第1102話 カムイの接待

それでも探索に出てよかったことは、帰ってからのアレクとのイベントが燃えたことだろう。かなり。




さあ、リフレッシュしたことだし登頂を再開しよう。分かったことは、登っている間、もしくは幹に触れている間は時間の感覚が狂うということだ。時間の流れが違うって線もあるかな。神域なら何でもアリってことか。




登った枝の数は二百を超えた。当然のように変化はない。うんざりするが、こうなったらもう意地でも登ってやる。ここでリタイヤなんかできるものか。


「ガウガウ」


さすがのカムイも参っているのか。遊んでくれと催促がすごい。そう言われてもな……


「ガウガウ」


追いかけるから逃げろ? それって狼ごっこかよ。狼と狼ごっことは……クロちゃん達を思い出すな。ヒイズルに行く前に寄ってみようかな。


でもなぁ……カムイと狼ごっこをしても勝負にならないんだよな。大人と子供以上の差があるんだから。でも、気を紛らわすのはいいことだ。張り切ってやろう。


「よーし、アレク。狼ごっこをするよ。カムイから逃げようね。」


「いいけど……カムイから逃げ切れるわけないわよね……」


「アレクもそう思う? 僕もだよ。でも、開始!」


私とアレクとコーちゃんは別方向へと逃げる。意外なのか最初に狙われたのはコーちゃんだった。てっきり私を狙ってくるかと思ったのに。


地面、ではなく枝をくねくねと這って逃げるコーちゃんのスピードは速くない。そんなコーちゃんを上から両脚でパシパシと叩くように捕まえようとするが、さっぱり当たらない。コーちゃんやるな。ヌルっと避けてる。これは見ものだな。


「ガウガウ」

(コーちゃん素早いな)


「ピュイピュイ」

(カムイこそ動きが鋭いよ)


「ガウガウ」

(カースよりよっぽど早いな)


「ピュイピュイ」

(カースはのろいよ)


「ガウガウ」

(だよな。だからコーちゃんから狙ってるんだよな)


「ピュイピュイ」

(負けないよ)


ってなことを話してたりしてないよな? コーちゃんやカムイと会話ができる私だが、それは私に向けて喋ってくれた時限定なんだよな。ああやってお互いに向けて話されたら何を言っているのか全然分からない。


それからわずか二分後、体ごと地面を転がったカムイは見事にコーちゃんに接触できた。力技だな。大人気ない。いや、カムイは子供だからいいのか。

いかん、見てないで私も逃げよう。


カムイに捕まった。しかも無様に前脚で押さえつけられてしまった。きゅう……おのれ……


間もなくアレクもタッチされ一回戦終了。これカムイは面白いのか?



二回戦はコーちゃんが狼をすることになった。やはり最初にカムイを狙っている。鎌首をもたげたかと思えば槍のように頭を突き出す。全身をバネのように使う鋭い動きを見せるではないか。しかしカムイには通用しない。瞬間移動でもしているかのように避けられている。反則かよ。


「アレク、僕らもやろう!」


「ええ!」


いきなりルール変更だ。三対一でカムイを捕まえてやる。覚悟しやがれ。




十数分後。


「はぁ……はぁ……私もうダメ……」


アレクが脱落した。無理もない。全力のストップ・ゴーを繰り返したんだから。私もそろそろ限界だよ。足の裏だって痛いし。


よし、一つ非道なアイデアを思いついたぞ。コーちゃん、協力してくれるかい?


「ピュイピュイ」


スルスルっと私の右腕に巻き付いたコーちゃん。いくぜカムイ!


駆け寄る私から余裕を持って距離をとるカムイ。ここは広いからな。しかし、アレクとてただ疲れて動けないわけではない。カムイの逃げ道を少しは減らせるような位置に立ってくれている。そして三者の距離が縮まったなら、カムイは瞬間移動のように逃げるのがさっきまでのパターンだった。しかし今、私とアレクの間を抜けようとするカムイにコーちゃんを叩きつけた。私がコーちゃんの尻尾を持ち、鞭のように振るったのだ。いくらカムイが速くても通るルートが分かっていれば狙い撃ちぐらいできる。


そして私達は……勝った!

私が振るったコーちゃんの頭がカムイの毛皮にわずかに触れたのだ。どうだカムイ、これが人間の知恵ってもんだ。ふふふふ。


「やったわね! まさかこんな方法があったなんて! すごいわカース! コーちゃんは大丈夫なの?」


「ピュイピュイ」


「平気みたいだよ。コーちゃんありがとね。」


「ピュイピュイ」


これは私がただ鞭として使っただけではカムイに触れることはできなかっただろう。コーちゃんという生きた鞭だったからこそだ。コーちゃんも私に合わせて動いたためカムイを捉えることができたのだ。さすがコーちゃん、大地の精霊様だぜ。


「ガウ……」


悔しそうにしやがって。でも楽しかったろ? いいリフレッシュになったな。あー疲れた。

でもこうやって気を紛らわしながら登らないと気が狂いかねない。汗はかくのに体も服も汚れないし臭くもならない。アレクが聖衣に描いた血文字だっていつの間にか消えてるし。飲まず食わず眠らずなのに体調に変化はないし空腹感も襲ってこない。


考えても仕方ないことは分かるんだが、ホントにここはどうなってるんだ……

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