第1198話 ヒイズル上陸

パープルヘイズのノエリアに伝えたところ、確かにあいつらは少々怪しかったそうだ。今のところ証拠がなかったため野放し状態だったと。そりゃあ海の上の出来事だもんなぁ。現行犯でない限りそうそう証拠なんか出ないよな。例えば夜中に殺して海に落とせば簡単に完全犯罪だもんな。海は魔境と同じだな。いやむしろ魔境より過酷だよな。魔物の強さはそこまででもないけど、出る時はヤバい大物だって出るし。極端な話、もしも高速で移動できるヒュドラなんか出た日には……逃げ切れる船なんか無いよなぁ。




こうして残りの航海も無事に終わり、船はヒイズルのオワダへと入港した。時刻は昼前、夜番を終えて朝食を済ませ少し眠った頃だった。


おおー、これがヒイズルか。ぱっと見バンダルゴウとそんなに違わないな。バンダルゴウをそのまま小さくした感じだろうか。いかにも港街って感じかな。しかし船はバンダルゴウより多い。ざっと三十隻はあるな。つまり国外との貿易以外に国内での海運も発達してるってことか。




「おう、冒険者ども。今回はよくやってくれたな。ギルドにぁよく言っておくぜ。そんじゃあパーティーごとに終了証を取りにこいや。」


終了証を持ってギルドに行けば報酬が貰えるって流れだ。私とアレクは明らかに報酬以上の働きをしたが、その辺りを船長がどう評価したのか。気になると言えば気になるな。

まあ冒険者にしても自分らが乗ってる船だからな。沈めるわけにはいかない。そりゃあ必死に守るよな。


「おうローランドの魔王。今回はかなり助かったぜ。何かあったらオワダ商会まで言ってこいや。女神の嬢ちゃんもな!」


「ああ、楽しい旅だった。船には二度と乗らない気がするが、またな。」


「世話になったわね。いい経験をさせてもらったわ。」


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


船長と挨拶をし、船を降りる。


「おう、カースにアレクサンドリーネだったな。うちの船はどうだったよ? 結局道中はあんま話さなかったな!」


おっ、選抜前に話した航海士ボヤーゲか。


「いい旅だったぜ。海の恐ろしさを堪能させてもらったさ。」


特に船酔いの苦しさを……


「そうかい。それよりお前らこれからどうすんだ? ヒイズルで一旗上げてぇのか?」


「いやいや、ここには観光に来たんだよ。だから特に当てはないな。北回りか南回り、どっちかでヒイズルを一周しようとは思ってるけどな。」


「観光だぁ? 正気かよ……」


そもそも観光って文化があんまりないしね。相当な金持ちや高位貴族の遊びだもんな。


「とりあえずもう眠いんだわ。オワダで一番いい宿はどこだい? 値段は気にしなくていい。」


「正気かよ……冒険者だろ……まあええわい。ここらで一番の宿は『海の天国館』だ。一泊二十万ナラーはすんぞ?」


金貨一枚がだいたい十万ナラーだから、そこまで高いわけでもない。問題ないな。


「ありがとよ。俺らにもし何か用があったらギルド経由で伝言をくれ。何せどっちに行くのかまだ未定だからな。」


「お、おお……あんま無茶すんなよ……じゃあよ、またな!」


「おう。今回は世話になったな。またな!」


「またね。」


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


さてと、何はともあれまずはギルドだな。あそこにパープルヘイズがいることだし、一緒に行けばいいだろう。




「よう。長旅お疲れだったな。」


「ひゅーう魔王か。おかげで随分と楽させてもらったぜ? どうよ、飲みに行かねぇか? 奢るぜ?」


私が声をかけたのはパープルヘイズのリーダー、ジンマだ。


「すまんな。夜番明けで眠いんだよ。ギルドに行くんだろ? それから寝るつもりだからさ。」


「なんでぇつれねーなー。船じゃああんま話せなかったからよー。うちのノエリアとばっかり話してたんだろぉ? ずりーぜー。」


「まあオワダには何日か滞在すると思うしな。また飲もうぜ。」


「それもそうかぁ。で、宿ぁ決めたんかー?」


「えーと、アレク。何てとこだったっけ?」


「海の天国館よ。」


「はぁー!? マジかぁ!? そんなとこに泊まるつもりなぁ!? 金あんのかぁ!? まあ今からの報酬が最低百二十万ナラーあるからよー。一週間程度なら大丈夫か……」


それもある。だが本命の金策は別にあるのさ。いくらになるか楽しみだ。




そうこう話していたらギルドに到着。うーん、外国なのにギルドの建物自体はローランド王国とさほど変わりがないなー。違うのは入り口にウエスタン風スイングドアが無いことだろうか。普通に引き戸が開けてあるだけだ。


中もほぼ変わらない。受付があり受付嬢がいる。そして依頼票の数々に併設の酒場。これは私にはありがたいな。あれこれ覚えるのは面倒だからね。


昼前なのでそこまで混んではいない。少し待つだけですぐに私達の番になった。


「いらっしゃい。新顔ね。オワダへようこそ」


すごいなこの人、きっちり顔を覚えてるのかよ。


「ローランドから来たカース・マーティンってモンだ。サンタマーヤ号の依頼が終わった。これを頼む。」


終了証を提出する。


「はい、確認するね。終わったら呼ぶから適当に待っててね」


「分かった。」


そこまで時間がかかるものでもあるまい。適当に内部を見物してようかな。



「そこな麗しのレィディ? 一目あったその日から恋の花咲くこともあります。どうか私にあなたとランチを共にする栄誉をお授けいただけないでしょうか?」


なんだこのイケメンは。線が細いな。これでも冒険者だってのか? 鎧などではなく革のパンツに短めの着流しか……いい服着てんじゃないか。

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