? 大輪の金水仙花より可憐なレィディアレクにこの勝利を捧げよう。しっかりと見届けておいて欲しいな。」


「双方異存はないわね。では……

これより! カース・マーティンと! ナルタ・クウコの決闘を始める! もう一度言う! これは決闘である!

アレクサンドル男爵家が長女アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルが見届ける! 決闘後の異議は一切認めない!」


「双方構え!」


「始め!」


『狙撃』


両肩を狙ったのだが……弾かれた。奴に動いた様子も何か魔法を使った様子もなかった。つまり……魔道具か。それも私の自動防御に似たような。アレクの変貌に驚いてたくせに生意気な。


「へ、へえ……君そこそこいい攻撃するじゃ『榴弾』『徹甲弾』なっ……んなっ!?」


誰が待つかよバカが。ほーらもう壊れた。自動防御は質量攻撃や物理攻撃に弱いからな。では改めて『狙撃』


「ひぃぎゃぁーーーーーーーー! 痛いたたいたい痛いよぉぉぉーーーー!」


肩に穴が空いたぐらいでうるさいな。


『狙撃』


「あんぎゃあーーーーー! きぃいいいあいーーーーー!」


大腿部を貫いたぐらいで大袈裟な。


「あら? 痛そうね。降参するの?」


あいつがアレクを涙目ですがるように見る。痛みで声も出せないって感じかな。


「返事がないってことは降参しなくていいのね?」


アレクは厳しいね。それなら……


『狙撃』


今度は脛を撃ち抜いてみた。


「ぎゃんごぉぉぉぉーーーー! ひぃぃぃーーーー!」


なんだ喋れるじゃないか。


「あらあら痛そうね。降参しないなら死ぬしかないわね。だってこれ決闘だし。」


ヒイズルにおいて決闘がどのような意味合いを持つかは知らんが、私にこいつを殺す気はあんまりない。少し、いやかなり、すっごくムカついたけどギリギリ……命までとるほどではないだろう。降参して金を払えば許してやるさ。

見物人がザワザワしてるな。こいつが負けるのが珍しいのだろうか?


「おい、五秒で決めろ。このまま死ぬか、降参するかをな。」


この後に及んでこいつは私ではなくアレクを見ている。まさか助けてくれるとでも思っているのか? 立会人だぞ? しかもお前とは今日が初対面だぞ? どんだけ世の中舐めてんだ?



「五」



「四」



「三」



「二」


「ふうっ……ぐっご……」


へえ……魔力庫から何か錠剤を出して飲みやがった。地面に這いつくばるようにして。もう少し待ってやるか。




「ふう……よくもやってくれたね……もう許さないか『狙撃』っらぉぉっぎゃあぁぉあ!」


こいつバカなのか? いくら回復しても決闘は続行してるんだぞ? 薬を飲むなら降参してからにしろよな。


「さて、さらに五秒経ったな。では死ね。」


「待て! やめろ魔王!」


ん? おやパープルヘイズのジンマじゃないか。


「いいのか? 正式な決闘を止めるなんて、こいつに恥をかかせてしまうぞ?」


もちろん建前だけど。


「バカ! そんな問題じゃねぇ! そいつの商会はオワダでも随一の大店なんだよ! そんな奴に手ぇ出しちまっ「もう遅いで!」


なんだなんだ? 次から次に乱入してきやがるな。どいつもこいつも名誉ある決闘を何だと思ってやがる。


「てめぇ、よぉもうちの坊ちゃんに手ぇ出してくれたのぉ!? ぶち殺しぁげてくれちゃるけぇの!?」

「ほら坊ちゃん、これ飲んでくだせえ!」

「あんな奴に坊ちゃんが負けるわけぁねぇ! きっと卑怯な手ぇ使ったんだぜ!」

「ぜってぇそうじゃあ! 男の風上にもおけんでよぉ!」


まったく、どいつもこいつも……

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