第1053話 食後のお散歩

私はコーヒー、コーちゃんとアレクはデザート。オランゲの実を使ったチーズケーキかな。美味しそう。


「カース、一口だけ食べてみない?」


「あ、うん。欲しいな。お願い。」


「はい。あーん。」


おおう……はいあーん攻撃だ。しかもアレクが使ったスプーンによる攻撃。これって貴族的には最悪のマナー違反なんだよな。でもアレクがやるならそれはスタンダードだ。少しも変ではない。


「あーん。」


スプーンが近づいてくる。私の口の中に……入った! おっ、オランゲの甘酸っぱさとクリームチーズのねっとりとした味わいがいいバランスだ。美味しい! ところどころにナッツが隠されており食感のアクセントもいい。ここまで手作りするとは……名門貴族の嗜みだけでは済ませられない領域と見た。つまりアレクはすごい。


「すごいよアレク。よくここまでの物を作ったよね。マトレシアさんだってびっくりするんじゃないかな?」


「ありがとう。実はほとんどのお料理は昔マトレシアに習った通りに作ってるだけなの。私のオリジナルはケーキにナッツを入れたことぐらいよ。」


「いやいや、教わった通りにできたら誰も苦労しないよ。魔法学校ってかなり忙しいらしいのに、相当睡眠時間を削ったんじゃないの? 無理したらだめだよ?」


「うん、ありがとう。大丈夫よ。新しい魔法の習得や魔力量増加の修練に比べたら大して時間使ってないわ。でも、カース大好き!」


おおっ、いきなり抱きついてきた。よほど嬉しかったのかな。嬉しいのは私もだってのに。あぁもうかわいいなぁ。


「よし! 散歩に行こう! 夕方まで楽園をブラリと歩いてみようと。腕なんか組んでさ!」


「……もう、カースのバカ……今は散歩より……」


「行かない?」


「行くもん! カースと腕を組んで歩くもん! 離さないんだから!」


うんうん。私達は同じ気持ちだよな。あまりにアレクがかわいいからここの住人に自慢したくなったんだよな。アレクの料理は食べさせてやらんが遠くからアレクを眺めるのは許してやる。さあ行こう!


「ピュイピュイ」


もちろんコーちゃんも一緒だよ。食後の散歩。健康的でいいよなぁ。魔力も半分近くまで回復してきたし。



玄関を出ると岩で出来た基礎がある。隙間も自家製コンクリで埋めて均してあるので歩きにくいことなんてない。一辺百メイルの基礎を降りると楽園の地面だ。東西南北に石畳の道を通してあるが、まともに歩いたことなんかなかったな。設置した時ぐらいのものか。よし、まずは南だ。城壁にぶち当たるまで歩いてみよう。一キロル弱ってとこだ。途中にある冒険者達の掘立小屋を横目にどんどん南下。

一時間ほど歩いてようやく城壁に着いた。


「上を歩こうか。」


「ええ、いいわよ。」


高さ十五メイルほどの城壁に飛び乗った。まあまあ眺めがいい。内側に楽園、外は堀、小山、そして広大な魔境。まあ小山のせいで見えないんだけどね。いつの間にやら堀には、しっかり水が溜まっている。いつか大きな湖を作って繋げてやろうかな。そしたら魚も獲れるかも知れないし。


「改めて思うけど、楽園エデンってすごい所よね。」


「そう?」


「それはそうよ。同じ規模の街を作ろうと思ったらどれだけの人数と手間がかかることか。私には想像もつかないわ。」


「確かに城壁作りは大変だったよ。今もまだ外に新しい城壁を作ってる最中だけど。」


「来る時に見えたあれね。かなりの広範囲だったわ。楽園が一気に広がってしまうわね。さすがカースだわ。」


今のところ城壁ってより巨大な石垣だけどね。一辺が八キロル、広さは楽園の十六倍か。まだまだ終わりは見えないなぁ。


「春から国王陛下が西に新しい街を開拓するじゃない? だから少しだけムキになっちゃったんだよ。」


「男らしいわ。陛下にまで対抗しようとするなんて。それでこそカースね。陛下のご苦労が目に浮かぶようね。」


「いずれお隣りさんになるかな。どんな街になるのか楽しみだね。」


私の楽園よりバラエティ溢れる街になりそうだが、堅牢さでは負けないぞ。なんせ楽園には入口なんかないんだからな。




周囲の小山のせいで代わり映えしない景色を見ながらダラダラ、イチャイチャと歩く。


「そうだ、主なんだけどさ。どんな使い道がいいと思う?」


「そうね……普通に考えたら鎧とか牙から武器ってところよね。あの素材でウエストコートって作れるのかしらね?」


「ゴツゴツして分厚いウエストコートを着る気はないしね。鎧も……まあ要らないかな。いくらエメラルドドラゴンでも、いつか見たアースドラゴンほど丈夫じゃないよね?」


「それは多分そうだと思うわ。まさかカース、アースドラゴンを狙う気なの?」


「いや、違う。もしアースドラゴンが手に入ったら鎧を作ってもいいかと思っただけだよ。今回はお揃いのコートにしてみようか。それでもかなり余ると思うし。」


「コート! この前作ってもらったばかりなのに。本当にカースはもう……」


「サウザンドミヅチのコートはあってもドラゴンのコートはなかったからさ。コートなら多少はゴツゴツしててもまあいいかと思ってね。」


そこをうまく着やすいようにしてくれるのが仕立て屋さんの腕の見せ所だよな。あー楽しみ。できるものならばウエストコートにトラウザーズまで作ってみてもいいのだが。

私の装備がドラゴン三昧になってしまうな。ふふふ。

それにしてもドラゴンって意外にあちこちにいるもんだよな。私が特別たくさん遭遇しているだけかも知れないが。この勢いでノワールフォレストの森をウロウロしてたらエビルヒュージトレントとかエルダーエボニーエントにも出会えてしまうのではないか?

エルダーエボニーエントとイグドラシルで木刀を作ったらどっちが強いんだ? 取り回しではエルダーエボニーエントだが丈夫さではイグドラシルな気がする。なんせ重さがだいぶ違うもんな。さすがのエルダーエボニーエントも神木には勝てなさそうだ。

クタナツに帰ったらクランプランドにも寄ってみないとな。イグドラシルをどうやって削るんだろうな。あー楽しみ。

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