第1111話 木と植物の神トールカン

「ピュイピュイ」


う……ん……


「ピュイピュイ」


ん……コーちゃん?


「ガウガウ」


カムイか……


「あっ!」


どこだここは!?

あたり一面真っ白だ。まるであの時の……そう、転生管理局とやらのようだ……


「アレク! アレク!」


アレクは上半身裸だ。凍傷になってたりしないよな? 見た感じは大丈夫そうだが……

今のうちにアレクの手首から聖衣を解いて、履いておこう。さすがに神域でフルチンはキツいからな。


「あ……カース?」


「アレク! 大丈夫!? どこか痛くない!?」


「え、ええ……でもカース……寒いわ……」


それはいけない! すぐ暖めてあげないと! アレクを抱き締め、私の首に顔を埋めてもらう。やっとアレクと密着できる。ああ、なんて素敵な感触なんだ。


「カース……暖かいわ……何度も、もうダメかと思ったのよ……」


「僕もだよ。よくがんばったよね。」


ここがゴールか……ここに神とかいるんだろうか……緊張してきたな。




『よくぞ参った』


うおっ! びっくりした……どこだ? どこにいる?


『我はトールカン。貴様らの言うところの神である』


トールカンだと!? 木と植物の神トールカンか!? トールの日の元ネタの!? いかん、ドキドキしてきた。どこにも姿は見えないが……


「初めまして。カース・マーティンと申します。」

「アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルです。」

「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


『人間に精霊、そして魔物か。して、貴様ら何を求めてこの神域に参ったか申すがよい』


あっ、しまった……

目的って何だっけ? 確かノリと言うか勢いって言うか……あまりに不思議だから登ってみようとしたんだっけ? キツそうなら途中で帰ればいいやってぐらいだったような……


「恐れながら申し上げます。トールカン様の祝福をいただくことはできましょうや?」


おお、アレク。頼もしいぞ。


『ふむ、貴様は人間の女だな。我が祝福は不変、エルフどものように若き姿を保ちたいと申すか』


「その通りでございます。永遠とは申しません。トールカン様の祝福が及ぶ限りで結構でございます。」


『よかろう。エルフほどとはいかぬが、人間にしては過分な生を授けよう』


「ありがとうございます。」


アレク……そんな、あっさり……大丈夫なのか?


「ちょっとトールカン様? もう少し説明してくださいよ。うちのアレクにどんな祝福をくれたんですか?」


『寿命を倍程度延ばしてやったまでだ。また若き時期が人生の大半を占めるであろう。貴様はどうするか申せ』


「フェアウェル村の村長はエルフからハイエルフになったそうですが、この子は何になったんですか?」


『人間は所詮人間だ。天空の精霊や蟠桃のおかげで随分と楽にここに到達したものよ。そのような者にはその程度の祝福しかやれぬ』


意味が分からん。あれで楽だと!?


「天空の精霊がどうかしたんですか?」


『そなた達は天空の精霊の祝福を持っておる。そのため随分と早く登れたであろう。蟠桃もそうだ。あれを口にした者はわずかながらデメテーラの祝福を得る。この上、我の祝福を得ようとは忌むべき強欲と言うものよ』


土と豊穣の神、デメテーラか……

だけど何それ!? そんなの知るかよ! まあいいや。それでも祝福をくれるってんなら貰ってやるさ。


「では、こちらのアレクと同じ祝福をください。」


もし可能なら魔法の才能とかも欲しいけど、寿命が伸びたアレクを一人にはさせられないもんな。


『よかろう。他の二匹はどうするか』


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


ぬおっ! コーちゃんが脱皮した! 何やってんの!?

うっ、カムイは小さくなった!? 全長二メイル半ほどあったサイズが半分以下になってる!?


『用は済んだ。帰りは好きにせよ』


「待ってください! 僕らの前に人間が来ませんでしたか!?」


『知らぬな。普通の人間がここに登ろうとすれば早くても五年はかかる。貴様らのように祝福を持っておらねばな』


五年だと!? 先生が登り始めたのはだいたい二年半前……ならばまだまだかかるってのか……途中で追い越したってことになるが、一体いつ? 全く理解ができない……

フェルナンド先生……どこにいるんだよ……

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