第988話 魔法学校の施設

アレクにしては珍しく怒った顔をしている。


「アンナ? 何やってるの?」


「ああこれはアレックスお姉様。ご機嫌麗しゅう。ちょっと魔王様の温もりを感じているだけですわ。」


「アレクは怒った顔もかわいいね。さあ君、離れてくれるかな。遊びの時間はここまでだよ。」


「そんな……遊びだなんて……あんなに激しくやりあったのに……」


意外にノリがいいんだな。ちなみにアレクは一転して照れたような表情だ。それもかわいい。手招きして私の側に来てもらった。すかさずほっぺにチュッと。かわいいんだから仕方ない。


「私というものがありながら目の前でのご乱行……酷いですわ……」


この子も変わってるなぁ。まだ離れてくれないし。ならば『拘禁束縛』

ある程度魔力が高く意識もしっかりしてる相手には効きにくいが、そこは魔力でゴリ押しだ。で、私から離してから解除と。


「あ……そんな……」


「アンナ、人の男ばかり欲しがるのは良くないわ。確かにカースほどの男は王国に二人といないけれど。身の丈に合わない言動は身を滅ぼすわよ?」


「アレックスお姉様のいじわる……」


この分だとさっさと帰った方がいいな。ここの施設を使ってみたかったが。




「それよりカース……せっかく来てくれて嬉しいんだけど。実は今から予定があるの……」


校門前で申し訳なさそうにアレクが言う。いきなり来たのは私だから仕方ないよな。


「あら、それは残念。じゃあまた来週、いや明後日のパイロの日はどう?」


「空いてるわ! 明日の夜、カースの家に行くから! 絶対行くんだから!」


「それはよかった。じゃあ夕食までに戻れるようにするよ。ちょっと楽園エデンに行ってくるだけだから。」


「うん! 今日はごめんなさい……また明日ね!」


そう言ってアレクは去っていった。しまったな、何の用か聞くのを忘れていた。まあ何か先約があったってところだろう。ならば気を取りなおして施設を使わせてもらおう。まずはあそこの大きな立方体から……


見た感じは巨大な鉄の塊、一辺が三メイルはある立方体だ。これは魔法を撃ち込んで威力上昇を目指すためのものだな。鉄製なら少々壊したとしても私が修復すればいい。よし、やるぜ。


『氷弾』




うーん。さすがに鉄製。氷弾では何発撃ち込んでもビクともしない。では次。


『氷球』




ヘコみはしないがビクとはするね。では本命『狙撃』


うーん。やはり効くねえ。一弾ごとに着実に穴が空いていく。さすがに一気に貫通とはいかんわな。次。


『魔弾』


おお! やはり威力が桁違いだわ。一気に深い穴が空いたな。魔弾はミスリルのライフル弾なのだが、比重が鉄の二割しかない。そのため内包する運動エネルギーはそれなりしかないはずなのに何故こうなのだろうか。ずっと使い続けていて今さらだがね。魔力のせいだな。うん、間違いない。よーし次。


『徹甲弾』


おおぅ、立方体がずずっと動いちゃったよ。やっぱ効くねえ。穴もごっそり空いちゃったし。これ以上やると貫通しそうだから一旦やめて、修復しよう。『金操』ついでにサービスで『鉄塊』少し大きくしておいてあげよう。


きっつ……今日は魔力をよく使う日だな。


よーし次。


『徹甲魔弾』


すっご! 三メイルの立方体に大穴が貫通してしまったぞ。自分の魔法が怖いぜ。また修復しないとな……




マジできっつ……そろそろやめよう。日暮れまではやるつもりだったが魔力が半分を切りそうだ。無茶しすぎたな。


よし次。


『白弾』


うおぉ……えらい深くまで食い込んだな……取り出せるのか……?


ラストだ!


『徹甲白弾』


なんと!?

あれほどの立方体にきれいに穴が空いてしまった。先ほどの徹甲魔弾のような歪な大穴ではなく、真円で一直線のきれいな穴だ。危うく後ろの壁にまで穴を空けてしまうところだった。ここまでだな。修復して帰ろう。他の施設も使う予定だったがこれまでだ。


「ひっひっひ……久しぶりだねぇ。やってくれるじゃないかぁ。さすがは魔王だねぇ……」


いきなり現れたこのババアは……そうだ、校長だ。さっきまで全然気配がなかったぞ……


「どーも。お邪魔してます。もう帰るところなんできれいにしておきますね。」


来た時よりも美しくしてやるぜ。


「いーや、放っておきな。あれにあんな穴を穿ってくれたんだ……いい見本になるからねぇ。」


「それでいいのならそうしましょう。あれを直すのは大変なもんで。」


「それよりもだよ、さっきの白いのは何だい? 見せておくれでないかい?」


あー、珍しい金属だもんな。私も名前は知らないし。


『金操』


「ほぉう? 変わった金属だねぇ。こいつぁまた……魔力が通りにくいったらないねぇ……」


「変な金属ですよね。変ついでにこっちもどうぞ。」


ムラサキメタリックも見せてあげよう。


「あぁこいつかい。近衛騎士が手こずったってえ鎧は。」


「最新のムラサキメタリックだと魔力庫へ収納すらできないんですよね。今出したこいつは古いやつです。」


「ふぅん……ムラサキメタリックってのかい。白いのは?」


「そっちは知りません。魔法との相性は悪いですがムラサキメタリックほど酷くはないですね。」


「少し興味がわいたねえ。欠片で構わない、譲ってくれないかえ?」


「いいですよ。これをどうぞ。」


白弾と紫弾を一発ずつ。紫弾は加工するのかなり大変だったんだぞ?


「こいつを魔力任せにぶっ放すわけかい。怖いやつだねえ。まあ、ありがとうよ。こいつは気持ちさね。」


「これは何ですか?」


粉薬のようだが?


「あれの時に使う薬に決まってんだろ? ひぃーっひっひ。」


「現役なんですか……」


「ひっひっひ。ワシぁ生涯現役に決まってるさね。スズパロウ百までワルツ忘れずって知らないのかい? 酒も薬も男もドンと来いってものさ。今夜どうだい?」


「あはは……」


魔力の高い女性あるあるだな……かーえろ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る