第1184話 護衛依頼受注

昼のギルドはそこまで混んでない。受付もほぼ並ぶことなく私の番だ。


「ご用件をお伺いします」


「二週間後に出発するヒイズル行きの護衛依頼を受けたい。この二人でだ。ペットを二匹連れてるがどちらも戦力になる。が、その分の報酬を寄越せとは言わない。問題あるかい?」


コーちゃんとカムイをペットと言うのは抵抗があるが、この場合は仕方ない。かと言って猟獣でもないし、召喚獣と言う気もないしね。


「ほぼ問題はありません。船内での契約魔物やペットの扱いはヒイズルの法に準拠しますが、ローランド王国とほぼ変わりはありません。飼い主が全責任を負うということですね。後は餌でしょうか。冒険者の食事は依頼主負担ですが、ペットは別です。ご準備をお忘れなく。それでは依頼を確定してよろしいでしょうか?」


「頼む。当日までに顔合わせなどは必要かい?」


「一週間後に軽い選抜試験のようなものがありますが、カース様はクタナツの六等星ですから問題ないかと」


「場所はここで?」


「そうです。ギルドの訓練場ですね。来週のサラスヴァの日、朝九時からとなっております」


「分かった。よろしく頼む。」


よし、これで一週間ほど暇だな。とっととヒイズルに飛んで行ってもいいが、ここは旅を楽しむのだ。時には不便なのもいいものさ。




「よしアレク、お昼にしようか。せっかくだから隣で食べようか。」


「そうね。たまにはギルドで食べるのもいいわよね。コーちゃん達を呼んでくる?」


「いや、もう呼んだよ。ほら来た。」


最近コーちゃん達にも『伝言つてごと』が使えるようになったんだよね。それまでも心と心が通じ合ってたからほぼ変わりはないんだけど。


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


分かってるって。コーちゃんは酒、カムイは肉の塊だよな。あればいいけど……




あった。酒はともかく肉は特注だった。二メイルほどのシーオークの丸焼き、一匹丸ごと出てきた。焼くのは大変だったろうに。

私とアレクはギルドの定番オークのジンジャー焼き定食、いやこれはシーオークのジンジャー焼き定食だ。うーん、オークとシーオーク……大きさではシーオークだが、味では甲乙つけがたいな。シーオークの方が脂少なめだが、どちらも旨い。




さて、昼食も済んだことだし何しようかな。宿は連泊の手続きをしてあるから問題ない。昼間っから賭場って手もあるな。


「ねえカース。海に行ってみない? 私達が乗る船も確認しておきたいし。」


「さすがアレク。それはいい考えだね。よし行こうすぐ行こう。」




以前エルネスト君達が魚釣りをしていた岸壁から北に三キロルぐらい。そこに船が停泊する港がある。バンダルゴウの港で通称『バンダルこう』誰が言い出したのやら。


私達が受けた護衛先はオワダ商会。船の名前はサンタマーヤ号。どことなく新大陸を発見しそうな名前だな。どれかなー。


おおぉー、デカいなぁ。これかな……


「これが噂の最新型の船かしら? 四日後に出港するって言う……」


あら、これじゃないのね。例の割のいい護衛の件か。先王の船、バーニングファイヤーメガフレイムほどではないが全長百メイルはあるかな。私の浮身で持ち上がるだろうか。気になるな。

それよりサンタマーヤ号はどれかな?


港全体で十艘もないためすぐ見つかった。他の船は帆船っぽいのだが、この船は漁船っぽい。全長は五十メイルないぐらいか。漁船をそのまま大きくしたって感じかな。帆はまだ張ってないのか。まさか終始魔法で動かすわけでもあるまい。

それにしても真っ白なボディが美しいな。見た感じフジツボなんかも付いてないようだ。よく整備されてるんだな。


「おう、見るのぁ構わねぇがあんまり近付くんじゃねぇぞ?」


おっと、いかにも海の男って感じだな。浅黒く日焼けして髪は赤茶けている。


「もしかしてサンタマーヤ号の船員さんかい? 俺は護衛依頼を受けた六等星カース。こっちは八等星アレクサンドリーネだ。今回はよろしく頼む。」


「ほぉう? お前みたいなガキでも六等星かよ。こいつぁ恐れ入ったぜ。俺はこの船の航海士ボヤーゲってんだ。生まれはバンダルゴウだがヒイズル育ち、オワダ商会の専属航海士よぉ!」


よく意味が分からないな。専属じゃない航海士もいるってことか? そして元ローランド王国民だがヒイズルで働いてるってことだよな? 変わった奴もいるもんだな。


「ところでこの船は何で出来てるんだ? 明らかにこれって金属だよな?」


他の船の外装はほぼ木で出来ているが、このサンタマーヤ号はどう見ても金属なんだよな。しかも私の目が確かなら……


「んー、ローランドのモンは知らんだろうぜ。ちーと特別な金属だからよ。おかげで沈没知らずだぜ!」


「アイリックフェルムだろ? よくこんなにも量があるよな。オワダ商会ってのは相当景気がいいようだな。」


「知ってやがったか……お察しの通りウチぁ港街オワダでも随一の商会だからな。かつては天王てんおう家の御用も承ったぐらいなんだぜ?」


過去形か……色々あるんだろうな。まあそこは聞くまい。


「そいつは凄いな。おっと、時間を取らせて悪かったな。船上でまた話を聞かせてくれよ。代わりに色々と面白いものを見せてやるからさ。」


「ほおぅ? ローランドもんの六等星がどれほどのモンか楽しみにしてるぜ! カースにアレクサンドリーネだったな! 選抜に落ちるんじゃねぇぞ!?」


「ああ、じゃあまたな。」


「よろしくお願いしますわ。」


「ピュイピュイ」


「ガウガウ」


アレクを見て目の色を変えない代わりに鼻の穴が膨れてたな。全力でアレクの香りを嗅いでやがった。素直な奴で好感が持てるな。護衛と言えば人間関係が面倒くさそうだからな。船の幹部と良好な関係を築いておくに越したことはないよな。

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