第1162話 クワナの依頼
北の街と岩石砂漠を往復すること数十回。かなりの岩が城壁内に積み上げられた。そろそろ夕方だし、こんなもんかな。
「カースや、今夜は泊まっていくんじゃろう?」
「そのつもりです。おじいちゃんとこの隣にでも。」
私には四角錐簡易ハウスがあるからな。
「まさか野宿か! いかん! いかんぞぉ! うちに泊まるんじゃ!」
「はは、違いますよ。後で見せますね。」
「そ、そうか……まあよいわ。それより腹がへっておろう? 夕食の時間じゃ。」
普段はバラバラに食べることの方が多いそうだが、今日は違う。クタナツからの救援物資を私とアレクが届けたのだ。そして昼間の大活躍。いやが上にも盛り上がるってもんだ。
『皆の者! 本日もお疲れだったな! 本日はクタナツの魔王カースと氷の女神アレクサンドリーネが大量の物資を届けてくれたぞ! クタナツ代官レオポルドンからのものだ! 我らノルドフロンテとクタナツは今後も共に発展してゆくだろう! 乾杯!』
あちこちでコップが掲げられ、宴が始まる。町の名前はノルドフロンテと決まったのか。いい名前だ。
「カース、アレックスもよく来てくれたわね。」
「おばあちゃん! お元気そうで何よりです!」
「お久しぶりでございます。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
よかった。こっちのおばあちゃんは無事だ。多少疲れや衣服の汚れが見えるが元気は元気そうだ。
「さあ、食べながらこの一年のことを聞かせてちょうだいね?」
この一年のイベントと言えば……
「なんですって!? イグドラシル!? 寿命が!?」
「なんですって!?
おばあちゃんをたくさん驚かせてしまったな。私の中ではあっと言う間だったよな。全然一年経った気がしない。
「それで、今度は東のヒイズルに行くんだったわね。気をつけるのよ。あの子達の話によると政情不安な気がするもの。」
あの子達……あー、自称勇者のセキヤとクワナね。確かあいつらは食いつめて逃げてきたとか言ってたな。普通なら事前にしっかり情報収集をするべきなんだろうが、しない! 観光目的で行くのだ。些末な事は行ってから知ればいいさ。なんなら暴れてもいいし。ローランド王国を狙うなんざ舐めた真似しやがって……
「魔王さん魔王さん……」
ん? おっと、噂をすれば。
「クワナか。久しぶりだな。」
「あの、ちょいと聴こえたんですが、魔王さんってヒイズルに行かれるんですか?」
「ああ。二週間後ぐらいに出発するかな。」
どうやって行こうかな。飛べばすぐなんだけど、せっかくだから正規ルートで行くのもいいな。えーい、引っ張るな。話ぐらい聞いてやるって。
「その……あの……手紙を、渡してもらえないですか……」
「確約なんかできんぞ? 会えるかどうかも分からないってのに。」
「もちろんです……だめならだめでいいんです。もし、立ち寄るとかたまたま出会ったら渡してくれる程度で……これ、些少ですがお礼です……」
小判じゃないか! ヒイズルの貨幣は小判なのか!?
「これ一枚で十万ナラーの価値があります。ローランド王国の金貨一枚相当だとお考えください……」
ヒイズルの貨幣単位はナラーか。ローランド王国の貨幣単位はイェン。そして金貨一枚は十万イェン。王国内では誰も使ってない言葉だけど。
そしてこの小判、明らかに王国の金貨一枚より重い。つまり、王国の金貨の方が価値が高いと言える。まあ二国の国力を考えたらそんなもんだろうな。
「いいだろう。約束はしないが預かるだけ預かってやる。で、住所と相手の名前は?」
「
「分かった。一応手紙の表にも書いておいてくれよ。忘れたら大変だからさ。」
天都って何だよ……
「ちょっとクワナ、あなた一体どんな身の上なのよ?」
どうしたアレク? 何か気になる点があったのか?
「申し訳ありません……今は言えません……でも、天都イカルガに行って……アスカ・フルカワに会えたなら……分かるかと……」
「まあいいわ。隠す意味があるとは思えないけど、あなたの自己満足に付き合ってあげるわ。カースには後で説明するわね。」
お、おお……さすがアレク。何もかもお見通しなのか。頼れるぜ。
「どうか、お願いします……」
元々腰の低いクワナがさらに小さくなってお願いしてきやがったな。セキヤはセキヤで自信過剰だけど。足して二で割ればちょうどいいんだろうな。クワナの身の上か……そこまで興味はないが、今から訪れる国のことだしアレクからきちんと聞いておこう。
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