第1079話 集う役者
それから極端に危険な魔物に遭うこともなく二日後の夕方、船はグラスクリーク入江に到着した。だいぶ港の体裁は整っているが、まだ完成とは言い難い。もう二ヶ月ってところかな? 街の方もぼつぼつ建物も増えてきてるし。
「ふむ、よくぞここまで仕上げたものよ。レオのやつ張り切りおったな。」
国王が何か言ってる。そして陸側、岸壁にはずらりとクタナツの民が整列している。壮観だな。
乗員が次々と浮身を使い上陸していく。私達はもう少し後にしよう。今行くと目立つからな。
船から遠見で見物していると代官が国王の前で跪いている。しかも泣きそうな顔で。いつもクールな代官のあんな顔は初めて見たな。よほど国王が来てくれたのが嬉しいんだろうな。その後ろにはアレクパパもいる。あ、国王が代官の手をとり、立たせた。そして肩を叩き何か褒めているようだ。
『カース、さっさと来なさい』
ぬおっ、いきなり母上から『
「よし、僕らも行こうか。」
「ええ。」
「ピュイピュイ」
アレクとコーちゃんをミスリルボードに乗せて岸壁へ。母上はどこかなー。
あ、いたいた。
「やあ母上。今日ここに陛下が立ち寄るって知ってたの?」
「だいたいはね。今日になるか明日になるかは分からなかったけれど。カース達が船に乗ってるからびっくりしたわよ。」
「こんばんはお義母様。これほどの偉業を成し遂げたお義母様を誇りに思いますわ。」
「まあ、アレックスったら。もちろん私だけの力じゃないわよ。カースも頑張ったしクタナツの総力が結集した結果ね。」
いつの間にやら母上はアレクを呼び捨てにするようになった。娘扱いしてるってことだな。ちょっと嬉しい。
それから国王を囲み夕食会が始まった。これからはここが北の街との交流拠点になるもんな。あ、この肉美味しい。
「アレックス! アレックスはおるか?」
あぁん? 国王の奴、何を気安くアレクを呼びつけてんだコラ?
「はい、こちらに。」
「一曲弾いてくれ。お前のバイオリンが聴きたい。」
贅沢言いやがって。
「仰せのままに。」
そしてアレクは弾き始めた。軽快で楽し気な曲だ。初めて聴く気がする。手拍子まで起こり盛り上がってきたぞ。うーん、私もノリノリだ。
そして一曲弾き終えたアレク。喝采する国王。
「素晴らしい音色であった。そのバイオリンもすっかり手に馴染んだようだな。まさに辺境一のバイオリン弾きだ。カースが羨ましいぞ?」
「ありがとうございます。陛下にいただいたバイオリンのおかげです。」
バカ野郎、元からアレクのバイオリンは王国一だってんだ。国王の耳は節穴か。いや、まあ絶対私よりいい耳してんだろうけどさ。まあいい、アレクを褒めたから許してやる。ちなみに代官は国王の隣で酌をしている。少しはアレクの演奏を聴けよな。でも代官は楽しそうだ。国王もまんざらでもないようだし。
そういえば国王は北に骨を埋めるって言ってたな。この船で往復する際にちょくちょく顔を出したりは……しないんだろうな。むしろ代官の方がノリノリで国王に同行しかねない。
そんな国王に近付くのは……なんとあの人達かよ。
「おう、来てやったぜぇ。老けやがったなぁ。」
「来たか。待っていたぞ。お前は相変わらずツルツルだな。」
ドノバン組合長だ。国王に何て口きいてるんだよ。周囲の護衛がピリッとしている。でも国王が呼んだっぽいな。昔馴染みってやつか? どこで知り合ったってんだ?
「お久しぶりです先王様。我らのことを忘れずにいてくださり光栄です。」
「うむ。お前は相変わらず堅苦しいな。さて、ドノバンにジャックよ。クタナツには二度と戻れぬかも知れぬ。それでも余と共に来るか?」
エロー校長まで来ちゃったよ。確か二人ともこの三月で引退とは聞いていたが。
「当たりめぇだぁ。おめぇは甘っちょろいからよぉ。ワシが面倒見てやらんとのぉ。」
「これドノバン。あなたはいくつになっても成長しませんね。先王様、好いた女性を守りきれなかった時から私の人生に未練はありません。クタナツの若者もしっかり育てたつもりです。どうかお連れください。」
この二人って見た目はそっくりなのに話し方が全然違うんだよな。どちらもハゲのごっつい大男。顔は似てないか。組合長は悪人顔で校長は優しさが溢れているもんな。
うーん、北の街の戦力がどんどん充実していくな。年寄りばかりなのが気になるけど。冒険者連中は若いのが多いみたいだから問題はないのかな。誰のものでもない土地で一旗あげるってとこか。人生を賭けたお祭り騒ぎだな。私も参加したい気もするが、やはり旅の方が優先だな。こっちの方が楽しそうだし。
でも、いい夜だな。国王と組合長、そして校長がすごく楽しそうに酒を飲んでいる。代官は少しつまらなそうな顔をしているが。
ちなみにおじいちゃんとおばあちゃんは母上と話している。かなり久々の再会なんじゃないかな。
本当にいい夜だ。
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