第1115話 天地の理を覆すカース

「先生、すごい魔力を感じたんですけど何事ですか?」


びっくりしたなぁもう。アレクと楽しんでる時にやめてくれよな。たぶん村長の魔力だよな。あんなに魔力を使うと魔物が来るぞ?


「村長殿の余興だよ。非常に興味深い魔法を体験させてもらった。理解はできていないがね。」


「先生が理解できない魔法ですか?」


「イザベル様なら分かるかも知れないがね。どうですか村長、カース君にも味わってもらったら?」


ほほう。それは面白い。この村長はそんじょそこらのエルフとは違う、ハイエルフだもんな。……寿命以外に何が違うんだ?


「ふむ、多少は回復したことだしの。まあよかろう。これも余興よ。とりあえず坊ちゃんよ、魔法を撃つから防がずにいるといい。」


「はあ、いいですけど。」


自動防御を解除しておけばいいかな。


重劫体天星落じゅうごうたいてんせいらく


ん? 私のブーツに何か魔法が当たった。そして上から黒い球が落ちてくる。まるで風船のようだが……無視でいいか。


なにぃっ!? 私目がけてあちこちから石や木が飛んで来たぞ! そんなの防御するに決まってんだろ。とりあえずイグドラシル製の棍、不動で弾こう。


あ、無理だな。自動防御しよ。


うーん、自動防御に貼りつくように物体が溜まっていくぞ。エルフまで交じってるし。キモいなあ。


なんだこの魔法は? 私のブーツがえらく重い。歩けないじゃないか。不動だって手を離せばブーツに吸い寄せられるし……



まさか……重力!?


村長のやつ重力をいじくれるってのか!? 上に見えた黒い球体はただの囮で、本命はブーツに当たった魔法か。あれでブーツを重力発生源へと変えてしまったってことか? つまり村長の魔力が続く限り私のブーツは物体を引き寄せ続けると。なんだよ、やっぱり重力を弄れる魔法あるんじゃん。考えてみれば普段使ってる『浮身』だって反重力みたいなもんだよな。


反重力か……あれが使えるんなら……

その逆のイメージで……


『自動防御解除』


暗黒大穴ブラックホール


以前見たノヅチの吸引と重力操作のイメージによる魔力製人工ブラックホールだが……ダメだこりゃ……『解除』


私まで吸い込まれそうになったじゃないか。




「ほ、坊ちゃんよ……い、今のは……」


幸いエルフは誰も吸い込まれてない。肉やコップが少々ってところか。一瞬だったしな。それにしても危なすぎるな。魔力の消費もヤバいレベルだし。あんな一瞬で私の全魔力の三割強が削られた。やはり重力を制御するってのは大変なことなんだねえ。二度とやらないぞ。


「いやー、村長の魔法を真似してみました。でもちょっと危ないですね。」


理論的には村長にもブラックホールは作れるってとこか。さすがはハイエルフ、只者ではないな。


「ふふ……恐れいったわ……坊ちゃん、いやカース殿。いくら禁術ではないとは言え、ワシの切り札に近い魔法をこうもあっさり模倣、いや上回るとは……」


おっ、やっと村長が名前で呼んでくれたか。つまり村長の中では先生と並んだってことだな。結構嬉しいな。


「凄いじゃないか。よく分からないがカース君も天地の理を曲げることができるんだな。」


「いやー魔力で無理矢理やってみました。できるもんですね。さあさあ先生、飲みましょうよ。夜はこれからですよ!」


「ああ、いただこう。こんなに旨い酒はいつぶりだろうな。」


「三年ぶりなんですよね?」


「はっはっは! 確かにそうだとも! ああ旨い。村長殿の酒造りの腕にも乾杯だ!」


うーん、先生がハイになっている。一年ぶりの私でもこんなに旨いんだから三年ぶりだとどんだけ美味いんだろうね。


「ね、ねぇカース……」


「なんだい? アレクも飲もうよ。」


「分かってるくせに……」


もちろん分かってるとも。さっきは途中だったもんね。続きは待ってくれよ。もう少し食べたいんだよ。飲みたいしね。


「カースのバカ……」


「もう少しだけだよ。それから、ね?」


「うん……」


アレクとの行為も大事だが重力魔法という新たな発見は大きいな。おそらくこの世界で重力をきっちり認識しているのは私ぐらいだろう。

これは大きな武器になる予感がする。面白くなってきたものだ。今のままじゃとても使えないけど。

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