第1119話 カース VS フェルナンド
風呂から上がり、先生にも蟠桃を渡そうと思っていたのだが、結局先生が散歩から帰ってきたのは夕方だった。やっぱり散歩じゃないじゃん。狩りじゃん。
その日の夕食はそりゃあもう豪勢だった。味から歯応えから全て違う肉の数々! 肉ばっかりかよ! 旨いからいいけどさ! 焼いた肉、煮た肉、蒸した肉。薄く切った肉、塊の肉、細長い肉、ミンチ状の肉。とにかく肉三昧だ。きっと先生の獲物だな。
肉に酒、私もコーちゃんもすっかり満足だ。そこに先生から声がかかる。
「よし、久々に会ったんだ。稽古を見てあげようか。」
「押忍! ありがとうございます!」
なんとありがたい! 一体いつぶりだろうか。
少し場所を変えて対峙する私と先生。
「さあ、打ち込んできてごらん。」
「押忍! いきます!」
木刀を構える先生に、私も稽古用の木刀を使い打ち込んでいく。服装は稽古用、いつもの麻の上下だ。
なんだかすごく久しぶりな気がするな。一人でやる形稽古も大事だけど、こうやって誰かに打ち込む掛かり稽古も大事だよな。
「よし、そこまでだ。よく分かったよ。成長に伴い体のバランスが崩れたんだね。かなり筋肉もついているようだし。今後は下半身、特に脚を鍛えた方がいいね。」
百を超える打ち込みをしたあたりで止められた。
「押忍! ありがとうございます!」
「カース君なら身体強化の魔法をかけて走り回るのが手っ取り早いかな。重荷を背負うのも有効だしね。」
「なるほど。ありがとうございます! やってみます!」
「よし、じゃあ次だ。いくよ?」
痛って! くっ、目を切られた……私の自動防御を容易く斬り裂くのはやめて欲しいな……
「さて心眼の稽古だ。今から二十分ほど攻撃するから対応してみたまえ。アレックス嬢はそこから石を投げてくれるかい? 私とカース君を無差別に狙って欲しい。」
「は、はい! 分かりました!」
アレクが見てるんだもんな。無様な真似はできない。くそぅ。
「ではいくよ。」
痛っ、いきなり肩を叩かれた。次は右の脛。いてっ、背中に当たったのは石か。くそ、全然感覚が掴めない。おかしいな、ちょっと前まで目隠しでも少しは善戦できてたはずなのに。あー目が痛い……
心を落ち着けて気配を探る。でも未だに気配って何なのか分からない。足音? 呼吸? 魔力ではないしな。でも少しずつ分かってきたぞ……打ち込む。手応えあり。
「そうだ。その調子だ。」
いって、今度は大腿部に石が当たった。ぬぐっ、頭も叩かれた。それでも木刀を振るう。心眼が上達すれば魔力感誘だってできるようになるかも知れないし。センスがなんだ。努力でカバーしてやる。
「よし、ここまでだ。さあ、目を治そうか。」
「押忍……ありがとうございました……」
体中が痛いぞ……かなり疲れたし……
イグドラシルのクライミングでかなり体力はついたと思ったんだけどな……
「型はまだまだだけど少しは心眼の入口には立てたようだね。がんばるといい。」
「カース! 大丈夫なの!?」
「うん、大丈夫。やっぱ先生の稽古はすごいね。アレクもありがとね。」
やっぱクライミングと剣術では使う筋肉が違うんだろうな。あー疲れた。
「そうそう。剣筋はだいぶ鋭くなってたね。木刀だけでなくたまには剣も振っておこうか。」
「押忍!」
頑張ろ。
「さ、カース。もっと飲みましょうよ。」
「そうだね。先生もありがとうございました!」
あー、目が見えるって素晴らしい。
「ああ、ちょっと待ってくれ。次は私の稽古に付き合ってくれるかな。カース君のあれを撃って欲しいのさ。」
「押忍! もちろんやります!」
先生の役に立つならガンガンやるぜ。
うーん。相変わらず先生の剣は異常だな。目隠しだけじゃなく耳栓までしてるのに私の狙撃が全く通用してない。弾丸は全て斬り落とされてしまった。私にも思うところがあったので、今回は榴弾や徹甲弾は使ってない。先生からも要求されなかった。ひたすら狙撃をあらゆる方向から撃ちまくった。これはこれでスッキリするな。
「よし、ここまでだ。ありがとう。さすがにカース君の魔法は一味違うね。以前より研ぎ澄まされたように感じたよ。」
「ありがとうございます!」
それは嬉しいな。魔力が増えなくなったら精度を上げたり、同じ威力でも魔力消費を抑えることが大事だもんな。
「ほら、エビルヒュージトレントの木刀がこんなに傷ついてしまったよ。私が未熟ってこともあるがね。」
そんなわけあるかい! あ、木刀と言えば……
「先生すいません。昔、先生からいただいた木刀なんですが切られてしまいました……」
魔力庫から出して見せる。
「うーん、酷い切り口だね。下手くそが無理矢理叩き切ったような。」
「正解です。偽勇者にムラサキメタリックの剣でやられました。」
「ああ、偽勇者か。ぜひ戦ってみたいものだね。」
「七回生まれ変わるとか言ってましたから機会はあるかも知れませんよ。頭がおかしい奴ですね。」
「はっはっは。それはすごいな。楽しみにしておくとしよう。」
先生が神剣を持ったら鬼に金棒どころじゃないよな。ただでさえ凄い剣や刀を持ってそうなのに。つーかあの偽勇者……マジで生き返るとは思えないが、うっかり先生に出会ってしまえ。鎧ごと、文字通り鎧袖一触になるに違いない。
ふう、いい夜だ。体はもう痛くないが疲れはある。うん、よく眠れそうだな。
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