第1060話 バーンズとジーン

「ところでバーンズさん。最近ダミアンの周りはどうですか? 騒がしいですか?」


私達がわいわいと話している横で、バーンズさんはちびちびと飲み続けている。だからちょっと聞いてみた。


「いいや。全然だな。長男達に動きがなくて不気味ではあるな。表立ってないだけで何もしてないってことはないと思うがな?」


「ですよね。長男派ってこのままじゃあトンネル工事の着工にすら漕ぎつけられませんよね。みすみすダミアンに手柄を渡すとも思えませんし。」


ローランド王国の至るところで動きが活発になっている。マジで。この動きについて来れない貴族領は取り残されるのだろうか。

そして長男派。このまま大人しく引っ込んでるわけないよな。まあダミアン頑張れってとこだな。さて、そろそろクタナツに帰ろうかな。


「じゃあバーンズさん。どうぞゆっくりされてくださいね。」


「ああ、邪魔するぜ。ジーンもまたな。」


「はい。ではこれにて失礼します。ダミアン様によろしくお伝えください。」




ジーン、旧名シフナート・ド・バックミロウ君か。彼、いや彼女ほどの女性に惚れられて悪い気はしない。しないが私には何もしてやれないし、する気もない。


二人で横並びに領都の道のりを歩く。


「ジーン。春になったら僕はローランド王国を出る。悪いがさすがにそこには連れていけない。」


「そ、そうなんだ……一体どこに……?」


「まずは北の山岳地帯。エルフの村に行って巨木に登る予定。その後は東の国ヒイズルか、それとも南の大陸か。それとももっと他のどこかか。未定だね。」


「山岳地帯……エルフ……だめだよ……理解できない……」


「だから悪いけど諦めた方が建設的ではあるがね。」


「その村、には、どれぐらい滞在……するつもり?」


うーん、ショックを隠しきれない感じかな。悪いね。


「未定だよ。その木がどれだけ高いか分からなくてね。途中でやめる可能性だって高いしね。」


「そっか……やはりカース君は規格外なんだな……」




そして城門から出る。


「これに乗って。」


毎度お馴染みミスリルボード。


「こ、これはまさかミスリルかい? こんなに……」


「その通り。じゃあ行くよ。」


いつも通りにクタナツを目指す。


「こっ、これは……なんという速さなんだい……」


いつもながら初めての人間を乗せた時のこの反応は気持ちがいいな。スピード違反なんてないし飛ばし放題だ。


「ピュイピューイ」


風の精霊より速い? ふふ、コーちゃんありがとう。気分がいいからもっとスピードアップしよう。




クタナツ、北の城門に到着。だいたい四十分ぐらいかな。


「はっ!? も、もう着いたのかい!?」


「着いたよ。クタナツに来るのは久々じゃない?」


「そうだな……五、六年ぶりか。懐かしいな……」


「とりあえずうちに行こうか。それとも先にギルドに行く?」


「いや、僕は冒険者としては登録していない。ただ、今後のことを考えると登録しておくべきだろうな。」


「今後?」


「ああ、僕はバックミロウ家を飛び出したんだ。強い婿か子供を連れて帰らない限り、もう戻れないだろうな。」


なんだかなぁ……自由に生きすぎだろう。貴族なのに。私も人のことは言えないが……


「まあ……頑張って。なら先にギルドに行こうか。」


当時の同級生グランツ君なんかにばったり会うかもね。




会わなかった。

特に何のイベントもなくジーンの冒険者登録は済んだ。定番のギルドあるあるもなかったし、私が知ってる顔にも会わなかった。

さて、それでは帰るとしよう。誰か帰ってきてるかな。

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