第1142話 歓迎の儀式

アーさんに先導され村の広場へと向かう。


「アーダルプレヒト、私はその儀式を受けなくてもいいのか?」


「出奔したとは言えお前は同胞だろう。必要あるまい。」


「そ、そうか……私を同胞と呼んでくれるのか……」


マリーが嬉しそうだ。


「ウチはいいのー? それってウチらの習慣じゃんね?」


「お前は確かクロノミーネハドルライツェンだったな。ソンブレア村のダークエルフ族もすでに同胞扱いだ。よって必要ないと村長が言っている。」


「あ、ありがと……」


なるほど。エルフは同胞扱いされると喜ぶのか。これはエルフあるあるなんだな。




「適度に距離を空けて並べ。」


広場の中央辺りに母上、伯父さん、お姉ちゃんが立つ。お姉ちゃんだけ不安そうだな。母上は何が起こるか分かっていそうだ。


あ、村長が来た。


「それではこれより歓迎の儀式を始める。全員構えよ。」


広場の周りには大勢のエルフが集まっている。彼らの魔力が高まっていく。


「撃て!」


やはり全員から魔法が放たれる。全然見えないな。風系の魔法か。お姉ちゃんは氷壁で堅実に防いでいる。だが、すぐに破壊されてしまった。構築が追いついてないな。人数が多過ぎなんだよ。あーあ吹っ飛ばされた。それを対面のエルフが優しく受け止めている。親切だね。

お姉ちゃんとは対照的に母上は何もせず立っているようにしか見えない。いや、分かってるよ。魔力感誘なんだよな? 何十人ものエルフの攻撃を涼しい顔して逸らしてさ。たぶん魔力もほとんど消費せずにやってるんだよな。やっぱ母上すごいわ。


「あれがエリザベスお義姉様が言ってたお義母様の棲む領域なのね。桁が違いすぎるわ……」


「すごいよね。僕の榴弾ですらああやって逸らしてしまうんだから。かっこいいよね。」


それより伯父さんの姿が見えないぞ? いつ消えたんだ?


「そこまで!」


村長の声がかかる。エルフ達の視線が分かれてるな。母上を驚きの顔で見る者が大半、それ以外が村長を見ている。あ、伯父さん、そんなとこに居たのか。


「いきなり殺そうとしてきたんだ。殺されても文句は言えないよな?」


後ろから村長の喉元にナイフを突き付けて言う。かっこいいなぁ。


「見事な転移よ。そしてナイフを取り出すまで何の気配もなかった。わざわざ首を狙わずとも背中を刺せばよかったものを。人間は甘いのう?」


「くくく、姪と甥が世話になってるんだ。本気で手出しをする気はないさ。だいたいナイフぐらいじゃアンタは殺せない。そのぐらい分かるぜ?」


「ほほう。さすがカース殿の身内よの。よし、ではこの二名を賓客として迎える! ではこれより宴を始める! 皆の者、杯を持て!」


すごいな。伯父さんも短距離転移を使えるのかよ。母上の兄なら当然なのか? 私が使えない魔法がどんどん増えていくような気がするぞ。結構悔しいな。センス……才能か……




それからいつものように宴が始まった。私はアレクとクロミに挟まれて、はいあーん攻撃をくらっている。楽しいな。

母上はエルフの野郎どもに囲まれて酌をされているようだ。モテモテか。すごいな。

伯父さんは姿が見えない。お姉ちゃんの所に行ってるんだろうな。我が子をあんな目に遭わされたら怒って当然だよな。

まあお姉ちゃんもまだまだ甘いってところかな。あれだけの魔法を撃ち込まれたら仕方ないとも言えるけど。結構厚めで丈夫な氷壁だったけど、エルフの魔法はさすがと言ったところか。あー酒も料理も美味しい。


それから、酒を飲みがてらソンブレア村の新村長やフェアウェル村の村長を交えて情報交換を行った。と言っても私が言うようなことはあまりない。母上と伯父さんがあれこれと伝えて、各村長から意見を貰っていた。


「ほう? 人間の国にも恐ろしいスライムがいるものだな。ここらでは滅多に見ないからな。のうソンブレアの?」


「そうですな。ソンブレア村周辺でもあまり見たことはないですな。マウントイーター対化け物スライムなど見たくもありませんな。」


うわぁ……最悪の組み合わせだな。そこにドラゴン、例えば猛毒のマスタードドラゴンなんかが乱入したらどうなることか。あー怖い怖い。


「マウントイーターか。カース君はよく勝ったものだな。我ら魔法使いには天敵だな。会いたくないな。」


「兄上もそう思う? 私もよ。魔力感誘も効きそうにないし。魔境って怖いわね。」


そうだよな。マウントイーターに触れられたらアウトだもんな。気になってきたな……

マウントイーターVS巨大スライム、どんな結果になるんだろう。あ、クラウディライトネリアドラゴンVS死汚危神なら? 神殺しの猛毒ならあの化け物にも効くのだろうか。

うーん、あっちもこっちも化け物だらけだな。明日からがんばろう。

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