第1114話 宴会とフェルナンドの宴会芸

宴会はいつの間にか始まっていた。少しぐらい待てないのかよ。


「おお来たか。さあ飲むがいい。」


村長むらおさ殿。ただいま帰った。聞きしにまさる苦行でしたぞ。」


「そうかそうか。三年とかからず戻ってくるとはさすがよの。見事と言う他ない。」


ほう。さすが先生。ん? 待てよ? 先生が三年かかってないってことは……


「村長、今って何月ですか?」


「二月だな。お主たちは一年かかってないことになる。もはや言葉もないわ。」


なんと!

私達はそんなものか。三月の終わり頃に登り始めて今が二月。もう一年経つのかよ。てことは……


「あっ! 僕達十六歳になってるね。」


「そうね。もう一年経っただなんて信じられないわ……」


なんとまあ……わずか一年で帰ってこれてよかったと思うべきか。村長なんか二十何年かかってんだもんな。良しとしよう。


そして他に気になっているのが……


「コーちゃんはどうなったの?」


「ピュイピュイ」


精霊としての格が上がった? うーん、よく分からないぞ。そしたらどうなるの?


「ピュイピュイ」


コーちゃんも分からないのね……まあいいか。


「それでカムイは?」


「ガウガウ」


大人になった? 成人、いや成狼とでも言うのかな。フェンリル狼って大人になると小さくなるってことか? 魔物の生態はよく分からん。いやまあフェンリル狼は正確には魔物とは少し違うそうだが。でもトールカンには魔物って呼ばれてたな……分からん。つーか、カムイの奴やっぱりこの間まで子供だったんかい!



それにしても、一口酒を飲んだら一気に腹が減ってきたぞ。ガンガン食べよう。

ぬーう、肉も酒も旨すぎる。

おっ、先生の両サイドは美人エルフが固めてるのか。やはりモテモテだね。


「ねぇカース……」


ぬっ、アレクめ。濡れた瞳で見つめてくるではないか。もう我慢できないようだ。かわいいやつめ。ならば宴会など出席している場合ではない。私は宴会を抜けるぞー!







カースとアレクサンドリーネが場を外している間、宴会は楽しく進んでいた。


「うむ、酔いは回った。ならば宴会芸を見せて進ぜよう。」


「ほう? フェルナンド殿の宴会芸か。それは楽しみよの。」


村長から名前で呼ばれる男。さすがはフェルナンドである。


いつも通り目隠しをして剣を構える。ただし手に入れたばかりの神剣セスエホルスを。


「さあエルフの方々。好きに魔法を撃ってきていただけるかな?」


「ほほう? 目隠しとは舐められたものだ。このアーダルプレヒトシリルールが先陣を承ろうではないか。」


アーダルプレヒトも酔っているようだ。


『葉斬』


くらえば全身がバラバラになる恐ろしい魔法だが、フェルナンドは神剣をくるりと回転させるだけで防いでしまった。


「こっちからも行くぜ優男!」


烈空破れっくうは

豪水牢ごうすいろう

魔斬岩まざんがん


ローランド王国で言えば宮廷魔導士をも上回る一騎当千の魔法使い、それがエルフだ。

しかしそんなエルフ達が放つ魔法がフェルナンドには通用しない。一見優雅に、その実見えないほどの剣速に阻まれて彼の肉体にダメージを与えることができない。


「ふむ、やはり鈍っている。」


そう呟くフェルナンド。自身の肉体は無傷であるものの、借り受けているエルフの聖衣は傷だらけになっていた。普段のフェルナンドであれば服すら無傷だっただろうに。三年近くも剣を振ってないのだから無理もない。


なお、フェルナンドが語ることはないだろうが、彼はイグドラシルに登っている最中も剣以外の稽古は欠かしていない。枝の上で剣なし型稽古をやったり、目を瞑ったまま登ったり。腕だけで登ったり、密集エリアでは足だけで登ったり。登ることも稽古の一環と考えていた。

だが、それでも剣を振れない日々は長くこの日を心待ちにしていたのだ。本音を言うなら宴会など打ち捨てて夜の山岳地帯に魔物を斬りに行きたかった。しかし村長が自分達の帰還を祝って開いてくれた宴なのだ。カース達が消えたこともあって自分まで姿を消すわけにはいかないと考えていた。どうせ酔ったらいつも通り宴会芸を披露したくなるだろうから、との考えもあるにはあったのだが。




「皆よ、少し場所を開けよ。」


村長の声がかかり、フェルナンドから離れるエルフ達。


「フェルナンド殿、見事防げるか?」


「いつでも。」


重劫体天星落じゅうごうたいてんせいらく


黒く巨大な球体がフェルナンドへと落ちていく。今まで同様に斬り裂くフェルナンド。真っ二つになるも落下をやめない球体。剣を止めないフェルナンド。球体は見る見る細切れになっていく。


そして、彼は不意に地面に神剣を突き刺した。


「ふふ、気付きおったか。だが少し遅かったの。」


周囲から様々な物体がフェルナンドへと飛んでくる。しかし地面から剣を抜かず躱すのみ、もしくは手を軽く添えて逸らしている。

だが、物体はどんどん増えていき、宴会の皿やコップ、ついにはエルフその人までもがフェルナンドへとぶつかっていく。さすがの彼も物量には勝てなかったようで周囲を人や物に埋め尽くされ、身動きが取れなくなってしまった。


観念したのかフェルナンドは目隠しを外した。


「参りました。さすが村長ですね。理解はできませんが、まるで私に向かって落下してくるかのような動きでしたね。」


「ふぉっふぉっふぉっ。ついムキになってしまったわ。おかげで魔力が空になってしまったの。まあ一泡ふかせてやることぐらいはできたかの。」


「ええ。まるで天地のことわりをねじ曲げたかのような不可解さでした。」


「さて、その剣を抜いてくれるか? 余った魔力は吸収しておきたいゆえな。」


村長は一体どんな魔法を使ったのか?

フェルナンドが大地に剣を突き立てたのはどのような理由からなのだろうか?

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