第1161話 北の開拓地
翌日、早起きをした私達はクタナツの北門で合流し、北へと向かった。昨夜は私もアレクもそれぞれの実家へと泊まり、本日の北行きの英気を養っていたからな。今日はコーちゃんとカムイも一緒だ。
眼下に見えるバランタウン、ソルサリエを通過しヘルデザ砂漠の西側を飛ぶ。先王は元気にしてるかな。まあ先王よりおじいちゃんとおばあちゃんが気になるんだけどね。
さて、そろそろ砂漠を通り過ぎる。北の街が見えてくる頃か……
見えた!
なーるほど。
建物はまだまだ掘立小屋レベルだが、平野がかなり広がっている。そしてその外、特に北側には丈夫そうな城壁が連なっているではないか。
おっ、第一開拓民発見。着陸だ。見た感じ冒険者のおじさんって感じだな。
「やあおはよう。僕はクタナツの六等星カース。今日は先王様はどちらにいらっしゃるかな?」
「も、もしかして魔王さん? そっちは氷の女神様?」
「そうだよ。先王様にお届け物を持ってきたもんでね。」
「なんと……クタナツから! 先王陛下なら北の城壁作りの指揮をしておられるかと」
「ありがとう。大変だと思うけど開拓がんばってね。」
「がんばってくださいね。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
北ね。行ってみるか。
到着。おおー、みんな頑張ってるね。地面を掘り下げて、固めて、砂利を敷き詰めて、その上に岩を積み上げるのか。楽園の城壁と違ってえらく本格的に作るじゃないか。当たり前か。
おっ、いた。
「陛下、お久しぶりです。クタナツ代官からお届け物です。」
先王と呼ぶべきなのだが、このオッさんを目の前にすると、つい陛下って呼んでしまうな。これが風格か。
「おおカース、アレックスか。一年ぶりか。よく来たな。コーネリアスにカムイも元気そう……ん? カムイはそんなに小さかったか?」
「ガウガウ」
「色々あってカムイは大人になったんです。それより物ですが、どこに置きましょう? 結構ありますよ。」
国王とカムイって面識あったっけな? まあいいや。
「ここでよい。ひとまず余の魔力庫に入れておくとするさ。」
「分かりました。」
魔力庫どーん。
「おお、これはありがたい。レオめ、奮発してくれおって。」
「それからこちらはお代官様からの手紙です。返事が欲しいそうです。」
「そうか。昼時にでも目を通しておこう。ついでだ、これを持って帰るがいい。」
先王の魔力庫から出てきたのは大量の魔石、それに魔物素材だった。
「さすがですね。豪華メンバーが揃ってますもんね。狩り放題ですか。」
「さすがに魔境は甘くはないわ。幸いにしてまだ死者は出ておらんが、怪我人が絶えぬ。まったく……難儀な場所よの。」
「お預かりしますね。お代官様はお金に困っているらしいので喜ぶと思います。」
「くっくっく。あやつも愚か者か。おそらくだが辺境伯ドナシファンも似たようなものであろう。因果なものよ。為政者など金がいくらあっても足りぬわ。」
「そんなもんですか。まともにやるって大変ですね。」
たぶん悪徳領主ほど儲かるんだろうなー。長い目で見たらそうでもないんだろうけどさ。
「せっかくここまで来たのだ。アントン達にも会っていくがいい。」
「ありがとうございます。少しぐらい手伝っていきますね。」
一泊ぐらいするのもいいかな。
おっ、いたいた。おじいちゃんだ。
「おーい、おじいちゃーん!」
「ぬおっ!? カース! カースか! よく来たぁ! のおっ!? アレックスもか!」
「お久しぶりですおじいちゃん。」
アレクもおじいちゃんと呼ばないとスネるんだよな。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
「おうおう、みんなよく来たの。一年ぶりか。大きく……なってないの。全く変わっておらんではないか。不思議なこともあるもんじゃて。」
「その辺りの事情は夜にでも話すとしまして、おじいちゃんは今どんな仕事してるんですか? 手伝いますよ。」
「なんと! 手伝うだと! うはぁ! お前はなんとできた孫なんじゃあ!」
おじいちゃんってこんなにテンション高かったっけ? 孫バカっぷりは変わってないが。
「ワシはここで石切をしておる。城壁用にの。カースもやってみるか?」
「やります! サイズはどんなもんですか?」
「ほれ、これじゃよ。これと同じだと扱いやすいのぉ。」
底面が五十センチ四方の正方形、高さが一メイルの直方体か。意外と小さいな。でもこのサイズなら積みやすそうな気もする。
『水鋸』
均一に切るならやっぱこれだな。母上みたいに風斬でスパッと切ってもいいが、サイズを揃える必要があるからな。
私が切っている間、アレクは切れっ端の片付け、カムイは城壁の外へ遊びに行った。コーちゃんはそんなカムイの首に巻きついて一緒に行ってしまった。夕方までには帰ってくるそうだ。
そして昼休憩。
「なんとカースや……恐れ入ったぞ……」
「いやぁ、大したことないですよ。」
ふふふ。そこらにあった石材は全てカットしてやった。もちろん全て同じサイズ。切れっ端はレンガサイズに切ったり、砂利代わりに使うそうだ。
「アレックスもじゃ。カースの作業を邪魔せぬよう、カースが作業しやすいよう上手く助けておったな。見事じゃ。」
アレクは切れっ端の片付けだけでなく、次に切るべき石を運んでくれていたのだ。さらには切り終わった石を一ヶ所に集めたりと見事なアシストを見せてくれた。おかげで私は石を切る以外に何もしなくて済んだ。水鋸をじっと動かさず固定し、浮身で岩を動かすだけでよかったのだ。
「恐縮ですわ。」
「昼からは岩を取ってきましょうか? いくらあってもいいですよね。」
「うむうむ、ほんにカースは気が利くのぉ。ええ子じゃあ。ぜひとも頼んだぞ。」
岩なんて砂漠地帯にはいくらでも落ちてるもんな。拾いまくってやるぜ。
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