第1071話 いつものカース

私が振り向くと同時に振り下ろされる剣。それで不意打ちのつもりか?


『水球』


魔法は使いたくなかったのだが。とりあえず吹っ飛ばしておいた。私の魔法発動速度を舐めるなよ。殴るよりよほど早いぞ。

倒れてるそいつから剣を奪いとり、手の平に突き立てる。


「ひゃぐぉぉっ……」


「あの三人の関係者か?」


「ぐうっ、そ、そうだ! よくもウチのモンに手ぇ出しやがったなぁ! てめぇ死んだぞオラぁ!」


またもやどこかで聞いたセリフ。あ、さっきの三人から金を抜くのを忘れてた。アレク……にお願いするのも嫌だな。アレクの美しい手が汚れてしまう。後で自分でやろう。


「お前ら、 ばく何とかって言ったな? 領都には何人で来てんだ?」


「爆龍鬼焔党だコラぁ! 二十人からいるからよぉ! てめぇぜってぇ殺すからよぉ!」


「一時間待ってやる。一時間後に北の城門から外に出た辺りに来い。全員相手してやるよ。怖いんなら来なくていいぜ?」


「てめぇのツラぁ覚えたからよぉ! もし逃げやがったらフランティア中かき分けても探してやっからよぉ!」


フランティア中って……お前には無理だな。私にも無理なんだから。


「いいな? 一時間後だぞ? 遅刻したら終わりだから気をつけろよ?」


よし、今度こそコーヒーだ。おっとその前にサイフをいただき。うーん、四人合わせても金貨六枚と銀貨二十三枚……しょぼい……可哀想だから銅貨は残しておいてやろう。




「ところでアレクはさっきのばく何とかって聞いた覚えある?」


「夏に王都で聞いた気がするわ。はっきりとは思い出せないけど。」


「王都かぁ。覚えてないね。夏は色んなことがあったもんね。」


アレクが覚えてないのに私が覚えているはずがないよな。


「そうね。本当に色々あったわね。カースと一緒だからこそできた経験だと思うわ。いつもありがとう。」


私が行くところに何かある。これは私あるあるかな? 私あるあるだな。はぁコーヒー美味しい。

ちなみに私はハニービネガーコーヒー、アレクはキラービーハニーコーヒー。コーちゃんはスピリッツコーヒーだった。コーちゃんたらどこでも酒飲むんだから。




さて、そろそろ一時間かな。


「よし、行こうか。」


「ええ。またかっこいいところを見せてね?」


「はは、がんばるよ。」


「もし城門が閉まりそうになったら先に帰ってね。また二週間会えないのが残念だけど。」


「ええ、分かってるわ。クタナツの危機だものね。駆けつけないなんてあり得ないわ。本当は私も行きたいけど……」


「分かってるよ。気にしないで。」


アレクは本当は手伝いたいのに私に送迎の手間をかけてしまうことを気にしているのだ。まったく、優しい子だ。




北の城門を出て、少し北へ。おっ、いたいた。時間を守れるとは意外だな。

私達の姿を発見した途端、走り寄ってきた。いきなりやるか?


と、思ったら包囲しやがった。頭も使えるのか。いや、使ってるつもりなんだろうな。


「お前か……俺達に逆らったガキは……」


『氷球』


こいつもバカなのか? 何を呑気におしゃべりしてんだよ。


「てめっ! よくも兄貴を!」

「不意打ちばっかしやがって! もう許せねぇ!」

「全員でやっちまえ! 生きて帰すんじゃねぇぞ!」


『氷散弾』


だから何でこの後に及んでまだ武器すら抜いてないんだよ。余裕見せ過ぎだろ。アレクなんか私の隣にいるのに、今の魔法をちゃんと防いでいるんだぞ? 容赦なく全方位にばら撒いたってのに。見習えよな。残りは……おっ、兄貴と呼ばれた奴が起きてきた。


「今の魔力……お前まさか……」


「まだやるのか? 降参するんなら許してやるぞ?」


「いや……負けだ……相手が悪過ぎる……」


「分かればいい。で、お前らが領都に来た理由は? ここらのモンじゃないよな?」


「ああ……フランティアは景気がいいからな……いい稼ぎになる……俺たちはバンダルゴウから来た……」


タンドリア領の港湾都市バンダルゴウか。


あ、もしかして……


「それならエルネスト・ド・デュボアを知ってるか? 彼に絡んでいた奴らもお前らと同じばく何とかだった気がするが。」


「爆龍鬼焔党だ……その名なら知っている……上級貴族のくせに……冒険者だからな……絡んでいた奴とは? よく分からない……人数だけは多いからな……」


「知らないならいいわ。で、お前らはどっち派なんだ? ダミアン派か? 兄貴派か?」


「その辺りの事情に興味はない……ただムリーマ山脈での魔物の討伐依頼は受けた……」


なるほど。末端の奴らがそんなことわざわざ気にしないのは当然か。


「分かった。ではお前を見逃してやるが、約束してもらうぜ。爆炎バーンズを知ってるな? クタナツの五等星だ。彼の指示に従え。そうすれば命は助けてやる。ついでにさっきの金も返してやるよ。」


「分かったっぉごぉ……これが魔王の契約魔法か……いいだろう……彼に剣を預けよう……」


冒険者らしくない言い回しをするじゃないか。


「どうせ勝ち馬に乗るだけの話だしな。むしろ親切すぎるだろ。よかったな?」


「ふ……バカな部下を持つと苦労が増える……」


だよな。こいつは完全なとばっちりだもんな。



さて、名残惜しいがクタナツ、いやグラスクリークへと向かおう。


「じゃあアレク。行ってくるね。また二週間後を楽しみにしてるからね。」

「ピュイピュイ」


「うん。待ってるわ。無事に帰ってきてね。コーちゃんも。」


そう言って私の唇を奪うアレク。あいつが見てるぞ? でも嬉しい。




さて、今からなら日没までには到着できるな。まさか壊滅してたりしないよな?

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