第1107話 密集エリアの攻防

うーん、腹が痛いぞ。さっきまで何をしてたんだっけ? あー夏休みはいいなー。ラジオ体操は嫌だけど。木登りはおもしろいよな。海もいい。泳ぎに行きたいよ。


「カース!」


カース? 誰だそれ?


「起きてカース!」


うるせぇなあ……俺は眠いんだよ……寝かせろよ……寝る?






ん? 私は寝ているのか?


「ガウガウ!」


うるせぇワン公め……どこの犬だ……


「ピュイピュイ」


聞き覚えのない声……いや……ある……

この可愛らしい声は……


「カース!」


うるさ……くない。この声は響く。心が落ち着く。知ってる声だ。


「カース!」

「ガウガウ!」

「ピュイピュイ」


「アレク……」


そうだ……アレクだ……この子は私の最愛のアレクだ。


「カース!」


「アレク……」


まさか……私は寝てたのか?


「カース! 大丈夫なの!? どこか痛くない!?」


「うん。痛くないよ。寝てたかな? 心配かけたね。ごめんよ。」


「もお! 心配したんだから! 寝てたと言うより気を失ってたのかしら。」


気分が晴れやかだ。一睡もできないはずのこの空間で眠っていたからか。いや、確かに眠るってよりは気を失ってただけなんだろうな。失神では疲れはとれないそうだが、今の私は頭スッキリの元気いっぱいだ。災い転じてナース服ってか。違うな。


「ガウガウ」


疲れたから休みたいけど枝が細くて落ち着かない? だよなぁ。私やアレクがどうにか横になれる程度の幅しかないもんな。


枝の先の方はどうだ? 細い枝が広がってたりしないか?


「ガウガウ」


見てくるって? 落ちるなよ。


「カムイが先っぽの様子を見てくるって。戻るまでゆっくりしてようよ。」


「そうね。それよりカース 、さっきはすごく変だったわよ?」


「そうなの? どんな感じだった?」


「何も考えてないかのように登っていたわ。そう、まるでアンデッドだったわ。意味不明な言葉も聴こえてきたし。」


「意味不明な言葉? 何だろうね。寝言でも言ってたのかな。それにしても意識がないのに登り続けてたってことだよね。」


すごいな私。確かに落ちて枝に引っかかるまでの記憶がないもんな。


「コーちゃんがカースの首に噛み付いて正気に戻してくれたのよ。」


「ピュイピュイ」


なんと! 刺激を与えてくれたんだね! コーちゃんありがとう!

それにしても意味不明な言葉ってのが気になるが、どうでもいいよな。別に私が狂ったわけでも宇宙語を受信したわけでもないだろうしな。


カムイが戻るまではアレクとイチャイチャしていた。狭い枝の上なので激しい事はできないが、ライトなイチャイチャなら問題はない。アレクは不満そうだったが……実は私もだ。




そうこうしているうちにカムイが戻ってきた。


「ガウガウ」


あっちの方が登りやすそう? うーん、カムイがそっちから登るのは構わないが……ちょっと心配だな。コーちゃん、カムイに付いててくれる?


「ピュイピュイ」


よし。それなら大丈夫かな。この小枝エリアを抜けたら合流しようね。


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


さて、そうなるとアレクと二人きりか。それはそれで刺激があっていいな。なんせ私を助けてくれるコーちゃんもカムイもいないんだから。


「行こうか。どうもゴールが近い気がするよ。」


「ええ、楽しみで仕方ないわ。今度は私が先に登るわ。」


「いいよ。慌てないでね。」


登るアレクを下から見る。これはこれでいい刺激だ。色んな動きをしているなぁ。堪らんな。なんて健康的な美なんだ。


「カース! 何か話してよ!」


「うん、よーし!」


なんだかアレクがアクティブになったな。


「アレクってさ、クタナツに来るまではどんな生活してたの?」


初等学校からはクタナツで、それまでは領都だったもんな。


「もぉー知ってるくせに! 生まれたのは王都で一歳になるかならないかぐらいでフランティア領都に引っ越したの。父上としては王都にいたままではただの分家、飼い殺し状態になってしまうからだと思うわ。」


「うんうん。お義父さんも苦労したんだね。」


そこからはアレクパパとママの馴れ初めや騎士長になるまでの話をアレクが知る限り話題とした。それを聞いて思ったのが、うちの両親だ。結局二人の馴れ初めを知らないんだよな。王都で演劇にもなってるそうだが見に行ってないもんな。旅が終わったら父上とゆっくりと酒でも飲みながら教えてもらおう。


そうやって意外に楽しく登っていると……遂に……

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