第1176話 ヒイズルの出城
出された酒は『アムレティア』
前回もこれを飲んだような気がする。
「ピュイピュイ」
まあまあ美味しい? コーちゃんは酒に厳しいね。
「そんで? 俺に何の用だ?」
酒場内が少しピリピリしてるかな。でもアレクは美味しそうに酒を飲んでる。カムイは肉だ。
「もちろん例の件さ。ヒイズルの奴らはここにどんだけ入り込んでんだ? 大金貨一枚もくれてやったんだ。ちっとは調べてくれたんだろ?」
「あー、少しだけな。俺らだってよ、ここを
ふむふむ。なるほど。
ヒイズルの奴らのここでの本拠地は見つかってないが、窓口を一つだけ見つけたと。今は真っ当な取り引きをしているが、いつかは雌雄を決するだろうと。
「ほほう。よく見つけたな。ところでその取引品目にムラサキメタリックってあるのか?」
「いや、ないぜ。白い武器や鎧ならあるけどな。」
「へえ、アイリックフェルムか。値段はどれぐらいなんだ?」
「防具一式で金貨二百枚ってとこだな。あの金属のやつは高く売れるからよ。悪くねぇ取引だな。」
「ふーん。それって一応は
「ああ、その白い金属を正規のルートで入れると関税がバカ高ぇらしいぜ。他には薬とかだな。」
「ピュイッ!」
おっと。お薬と聞いてコーちゃんが反応したぞ。
「その薬は今あるのか? 少し売ってくれよ。うちの蛇ちゃんが好物なんでな。」
「あー、ちっとだけな。魔王から金はとれねぇ。やるよ。」
「ピュイピュイー」
コーちゃんがさっそくチロチロとひと舐め。
「ピュイー」
あーあ。それは残念だったね。
「粗悪品だとよ。お前らって品質確認しないの?」
「いいんだよ。その分安いからよ。南の大陸産は品質はいいが高すぎんだよ。」
コーちゃんの好みはあっちだもんな。それにしてもヒイズルからは薬まで入ってきてるのか。どこまでも舐めた奴らだ。
「さて。その窓口だけどよ。なくなったら困るか?」
「困ることぁ困るがよ。どうせ食うか食われるかの関係なんだ。それが多少早まっても構いやしないぜ?」
「それなら構わんな。ヒイズルに行く前の一暴れといくかね。アレクも行くよね?」
「当たり前じゃない。カースが行く所はどこにでも行くわ。」
「よーし、じゃあ兄貴よお、案内してくれや。心配すんな、今日は暴れないから。顔つなぎだけ頼むわ。」
「ランディって呼べよ……まあいい。おいマユゥミ、今から俺が行くことを奴らに伝えておけ。」
「はい兄貴!」
ご丁寧に先触れするのね。
さて、ヒイズルの奴らか……楽しみだな。
ちなみにアレクには着替えてもらった。これまた私が贈ったドラゴン革のウエストコートにミニスカート。これはこれで扇情的なんだよな。早く宿に行かねば。
「いつの間に着替えたんだよ……貴族だろ? こんなに脚を出して……娼婦でもやんねーぞ?」
「最高だろ。うちのアレクの美しさをお前らにも見せてやろうと思ってな。」
まあ本当は少し危険な所に行くから防御を固めただけだがね。脚の防御がスカスカなのはご愛嬌ってことで。
歩くこと十五分。着いたのは似たようなスラムの似たような建物。こんなの地図があっても絶対到着できないな。
「邪魔するぜ。タムロいるか?」
ぐへぇ、埃っぽい。掃除ぐらいしろよな。
「これはこれはランディさん。ようこそ。今日はどのようなご用件で?」
「お前らも聞いたことぐらいあるだろ。こちらクタナツの魔王ことカースさんだ。お前らと取引がしたいんだそうだ。」
「どーも、魔王でーす。ムラサキメタリックが欲しいなー。いくら?」
自分で自分を魔王と呼ぶのはちょっと妙な気分だが、だいぶ慣れてきたんだよな。
「これはこれは、お初にお目にかかります。しがない商人タムロ・マツモでございます。」
「俺はカース・マーティン。ムラサキメタリックが欲しいんだよね。それから換装が使えるように所有者登録だっけ? あれも頼むよ。」
「所有者登録ですか? どこでそのようなことをお聞きに? 本国でないとできないそうですよ。あたしら平民にはとてもとても。」
「そうかい。じゃあ本国のどこを訪ねたらいいかな? ちょうどあっちに行く用があってな。」
「さぁどうですかね? あの技術をお持ちなのは一握りのお偉方だって話ですから。天都イカルガにでも行かれてはどうでしょう?」
「じゃあ紹介状を書いてくれよ? 天都にも網は張ってあるんだろ?」
「いやぁそれはご無体な。私達は本日お会いしたばかりです。信頼というものは長い時間をかけて育むものではないでしょうか?」
どの口が言うかって話だな。ヒイズルの闇ギルドみたいなもんだろうに。
「いくらだ? 金貨でも鉄でもたっぷり払ってやるぜ?」
「こればかりは金で買えるものではありませんね。どうぞお引き取り願います。ランディさん、このようなお人を連れてきてどういうおつもりですか?」
こいつの言うことは正論なんだが、密入国者のくせに生意気だな。
「なぁに。お前らが俺らを潰したがってんのは分かってる。お互いこんな稼業なんだ。いつかはこんな日が来ることぐらい分かってたろ?」
あれ? 私として今日は揉めずに大人しく帰るつもりだったのだが。
ぞろぞろと私達を取り囲むならず者。体つきはローランド王国民より少し小さいか。だがその分筋肉が詰まってそうだな。 セキヤの奴が私達をヒョロヒョロと言うのもあながち間違いでもないのか。
「ランディさん。あなたとは末永くお付き合いをしたかったですよ。あなたが死ぬ日までね!」
一斉に武器を抜き襲いかかってきた。
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