第1083話 ムキになる高齢者

「寄ってたかってボッコボコにしてやったわい。」


ん? おじいちゃん、それはどういうことかな?


「ワシとアンヌ、グレゴリウスとマルグリットの四人でのぅ。」


おじいちゃんの話をまとめると、日時と場所を指定しゴモリエールさんを呼び寄せる。その道中に罠を仕掛け、引っかかり隙を見せたところを四人がかりで一斉攻撃。跡形もなく殺す気で攻撃したのだがゴモリエールさんは生きていた。その姿に感服したおじいちゃんは無理矢理に契約魔法をかけた上で治療をしたと。契約内容はゼマティスの家名を持つ者と戦えないこと。瀕死だったので容易く魔法が効いたそうだ。容赦ないな……あのゴモリエールさんを相手によく……しかも相手の同意を必要としない契約魔法かよ。エゲツないな……

ちなみに罠とは地雷的な物からトラバサミ的な物、体が重くなるものから錯乱するものまで仕掛けまくったそうだ。よくゴモリエールさんは生きていたよな……


「カース、分かった? これがゼマティス家のやり方よ。ゼマティス家と戦うということは死ぬことと同義。そう思われてないといけないの。でも父上ったらいい歳して甘いんだから。」


ゼマティス家、恐るべし……でも母上からすればまだ甘いのか……ゴモリエールさんを助けたからか。


「あれほどの攻撃に耐え切り命を繋いだ女傑じゃからの。殺すには惜しくなってしもうての。それに儂はあの時引退したばかりじゃったからな。甘くもなろうよ。」


ゴモリエールさんはそこらの魔法使いが四人で囲んだぐらいで勝てる相手ではない。おじいちゃんにおばあちゃん、伯父さんに伯母さん。この四人だから勝てたんだろうな……しかも無傷で。


その後、場にはおじいちゃんと初対面のオディ兄も現れて、みんなでおじいちゃんすごいと褒めまくった。おじいちゃんも初対面の孫を相手にご機嫌がうなぎ上り。

自分より遥かに歳上のマリーを相手にすら孫の妻は孫じゃあ、と可愛がる始末だった。


楽しい夜だなぁ。おじいちゃん達、明日には北に行ってしまうんだなぁ……長生きして欲しいなぁ……




「カース! カースはどこにおるか!」


ん? 誰だ?


「うるせぇな! 誰だよ! 人の名前を気安く呼んでんじゃねぇぞ!」


うーん、私も酔ってるかな。


あれ? おじいちゃんおばあちゃんどころか母上まで驚いた表情で私を見てる。アレクもかよ。


「ほぉーう? 余に向かって大口を叩くではないか。誰かと言われたからには名乗ってやろうではないか! 余はローランド王国前国王! グレンウッド・クリムゾン・ローランドである! どうだ! 驚いたか!」


国王の声だったのか。こいつも酔ってんのか? うん、間違いなく酔ってるな。まあここは王宮じゃないんだし、威厳を保つ必要がないからはっちゃけたってとこか?


「どうも。僕はカース・マーティンです。で、何か?」


「見ておったぞ! 先ほどジャックやドノバンと面白そうなことをしておったではないか! 余の技も見せてやろう! 見たいだろう!? 見たいよなぁ!?」


つまり、校長達だけ私にかっこいい所を見せたのが気に入らないと。自分のかっこいい所も見ろと言いたいんだな? 子供か!


「ぜひ見たいです! さすが陛下! かっこいい!」


まだ見てないけど。


「ふっふっふ。そうか、そんなに見たいか。ならば是非もなし。見せてやろうではないか。」


国王ってこんなキャラだったのか? 酔ってるせいだな。


「カースよ! 最高の防壁を見せてみよ! ぶった斬ってくれるわ!」


うーむ、さっきと同じでは芸がない。ならば普段全然使わない魔法で……


『鉄壁』


防御力ぶっちきりの防壁だ。魔力消費がすごい上に魔力を込め続けないと消えてしまう使い勝手の悪い魔法だ。しかし、私がこれに本気で魔力を込めれば……無敵の防壁と化すことだろう。

サイズは先程と同じ一辺二メイルの立方体だ。剣が折れても知らないぜ?


「ほう? 恐ろしく濃密な魔力、これしきの鉄壁にどれほどの魔力が込められておるのやら。血が滾るではないか。見ておれ!」


居合に似た構えをとる国王。剣を抜かず鞘の中で魔力を練っている。



一分経過。まだかよ。国王の額からは汗が流れ、顎を伝い、地面に落ちた。



私が気をそらした一瞬、剣はすでに鉄壁の中央部まで真横に切り込んでいた。どうやって……?


「ふむ、さすがにフェルナンドのようにはいかぬか。まあよい。余にしては上出来だ。」


「い、いつの間に……」


「ふっふっふ、見えなかったであろう? これぞ無尽流奥義『時不知ときしらず』よ。詳しくは言えぬがそのうちフェルナンドかレイモンドに教えてもらうがいい。」


これがあの奥義か! 気付いたら切られてるやつだ! 準備にあれだけ時間をかけていては実戦では使えないのだろうが、威力はとんでもない。

これがもしフェルナンド先生ならば、タメなしで鉄壁でも切り裂きそうだ。


「すごいです! さすが陛下! やっぱりかっこいいです!」


「ふっふっふ。そうであろう? 余はジャックやドノバンよりも強いからな!」


本当かぁ? まあ確かめようがないから言ったもん勝ちだよな。


「これはこれは陛下のお言葉とは思えませんな? 確かに対戦成績では私の負け越しですが。つまり、お相手してくださると言うことですね? 今、この場で!」


「ほぉお……てめぇグレン! ワシより強いだぁ!? 魔法がなきゃあワシに勝てねぇくせによぉ!」


あらあら。校長と組合長まで酔ってんだな? 明日出発なのに怪我をしても知らんぞ。


「この野蛮人どもめ! 陛下に勝てるとでも思っておるのか! 陛下と戦いたくば儂が相手じゃあ!」


あーあ。おじいちゃんまで参戦か。怪我しなけりゃいいけど。


「ゼマティス卿には及ばずとも、私の魔法も捨てたものではないぞ?」


宰相もかよ! ジジイ大戦争か! 見てる分には面白いからいいけどさ。怪我すんなよー。

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