第1089話 暴風龍ヘルムート

それから二十数分後。ドラゴンの爪が根元から斬り落とされ地面にざくりと刺さった。国王やるなあ。


「ブオオオオォォォーーーーーー!」


ドラゴンは上を向きブレスを放った。雲を切り裂きどこまでも高く。ここまでか。国王は合格ってわけだな。




そして地上へと降り立ち、なぜか私達の方を見ている。


「グオオォォォ……」


「カースよ。ヘルムートはそなたの魔力が気になるそうだ。」


国王……見た目は全身ボロボロだが、言葉には表れてない。よくやったよな。


「契約は成就したようですね。おめでとうございます。気になるとは?」


さすがに長命のドラゴンは違うな。誰にも感知できなかった私の魔力に何かを感じたというのか?


「グオオォォォ……」


「強いのか弱いのか分からず気になるそうだ。余を差し置いて妬けるではないか。なあヘルムート?」


「グオオォォォ……」


地鳴りのような低く重苦しい声が辺りに響く。なるほど。ドラゴンですら私が何もしなければ魔力を感じないのか。キアラが側にいるのに私に注目するとは……嬉しいじゃないか。


「それは光栄です。ならば少しぐらいサービスしましょうか。」


せっかくドラゴンが地上に降りているんだ。フェルナンド先生だったらさぞかし戦いたいだろうな。うーん、どうしてやろうか。せっかくだからキツい一発を撃ってやろうか……


『徹甲白弾』


右腕の付け根辺りを狙ってみた。殺す気はないからね。命中するかと思った直前で弾丸は明後日の方向に飛んで行ってしまった。後で回収しよう。母上の魔力感誘にも似ているが、あれより不自然な動きだった。乱気流に揉まれるかのように。

生意気なドラゴンめ……なっ、ヤバっ!


『水壁』


あぶねぇ……ブレスを撃ってきやがった……魔力特盛で防御したけど……もし私が避けてたら王都は壊滅してたんじゃないのか?


「グオオォォォ……」


「見事だそうだ。危うく腕が落とされるところだったと言っている。カースよ、そこに落ちた爪はそなたの物だ。」


「貰える物はいただいておきますけど、こいつヤバくないですか? 言ってくれたら殺しておきますよ?」


王都も危なかったが私やアレク、キアラまで危なかったのだ。こんな真似されて爪ぐらいじゃあ許せんなあ。


「グオオォォォ……」


「もう一発撃たせてやるそうだ。それで勘弁しろと言っている。余も同感だ。そなた達が戦えば王都どころか周辺領までもが灰塵と化しかねんからな。」


へぇ。こいつドラゴンのくせに理性的なんだな。王都のことを気にしてやがる。ローランド王家を気に入ってると言うのも納得だな。


「分かりました。一発で勘弁してやります。」


ヘルムートの技は見た。先ほどの私の白弾を逸らした種は風だ。それも恐ろしく強烈な風を体の周囲に発生させたんだ。台風どころではない乱気流を。そうすれば全ての攻撃は奴に到達しないってことだな。ならば……


『徹甲弾』


くくく……


やはり体表付近で方向を大きく変え、どこかに飛んでいく。しかし……


「ガアアアアァァァーー!」


次の瞬間、私の徹甲弾はドラゴンの背中に着弾した。見たところ外傷はないが効いたろ?


「見事だカースよ。ヘルムートは今のは痛かったと言っている。やはり魔王の名は伊達ではないな。そなたがローランド王国に居ることを嬉しく思うぞ。」


「恐悦至極に存じます。ちょっと危なかったもので、ついムキになってしまいました。これほどのドラゴンをいきなり飼い慣らすとは国王陛下の手腕には恐れ入るばかりです。」


「ハハハハ! そなたもそのような事を言えるようになったとはな。ほれ、あの爪を持っていけ。いや、待て。」


国王クレナウッドはそう言うと自分で爪を拾いに行った。そして再び戻ってきた。私の前へと。


「カースよ。暴風龍ヘルムートのブレスから王都を守ったことを賞してこれを授ける。ヘルムートすら認めたそなたの手腕に敬意を表するものでもある。」


「謹んで。陛下の御世に幸多からんことを。」


やっぱ王族って抜け目ないんだな。こんなことですらアピールに使いやがった。魔王に手ずから龍王の爪を下賜する国王。王だらけ。

ふーむ、暴風龍ヘルムートの爪か……剣でも短剣でも作れそうだな。しばらくはそんな物が必要ない生活になるのだが。




「カース……素敵だったわ。あのブレスをさらりと防ぐし、見事に一撃加えるし。やっぱりカースって最高よ!」


「ありがと。あいつドラゴンだからって調子に乗ってるよね。ちょっとイラっとしたもんだからさ。」


アレクに褒められると嬉しくてたまらないね。あの水壁、めっちゃ魔力を込めたんだよな。もし破られても自動防御があったけどさ。


「カー兄すごーい! あれって自動追尾と衝撃貫通だよねー! 私も姉上から習ったんだよー!」


「おおキアラも習ったのか。それはよかった。便利だよな。」


母上が相手なら自動追尾、つまりホーミングすら効かない。母上を狙った弾丸は逸らされるだけでなく支配権まで奪われたかのように制御が効かなくなる。しかしヘルムートは違う。強風で無理矢理逸らすだけだ。だからいくら逸らしても永遠に狙われるだけなのだ。

しかも衝撃貫通は優秀だ。わずかな魔力で弾丸や魔法の威力が向こう側に通り抜ける。今回ドラゴンの皮膚装甲にすら通用することが分かった。まあこっちを舐めてたのかも知れないがね。私の自動防御のように魔力で防御をしていれば衝撃貫通は効かないからな。


いやー退屈な儀式かと思えば意外にも楽しくなったもんだな。これで後はまたパレードをしながら王都に戻って今度はパーティーだ。

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