第1101話 現地調査
ねぇコーちゃん。
なぁカムイ。
どんだけ時間が経ったと思う?
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
分からない? 分からないよなぁ……
過ぎた枝の数はとうに百を超えた。次で百五十三本目だ。それなのに枝にも景色にも変化はない。枝の上は相変わらず校庭のように広く、先が見えない。
一本登るごとに行われていたアレクとのイベントも二本ごとになり、五本ごとになり。今では半ば義務であるかのように十本ごとになってしまった。これはよくない兆候だ……と分かっているのに……
「ね、ねぇカース……」
「あぁ? いや、ごめん……何だい?」
いかん、イライラが止まらない。アレクにあたるつもりなんかないってのに……
「ご、ごめんなさい……怒らないで……」
「怒ってないって。で、何かな?」
「そ、その……いつ、いつまで登るつもりかな……って……」
「アレクはもう帰りたい?」
くそっ、何だよ……どこまでも私と共に征くんじゃないのかよ……
「そ、そうじゃないの……ただ、あまりにも変化がないから……もしかして登る以外の何かが必要だったりしないのかな……って……」
あ、そうか。建設的な意見だな。私もイライラしてないで前向きにならねば。
「なるほど……さすがアレク。いい気付きだね。じゃあ考えてみよう。登る以外にできることは何だろうね?」
これがゲームならなぁ……北、西、南、西とかに進んだり、変なバグでいきなりゴールとかってできるんだろうけどなぁ……
「ごめんなさい……分からないわ……」
「うーん、じゃあ動きをまとめてみよう。僕らがやっているのは登ること。ならば降りることもできるね。それから横移動。その気になれば幹をぐるっと一周できるだろうね。それから……」
「枝の先まで行ってみるとか?」
「考えとしてはアリだね。じゃあ役割分担をしよう。まずカムイ!」
「ガウガウ」
「枝の先を目指してみてくれるか。いつだったかクタナツから領都までボードを引っ張ってくれたよな? あの程度の距離を走ってみて、何かもなければ戻ってきてくれるか?」
「ガウガウ」
枝の先は望み薄だけどね。
「コーちゃんはこの枝をぐるりと一周回ってみて。これはコーちゃんにしかできないしね。」
「ピュイピュイ」
逆さまにへばり付くなんてコーちゃんでないと無理だもんな。
「僕は幹を一周してみる。アレクはここで数をカウントしておいて。各自がどれぐらいの時間で帰ってきたかが知りたいからさ。」
「分かったわ。」
「よし! じゃあスタート!」
くっ、意外に難しいな……やってみて分かったが、クライミングって登る方が簡単なのか……横移動は足元や手元の確認が難しい。たぶん降りるのはもっと難しいんだろうな。
はぁ……枝が見えなくなった。体感では一時間と経っていないが……この幹も太すぎるんだよな。外からだと直径百メイル以上はあるように見えたが……
体感で二時間。ようやく元の枝が見えてきた。途中何度か足を踏み外したり掴まるところを間違えたりして危なかったが、どうにか無事に帰れそうだ。
「カース! 大丈夫なの!? すっごく心配したのよ!」
アレクが私に気付いてくれた。
「お待たせ。もうすぐだよ。待っててね。」
ここで気を抜いてはいけない。最後まで落ち着いて動こう。
どのぐらい待たせたのだろうか。カムイもコーちゃんもすでに戻っている。コーちゃんはともかく、カムイは早すぎではないか?
よし、枝に戻った。かなり疲れたぞ……
「カースのバカ! 心配したんだから!」
アレクが飛びついてきた。長いこと風呂なんか入ってないのにいい匂いがする。
「ただいま。どれぐらい待った?」
「四日よ! もう落ちたのかと思って気が気じゃなかったんだから! バカ!」
「はあ!? そんなに!? マジで!?」
「ええ、これを見て……」
アレクは振り返り、聖衣の背中を見せてくれた。そこにはドス黒くいびつな『正』の字が……二十三個、記されていた。
神代文字『正』を使って五をカウントするのはとてもファンタジーあるあるとは言えないな。どうでもいいけど。
「三千六百を数える度に、線を一本描いたの。幹の太さからして二、三時間で戻ってくると思ったのに……」
私もそう思っていた……それがまさか四日……いや、正の字が二十三ってことは最低でも百十五時間、もう少しで五日じゃん……マジでここどうなってんだよ……意味が分からん……
「それよりアレク、これはまさか指で……」
「他に方法がなくて。数えすぎて頭がおかしくなりそうよ。何てことをさせるのよ!」
「ごめんね。きれいな指に傷がついてしまったね。」
しっかり舐めてあげよう。ぺろぺろ。
「もう……バカ……コーちゃんは二時間ぐらいで戻ってきたわ。カムイは二日ね。」
カムイのスピードで二日……
「カムイどうだった? 先には何かあったか?」
「ガウガウ」
何もなしか……だいたい指定された距離を走ったから帰ってきたと。
「コーちゃんは何か気付いたことある?」
「ピュイピュイ」
特になしか……まったく、何なんだここは……
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