第1020話 サヌミチアニの酒場
サヌミチアニの街は……ほうほう。生意気なことにクタナツより都会じゃないか。でも現在クタナツは好景気真っ最中だからな。すぐに追い抜くさ。くそう。
「こっちだよ。」
さすがに副組合長は詳しいようだ。
歩くこと二十分。路地裏に入り込んだ。ここにはスラムがまだあるのか。まさか闇ギルドが生き残ってたりしないよな?
「着いたよ。」
「こ、ここっすか!?」
「ええー副長ぉー、こんな所にお店があるんですかぁー?」
「ちょっと怖いよね。まあ副長がいれば大丈夫ですよね。」
見た目は汚い店だが……領都でもギルド近くの焼肉屋の例もあるからな。まあいいだろう。
内装は、何だここ……どう見ても場末の酒場じゃないか。
「おおー? 見かけん奴が来たぜぇ?」
「若ぇなぁ? 二十歳ぐれぇか?」
「けっけっけぇ旨そうな女もいるぜぇ」
「げへへへぇ、ここがどんな店か分かってんのかぁ?」
うわぁ……汚い奴らの吹き溜りかよ。まあいいや。酒でも飲むか。
「よう店長。ディノ・スペチアーレあるか?」
「ねーよ!」
ないのかよ。品揃え悪いな。
「じゃあ自慢の酒は何があるんだ?」
「うるせぇな! エールでも飲んでろ!」
うーん態度の悪い店長ってのは場末の酒場あるあるかな?
「ぎゃーっはっはっは! このガキ! 頭おかしいぜ!」
「ひぃーっひっひっ! スペチアーレだってよ! そんなもんここにあるわけねぇだろ!」
「お坊ちゃんか! お坊ちゃんなんかぁ!?」
「そんな酒飲んでみてぇぜぇ!」
うわぁマジで場末かよ。飲んだことないのか。可哀想に。だからって分けてやらんけどね。
「じゃあエールでいいや。全員に出してくれや。飲み放題でな。ほれ、そこの汚いお前らも。俺の奢りだからよ。好きに飲めや!」
「お、おい魔王! いいのかよ! こんな店でよ!」
インダルが心配してくれているのか。こいつって面倒見いいのかな。
「いいさ。お前も飲めよ。あっ! 副組合長! 領都のギルドの副組合長様もぜひ! 飲んでくださいよ!」
こいつは何のつもりでこんな店に連れてきたのかは知らんがね。チンピラの対応ぐらいお前がやれって話だぞ。まあいいや、私も飲もうかな。
「いただくよ。店長、僕はラガーがいい。」
「私も飲むから! 副長かんぱーい!」
「じゃあウチも飲むね。」
結局店中の人間が飲み始めた。なぜこんな店に連れて来やがったんだ? てっきりベイルリパースのようなクソ高い店に行くと思ったのに。
「おうガキぃ! おめぇいい金持ってんのかぁ!?」
「おおよぉ! あぶく銭掴んだんかぁ? 若けぇうちぁぱあっと使っちまえや!」
「んん? このガキいい服着てやがんぜぇ?」
「身ぐるみ剥いじまおうぜ!」
このオッさんども、酔い過ぎて調子に乗ってんな。『麻痺』そこで痺れてやがれ。せっかく奢ってやったのに。
「なあ副組合長。なんでこの店を選んだんだ? 客層は悪い、エールはどうにか二級品、まあツマミは悪くないがな。」
「別に。大した意味はないさ。ちょっと君と膝を交えて話してみたいと思っただけさ。」
「嘘つくなよ。それなら個室のあるもっといい店があるだろうが。本音を言えよ。」
どこまでも食えない奴だよな。さっき死にかけたくせにもう元気になってるし。
「別に。奢りだって言うから安く済ませてあげようと思っただけだよ。若いうちから浪費はよくないよ。」
「心にもないことをよく言えるな。おおかた荒くれ者への対処を教えるとか慣れさせるとか、そっち系だろ。」
「分かってるなら聞かなくていいのに。あの手のバカはどこにでもいるからね。叩きのめせばいいってものでもない。かといって下手に出ればいいってわけでもない。バランスが大事なんだよ。」
ふーん。言ってることは間違ってない。
「副長飲んでますか!」
「副長私と飲みましょうよ!」
「魔王さんはウチと飲むよね!」
えらくにんじんちゃんが親しげだな。悪い気はしないが。
「にんじんちゃんは何飲んでんの?」
「え? ウチのこと? ウチはスカーラだよ?」
いかん、つい心の声が洩れてしまったか。
「いや、間違えた。スカーラだったな。飲んでるか?」
「うん。魔王さんは気前がいいね。しかも用は済んでるのに気を使って奢ってくれるなんて。優しいんだね。」
そう言われると嬉しくなるな。
「ほれほれ、もっと飲んでいいぞ。料理も食べな。」
副組合長はインダルやトマトちゃんと楽しく飲んでいるようだ。真っ昼間からいい気なもんだぜ。私も飲むけどさ。
「ねーえ魔王さん。ウチと氷の女神さん、どっちがきれいかね?」
「そりゃ、もちろんアレクだよ。そんな当たり前のこと聞かれても困るぞ。」
「魔王さんってつまんないねー。こんな時は嘘でもウチって言うもんだよねー。」
「嘘がつけないタチなんでな。まあ同期なんだ。困ったことがあったら言ってくれ。聞くだけ聞いてやらんこともない。」
こいつらの冒険者歴は私より長いのだろうか。私はもう五年を超える中堅だぞ。相変わらず解体は上手くないけどね。フェルナンド先生に叱られてしまうな。
「そうそうカース君。ちょうどいいから話しておくよ。僕と君の関係についてね。」
「はあ? 俺らの関係?」
何言ってんだこいつ?
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