第1054話 レスキューカース

城壁の北側を歩いているとさらに北に魔力の反応があった。微弱な反応が五つ、密集してこちらにゆっくり近づいているようだ。ここの住人かな? 小山に囲まれているために遠見を使っても見えないから少し飛んでみよう。


『浮身』


「どうしたの?」


アレクも一緒に浮かせたからね。


「あっちの魔力反応が気になってさ。」


「あっち?」『遠見』


アレクが見てくれている。


「カース、冒険者よ。結構怪我をしてるみたい。足を引きずりながら歩いているわ。」


「それはいけないね。せっかく発見したんだから助けてあげるとしようか。」


ミスリルボードを取り出して乗り換える。そして奴らの元へ。




「よう。調子はどうだ? 助けは必要か?」


「ま、魔王か……情けねぇとこを見られちまったな。助けてくれんのか?」


「冒険者は助け合うもんだろ。乗れよ。中まで連れてってやるよ。」


「すまねえ……恩に着るぜ。おう、お前ら、ありがたく世話になろうぜ」

「助かった……魔力も残ってねぇし、あの山と城壁をどうやって越えるか困ってたんだ……」

「すまねぇ……すまねぇ……」


緊張の糸が切れたのか、二人ほどはその場に倒れ込んだ。やはり魔境は甘くないよな。このまま運んでやろう。



掘立小屋エリアに到着。


「ポーションは持ってんのか?」


「ああ、ある。が、今日はもう飲めねぇ……手当てをして休むしかねぇ……」


「そうか。ならどうしようもないな。とりあえずきれいにしておいてやるよ。」


『浄化』不潔は傷によくないからな。


「おお……ありがてぇ……」

「魔王……すまねぇ……」

「この借りはきっと、返すからな……」


「おう。まああんまり気にすんな。 さっさと寝ろよ。」


こいつらも体調が落ち着いてきたら自分で風呂とか入るだろうし、そこまで酷いことにはならないだろう。どこで何にやられたのかなどの情報も聞きたいところだが元気になってからでいいか。


よし、散歩の続きだ。さっきの位置まで戻ろう。


「さすがカースね。領民に優しい領主になったわね。」


「領主? はは、確かにそうかも。まあ名前は分からなくても仲間だしね。」


あいつらを領民扱いとは。さすがアレク、生まれながらの上級貴族か。


それから散歩は何事もなく、そして和やかに続いた。あぁ楽しい。


そしてついに城壁一周。かなり歩いたなぁ。日暮れまでもう少しか。一応周囲をぐるっと飛んでから帰ろうかな。


「まあカース、偉いのね。それも領主の務めよね。」


アレクは私をどうしたいんだ……そんな面倒な立場になる気は無いぞ。


「いやー他にあいつらみたいな怪我人がいたらいけないからさ。せっかくここに拠点を作ってる奴らだしね。」


そりゃあ全力で助ける気なんかないけど、目の前で困ってれば助けるよな。

それはともかく明日からだな。ノワールフォレストの森には行くが、もう周辺の浅い所だけにしよう。海に行けばヒュドラに会うし、滝に潜ればエメラルドドラゴンに会うし。程よい強敵ぐらいで勘弁して欲しいものだ。生死をかけた死闘など御免こうむりたい。


「カース。日が暮れるまで稽古をつけてくれない?」


「いいよ。じゃあ外側に行こうか。」


アレクは熱心だよな。偉いなぁ。




「じゃあこれを動かすから撃ってみて。」


久々登場の鉄キューブ。重たいんだよなぁ。私もいい稽古になる。


「分かったわ。いくわよ!」


『氷弾』


当然ながら鉄キューブに穴が空くなんてことはない。しかし撃ち続けるアレク。気のせいか同じポイントに当たってないか?


縦横無尽に動かすもアレクはきっちりと当ててくる。堅実な魔法制御で嬉しくなる。



それから十分ほど経ってもアレクは一発たりとも外していない。


「よし、じゃあこれを高いところから自由落下させるから着地するまでに二十発当ててみようか。」


「分かったわ!」


高度は百メイル程度。この程度の高さなら地面まで一瞬だな。


「いくよ!」


『浮身解除』


『氷弾』

『氷弾』

『氷弾』…………



体感で四秒ちょい。あっという間に大地を揺らして鉄キューブは落下した。かなり地面にめり込んでしまったな。鉄キューブもめっちゃ変形してる。

さすがのアレクも後半はほとんど当てられてなかったようだ。どこかで上から落下するやつは当てにくいって聞いたもんな。私も今度やってみよう。


「十二、三発ってとこかな?」


「ええ。十三発ね。どんどん速くなっていくから全然追いつかなかったわ。ねぇ、もう一回いい?」


おっ、アレクめ。やる気だな。


「もちろんいいよ。」


『浮身』



だいたい高度百メイル地点で……『浮身解除』


『氷弾』

『氷弾』

『氷弾』

…………


「また十三発ね。やっぱり難しいわ……ありがとうカース。魔力はまだ残ってるけどかなり疲れたわ……」


「だよね。制御に集中すると頭が痛くもなるもんね。じゃあ帰ってお風呂だね。ゆっくりしよう。」


「頭が痛くなるほどではないわ。それって危険な状態よ? 気をつけてよね。いくらカースでも心配なんだから。」


市販のホースに超高圧の水を通すと破裂するようなものだろうか? もし脳の血管が破裂したらいくら私でも死んでしまうもんな。注意しよう。迷わずポーションを飲んだら助かりそうでもあるが。魔物か誰かで実験してみようかな?

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