第1150話 サマニエルの置き土産
一匹目の魔物から何時間経ったのか。私の魔力はとっくに空っぽだ。もう魔力ポーションも二本飲んでしまっている。カムイとクロミがいなければとうに死んでいるだろう。
「金ちゃん行ったよ!」
カムイは強力な魔物は仕留めてくれるけど小さい魔物は素通しする。それをクロミが退治するのだけれど、それでも撃ち漏らしはある。それを私が相手している。いくら魔力がなくとも、私にはカースから貰ったサウザンドミヅチの短剣がある。例え山岳地帯の魔物でもこの刃の前には紙のようなものだ。それに私の装備はカースとお揃い、ドラゴンのウエストコートだ。スカートが短いのが少し恥ずかしいけど、思いの外動きやすい。アイリーンの叔母、ベルベッタ様が愛用するのも分かる。
魔法なしで、こんな間近で魔物達と相対するのは怖い。でも、私の背後にはカースが眠っている。ここは絶対に通さない。
あれ? おかしい……カースが作った毒の塊が消えている……あんな物、誰も盗むはずがないし、魔物が食べるはずもない……
そしてカースから魔力の高まりを感じる。やっと起きたのだろうか……
ふぁーあ。よく寝た。変な邪魔が入ったけど目覚めはバッチリだな。コーちゃんおはよー。
「ピュイピュイ」
ん? 手の中に……あの神の置き土産か。よし、フェアウェル村の村長へお土産だな。伯父さんにあげてもいいけど、こんなヤバそうな物をローランド王国に持ち込みたくないしな。
「アレクおはよー。心配かけたね。後は任せてよ。元気になったから。」
「もー……大変だったんだから。バカ……」
「あはは、ごめんごめん。とりあえず……」『浄化』
アレクのきれいな顔が血まみれだもんな。きれいきれいしようねー。
それにしても結構魔物が来たんだな。カムイもいることだし、全然心配してなかったけど。
「おーいクロミ。悪かったな、助かったよ。ありがとな。後はやっとくよ。」
「あーニンちゃんやっと起きたのー? もー!」
とりあえず大物から収納してと……うーん、さすが山岳地帯。よく知らない魔物が多いな。まあ後でカムイの食事だろうな。私達もご相伴に預かるとして。
近寄ってくる魔物は適当に『狙撃』
ふふふ、また威力が上がっている。今回は解毒を鍛えることで魔力の制御力が上がったもんな。そして全体的に魔力の消費量が下がったぞ。ふふ、まだまだ鍛える余地が残ってるってのは嬉しいものだ。母上のように鮮やかで高威力、なおかつ省エネ。そんな領域に辿り着きたいものだな。
よし、全部収納終わり。もうここには用はない。本当は婆ちゃんの墓を作っておきたいところだが、今回はここまでだ。安全第一で行動しないとな。
「ピュイピュイ」
え? 何か落ちてるって?
あそこは婆ちゃんが居た所だが……え? これって魔石?
「なあクロミ、ダークエルフってのは死んだら魔石を残すのか?」
「いやいや、そんなの聞いたことないし!」
まあいい。これは大事な婆ちゃんの形見だ。墓を作った時、中に納めるとしよう。
「そもそもここ数百年で禁術・毒沼を使ったエルフがいるなんて聞いてないし! その上、禁術を使って安らかに死ねたなんてあり得ないし! どんな分からないことが起こってもおかしくないし!」
「なるほど……一理あるな。よし、じゃあフェアウェル村に戻るとしよう。みんなに報告をしないとな。」
現村長だって口では婆ちゃんを見捨てるみたいなことを言っていたが、心配でないはずがないからな。早く安心させてあげないと。
「ね、ねえカース。カースが固めた毒が見当たらないの……一体どうしたことかしら……」
「あー、それなら気にしなくていいよ。実はさっきね毒と腐敗の神 サマニエルって奴が夢枕に立ってさ……」
説明した。あれだけもの毒だ。張本人としては欲しくて仕方ないだろうからな。あ、張本神か?
「じゃあそれがサマニエル様からのいただき物なのね?」
「そうなんだよ。どうみてもただの黒い石だけど、絶対ろくなもんじゃないよね。行き場のない絶望に身を包まれた時に使えってさ。」
「行き場のない絶望……もしカースが……いや、何でもないわ。さあ、帰りましょうよ。これでまた旅を再開できるわよね?」
「もちろんだよ。楽しみだね!」
いよいよだ。ついに行ける、東の島国ヒイズルへ。
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