第1019話 試験終わって

さてと。インダルはどうなったかな?


「魔王! あんた副長に何てことするんだい!」


「えぇ? ミラノったら。あれって副長による最後の試験だよね? 魔王さんの行動が正解だよね?」


にんじんちゃんの言う通りだ。当然私も殺す気などない。あれでも副組合長だからな。


「それよりインダルは? まだおかしいか?」


動けないが話せないことはないだろう。


「ウグググ……コロス……コロスゥゥゥ……」


「だめだこりゃ。しばらく放っておこう。副組合長が起きるまでな。」


「それなら! もっと城門から離れるよ! 結構注目されてるんだから!」


ここでおっ始めたのは副組合長のせいだけどな。


「さて、手代さん? アンタはこのことを知っていたんだよな? 試験だからと副組合長が一芝居うつことを?」


「ええ。もちろんですとも。試験に協力することで格安でサヌミチアニまで荷物を運ぶことができ満足しております。」


『水壁』


手代を顔だけ出して捕らえた。


「なっ! 何を!?」


「冒険者に依頼を出すにあたって、情報隠しは御法度だ。知らないはずはないよな?」


「そ、そりゃ、知ってますとも! で、ですが、今回は、あくまで試験って!」


「そっちは試験にかこつけて格安で荷物を運べたからいいかも知れないがな。こっちは仲間が禁術くらって苦しんでるんだよ。依頼主が情報を隠したせいでな? アンタも禁術くらってみるか?」


「ひっ! ひぃっ! ち、違う! 私は、悪く、ない! 全部あいつの指示で!」


「ほう? ならアンタはこの落とし前どうつけるってんだ?」


「ど、どうしろと言うんだ!? か、金なら払う!」


「いーや、金に不自由はしてないな。そうだな、じゃあ一つだけ言うことを聞いてもらおうか。なーに、今じゃなくていいんだ。そのうちな。」


「ほっ、そんなことでいいなら……」


「なら約束な。いつになるか分からないが、俺の頼みを一つ叶えてくれよ?」


「は、はいっぬとめっねれっ……ぐう……」


よし効いた。一丁あがりっと。難癖つけてみるもんだな。これでアジャスト商会に楔を打ち込んだことになるな。いつか役に立てばいいが。


「あんた何やってんの? インダルのことを仲間とか、あんたらそんな付き合いだったの?」


「いや、今日初めて会ったな。でも同期は仲間だろ? 違うか?」


「そうだよね! 同期は仲間だよね! 魔王さんよろしくね!」


にんじんちゃんは素直な子だな。私より三、四歳年上のようだが。




「がふっ、ふぅーふっー」


おっと、ようやく副組合長が目を覚ましたようだな。少し水の吐かせ方が足りなかったかな。


「おはよう。さあ、荷物を出してもらおうか?」


「はぁはぁ……ほらよ……」


よし。これでようやく試験も終わりだ。


「ミラノ、スカーラ。荷台を馬に繋いでくれ。それで試験も終わりだ。」


「命令してんじゃないよ!」


「はーい!」


正反対の二人だな。


「さて、副組合長よ。まだ何かあるのか? もう合格でいいよな?」


「ふん、君は合格だよ。しかし他の三人はだめだね。何もしてないじゃないか。」


ほう。そうきたか。


「そいつは残念だ。俺は別に構わんけどね。でも領都で確認した条件、あれは嘘だったってことだな?」


「条件だって?」


「お前に確認したよな? この全員が無傷でサヌミチアニに着けばいいんだろ? ってな。全員サヌミチアニに着いたぜ。それとも城門から中に入ったら合格なのか?」


「…………ちっ……」


「まあその辺は好きにしろよ。とにかく、俺は合格でいいんだな?」


「ああ……」


やーれやれ。終わった終わった。


「そうそう、インダルにかけた魔法、解除してやれよな。可哀想に。」


「もう切れるさ。あれを使ってなければ君の水壁だってぶっ飛ばせてたのに。余計な一手だったよ。」


まあ、禁術だしな。魔力は食うわな。なら私も拘禁束縛を解除しておくか。


「いつでもとは言わないけど挑戦したくなったら言ってくれ。相手にならんこともない。」


「ふん……」


さて、これからどうしたものか。


「副長! 私達合格なんですか!?」


トマトちゃん、私に対する態度と全然違うじゃないか。


「いいや、まだだ。君達三人はここから僕を護衛して領都まで帰ってもらう。その結果次第だ。」


「ちえっ、妥当なとこっすね。何せ俺ら何もしてないっすからね。」


おっ、インダルの奴起きたな。


「そうだね。むしろ荷物なしで副長だけを守ればいいって考えたら気楽だよね。」


いい落とし所なのかね。


「ではカース君。君にはこれを渡しておくよ。受付に渡すといい。」


「どーも。」


「それでは私はこれで。今回はありがとうございました。」


手代さんはそう言ってサヌミチアニに入っていった。もちろんとっくに乾かしてあげてるぜ。


私はどうしようかな……そうだ。


「ところで、お前達はもうこのまま領都に戻るのか? サヌミチアニに入らずにさ。」


「僕はどっちでもいいさ。君ら三人で判断するといい。」


「俺は何か食っていきたいかな。まあ一泊して明日の朝一で出発するって手もあるけど。」


「私もそれがいい。こんな中途半端な時間に出発するのもねぇ。」


「そうだね。それがいいね。」


そうか。それなら少しサービスしてやろう。


「じゃあ何か食べていかないか? 奢るぞ。店は任せる。」


「マジかよ魔王! そういや魔王は太っ腹だって聞いたぜ!」


「行く行く! あんたいいところあるじゃん!」


「わーい! お願いしますね! 食べたいよねー!」


みんな素直じゃないか。


「僕もいいのかい? それならいい店に案内するよ。」


「ああ、頼む。副組合長にも世話になったからな。」


ここで私だけ離脱するわけだし、少しはフォローしておかないとな。さーて、サヌミチアニとはどんな街なんだろう。

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