第1179話 荒らしの後の食事
「ねえカース。他の組織は潰しておかなくていいの? 特にエチゴヤなんか害悪な気もするけど。」
アレクが言うのも当然だよな。少し挨拶に行くぐらいならいいかな? まあ、明日の話だけど。
「おーいタムロ。エチゴヤに行きたいんだが場所知ってるか?」
「窓口の一つぐらいなら……正気かぁ? おめぇムラサキメタリックに勝てるんかぁ?」
「勝てるっつーか勝ったぞ。王都動乱の話を知らんのか? あ、それで思い出した。偽勇者って知ってるか? 自分のことを勇者ムラサキと思い込んでた頭のイカれた大男。」
「あいつかぁ……知ってるでぇ……あいつにぁウチも煮え湯を飲まされたけぇのぉ……」
おお、面識があるのか。
「あいつについて何か知ってるか?」
「いや……知らねえ……エチゴヤの連中も持て余しているようだったのぉ……」
うーん、エチゴヤに関係はあったのか。バカだからヤコビニ派に譲り渡されたとか? あいつはまた現れるのだろうか。七回生まれ変わるって……そんなバカな。
「まあいいや。もうすぐ夕方だし行くのは明日にしよう。ようランディ、バンダルゴウで一番の宿に案内してくれよ。飯と酒ぐらい奢るぜ?」
「おお……まったく、魔王さんと行動すると生きた心地がしねぇぜ。一番の宿となると……
残念ながら一番いい部屋は空いてなかった。代わりに適当な部屋をとることはできた。それから改めて食堂へと降りる。このレベルの宿には似つかわしくない野郎どもが十数人も飲み食いしている。いつの間にこんなに増えたんだ? まあいいや、私達も食べよう飲もう。
「アレク、バンダルゴウの夜に乾杯。」
「辺境の一番亭ほどではないけど、それなりにいい宿ね。この夜に乾杯。」
「ピュンピュイ」
コーちゃんはいつものように酒だ。カムイは私達のことなんか無視して肉にくらいついている。いや、よく見るとあれはシーオークか。あれはあれで旨いんだよな。さすが港町。
うーん、海の幸がたくさんだな。さすが一流の宿だけある。沢蟹っぽいやつの素揚げが旨すぎる。一口サイズの蟹を油で揚げて、そこに軽く香辛料と岩塩を振っただけの料理なのに、エールにめちゃくちゃ合う。一流の宿はきっと料理人も一流なんだろうな。スパイシー。
「なあ、魔王さんよぉ……」
「ん? どうした兄貴。蚊の鳴くような声出してよ。」
「ランディって呼んでくれよ……そりゃ弱気にもなるぜ……明日ぁエチゴヤに行くんだろぉ? 俺らぁ付き合いがないから分からねぇけどよぉ……タムロ達のシーブリーズよりかなりでけぇ組織なんだよなぁ? 下手すりゃヒイズルって国を相手にすることになんじゃねえのか?」
「なんだランディ。エチゴヤはただの闇ギルドじゃないと思ってんだな? 例えばヒイズルが国を挙げてバンダルゴウを獲るために送り込んだ先鋒じゃないかってな?」
「そこまで分かってんのかよ……分かっててやんのかよ……相手は国だぜ?」
「単純な話、お前ならローランド王国とヒイズル、敵に回して恐ろしいのはどっちだ?」
「そ、そりゃ、どう考えてもローランド王国だけどよお……」
国力的にも戦力的にも当然だよな。私達が知らない情報があれば話は変わるが。例えばヒイズルが核兵器を持っているとか。さすがにあり得ないわな。だいたい核なんか持ってたってどうやって運ぶのかって話だし……ん? 魔力庫で一発だな……魔力庫に入れておいて、普通に王都とかに行って、魔力庫から出して自爆すれば……
いやいや、あり得んあり得ん。技術ってのはそんなワープするかのように発展するもんじゃないんだよな? 日進月歩という言葉があるように地道な研究と実践を経て、少しずつ進歩していくはずだよな。銃すらないんだから核なんかあるはずがない。私はまだ酔ってもないのに何を考えてるんだか。
そもそも私の魔法『超圧縮業火球』なんかはその気になれば核並みの熱線を出すことはできる。放射線をバラまくことはないだろうけど。
「だろ? だったら何も気にすんな。むしろローランド王国民ならヒイズルを叩き出すぐらいのことを言えよな。」
「そう言われてもよぉー、そんなでけぇ話考えたこともねぇぜ? せいぜいバンダルゴウを守るぐれぇのもんだわ。」
愛国心と愛郷心の違いってやつか。儲けることしか考えてない闇ギルドに比べたらずっと立派だよな。これが闇ギルドと地回りの違いか。で、地回りって何なんだ?
「おうおうおう、魔王おう? おんしゃあマジでエチゴヤと事を構える気ぃなんかぁ!?」
タムロの奴、もう酔ってんのか。
「さあな。それはあいつら次第じゃないか? こっちはわざわざ揉めようとは思わないさ。」
感情的には気に入らないが、わざわざ敵を増やそうとも思わないからな。
「うぐっ……魔王よぉ……」
「ん? どうした?」
タムロがいきなり涙ぐんでるぞ……
「やるんなら徹底的にやってくれよぉ! エチゴヤの奴らを皆殺しにしてくれよぉ!」
「そりゃまたどうして?」
「ぐすっ、そりゃあな……あいつらが鬼畜じゃからいや! なんせあいつらぁのぉ……」
タムロの話は一気に酒を不味くした……
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