第1108話 最終エリア
遂に枝の密集エリアを抜けた……
抜けたのはいいんだが……マジかよ……
見えるのは空へと吸い込まれるように伸びたイグドラシルの幹だけ。枝も葉も何も見えない。
「ここから先は休憩不可能ってことだね……」
「そうみたいね……なかなか楽をさせてくれないわね……」
「とりあえずコーちゃん達を待とうか。」
「そうね。私達だって休憩しておかないとね。」
それからイチャイチャしながら待っていたのだが、余計欲求が溜まるんだよな。不完全燃焼だ。早く降りて思いっきりアレクを蹂躙したいものだ。
枝がだんだん細くなるものだからもう横になることすらできない。座って休むのが精一杯だもんな。くっそー。
待つ間はカウントゲームなるものをして遊んでいた。
交代で百ほど数えるだけだが、数えてない方は妨害するのだ。脇腹をくすぐったり変顔をしたり、はたまた冗句を言ったりと。何せただ待つだけでは、たちまち狂ってしまうかも知れないのだ。とにかく刺激を与え合う必要があるのではないだろうか。
そうやって百回はやっただろうか。やっとコーちゃんとカムイが姿を見せた。心配させやがって。
「ガウガウ」
疲れたって? 少しだけマッサージしてやるよ。横、にはなれないから手が届く範囲だけでもアレクと揉みまくってやろうな。
「さて。いよいよだね。行こうか。」
「ええ、ここからはもう登るしかないわね。」
「ガウガウ」
「ピュイピュイ」
カムイもコーちゃんも楽勝だと言っている。だろうね。でも私達はそうはいかないんだよ。でも、きっとここが最終エリアだ。ちなみに密集エリアでは二人のエルフを見つけた。まるで枝に擬態する虫であるかのようにすっかりイグドラシルと一体化していた。だから本当はもっとたくさんいたのかも知れない。
私達は登り始めた。この果てしないイグドラシルの幹を。幹そのものは最初と変わらない。ロッククライミングの要領で登るだけだ。
ペースはゆっくり、決して焦らず登っているのだが……やはり予想通りの問題が発生する。疲れだ。
もう体感で三時間は登りっぱなしなのだ。疲れないはずがない。特に腕だ、筋肉がパンパンになってしまっている。こんなの一流クライマーでもこうなるんじゃないのか!?
だからって休憩などできない。止まってたとしても腕に力を入れている限り消耗は避けられないのだから。
くそ、どうにか腕を使わず体を固定する方法はないのか? 登山家が崖で夜を越えるように。ビバークって言うんだったか?
私達には何の道具もない。エルフの聖衣のみだ。下着すら身に着けてないのだから。
聖衣か……これって案外丈夫なんだよな……
もしかしたらイケるかも……
袖を幹の空いてるVの字に隙間に噛ませる。うん、下向きの力なら容易く外れないぞ。反対側の袖も……よし、バッチリ噛んだ。
そのまま服を脱ぐように下に降りると、ブランコのように聖衣の上側が残るってわけだ。ここに座れれば……手を使わず休憩できるが……
イケる! 安定感あり!
「アレク、見てたね? これなら少しは休憩できそうだよ!」
「え、ええ、やってみるわ……」
アレクの方はなかなか幹が袖を噛んでくれなかったようだ。しかし、それでも数分後には私の隣にブランコのように座ることができた。
つまり、私の横には上半身が裸のアレクがいるのだ。禁欲せざるを得ないこんな時になんて残酷な光景なんだ! くそ、ここの神は一体どんな奴なんだよ!
「外でこんな格好するなんて恥ずかしいわ……でも、確かに休めるわね。
コーちゃん達には悪いけど待っててね。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
カムイが退屈だって言うものだからコーちゃんがカムイにジャレついている。こんな場所なのにすごいな……
私もアレクとイチャイチャしたいってのに……
体感で数時間後、私達は再び登り始めた。休憩方法を見つけた以上はもう怖くない。時間をかけてじっくり登るだけのことだ。それにしてもフェルナンド先生はどうしたんだろう。もうとっくに登って降りてしまったのだろうか。この幹の太さなら反対側ほど離れてなくてもお互い気付かない可能性はある。先生の心眼なら気付かないはずがないとは思うが、ここの不思議パワーで心眼を無効化されてもおかしくないもんな。
それにしても今さらだが普通のロッククライミングと違って登りやすい理由を一つ見つけたぞ。見た目は岩のような表面だが、決して崩れないことだ。岩なら割れることもあるだろうが、ここは神木イグドラシル。全体重を一点にかけても崩れたりすることはなかった。だからこそ、聖衣ブランコのアイデアを思い付けたってことはあるかな。
まったく、不思議な木だよ。
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