第987話 子供たちとの触れ合い

勝気な顔をした男の子は自分の発言にドヤ顔をしつつも、ある女の子の顔色をチラ見していた。なるほど……そういうことね。


「ジャイトス君……そういうの、良くないよ?」

「魔王様に失礼だと思うな」

「謝った方がいいのではないか?」

「いや、でもジャイトス様なら万が一……」


「勝負だ魔王!」


ちょっと面白くなってきてしまった。


「遅いよ。」


「な、何が遅いんだ!」


「わざわざ勝負だ、なんて言わなくてもいきなり攻撃してくればいいのに。」


「そ、そんな卑怯な真似ができるか! 俺は正々堂々と勝ってみせる!」


若いっていいなぁ。じゃあちょっといたずらを。


「はい、これなーんだ?」


「制服のボタンじゃないか……それがどうし……はっ!?」


「そうだよ。君の制服のボタンだよ。胸元のね?」


金操でこっそり引きちぎった。ただし服の方も金操で押さえておいたので引っ張られる感覚はなかっただろう。


「だ、だから何だってんだ!」


「え? 分からない? 胸元のボタンを気付かれずに奪う程度の手間で胸にナイフを突き立てることができるって意味だよ。いやー危なかったね。」


「そ、そんな……」


少しこじつけだけどね。大きく違ってはいないだろう。私だって子供相手に大人気ない真似はしたくない。バーンズさんとは違うのだ。


「あの、魔王様……ジャイトス君の言ではありませんが……せっかく魔王様にお目通りが叶ったのですから……稽古をつけていただくわけにはいきませんでしょうか?」


この女の子がクラスの中心かな? いかにも上級貴族って感じがするぞ。お目通りときたもんだ。


「僕の待ち人が来るまでならいいよ。軽く魔法対戦でもしようか。君達は動いていいからね。じゃあ僕があそこの円に入ったら開始ね。」


「はい! ありがとうございます! みんな。分かったわね!?」


「はい!」

「はい!」

「おう!」

「はい!」


じゃあコーちゃん。カムイとここで待っててね。


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


私はスッと飛び、魔法対戦用の円内に着地する。その瞬間四方から魔法が飛んできた。それも着地する瞬間の足元狙いとはやるなぁ。これで二年生とは……


『浮身』


さすがに素直に着地はしないさ。自動防御はさっき切ったし。


「さあ、どんどんおいで。」


水球に火球、そこにまぎれて風球か。おまけに真上からナイフが五、六本落ちてくるではないか。


『風球』


なるべく威力を落として全部迎え撃つ。私も連射の練習ってことで。


ん……? 足が痒い……足の裏が……

誰か妙な魔法を使ってやがるな? まあいい、ここは我慢だっふふっ、ぷぷっ、なんだこれ! 今度は脇がくすぐったい! うひゃひゃひゃ! やめてくれ! マジかこれ! 勘弁してくれよ! ふぇ……ふぇっくしょん! ふぇっくしょん! 今度はくしゃみまで! 何なんだこの子達は! くそ、もうだめだ……『自動防御』


ふぅー……落ち着いた……

あーやっぱり自動防御はいいなぁ。全ての魔法を防いでくれる最高の魔法だよ。


「おい! 効いてないぞ!?」

「そんな! さっきまであんなにくしゃみしてたのに!」

「もう一度だ!」

「攻撃の手も緩めるな!」

「着弾点を合わせなさい! いくわよ!」

「はい!」「おお!」「分かりました!」


『氷弾』『氷弾』『氷弾』『氷弾』……


マジですごいなこの子達……一斉に撃った氷の弾丸がほぼ同じ位置に同時に着弾するって……普通に十発撃つより五倍ぐらい威力がないか?




それからも二年生は力を合わせて私に立ち向かってきた。魔法だけに拘らず時には剣を突き立ててきたり。はたまた仲間の身体をブラインドにして魔法を撃ってきたり。だが自動防御を使っている私には一切通用することはなかった。大人気ない気もするがあのくしゃみは酷かったんだから仕方ない。あれ系の魔法って各人が自然に持つ免疫のような魔法防御を突破する必要があるんだが、よく私に効いたもんだ。


「はぁ……はぁ……降参です。お時間をいただきありがとうございました……」

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」


「いやーこちらも勉強になったよ。『痛痒つうよう』と『擽笑てきしょう』は知ってたけどくしゃみのやつは初めてだよ。すごい威力だったね。」


痛痒つうよう』と『擽笑てきしょう』はエルネスト君の伯母さんも使ってたもんな。あの時は自動防御を張ってたから効かなかったけど。


「恐縮です。私達二年一組はまとまりの良いクラスなのです。そのためか『重ねがけ』が非常に上手く使えるようになったのです。」


おお、子供武闘会でアレクとアイリーンちゃんが使って武舞台をぶっ壊したやつか。発動体を犠牲にすることもなく、タイミング命で威力を増幅してるってのか。すごいもんだな。


「そっか。その調子でがんばってね。あ、名前を聞いていいかな。僕はカース・マーティンね。」


「もちろん存じ上げております。私はアンデルーナ・ド・アレクサンドルでございます。つまり、アレックスお姉様とは同じ一門ということになります。」


「おおー。そうだったんだね。じゃあもしかしてアレクサンドル子爵家?」


「その通りでございます。いつぞやは愚兄アナクレイルがご迷惑をおかけいたしました。」


懐かしいなぁ。もう何年前だろ。アレクのところより本家に近いアレクサンドル家だよな。あそこの母親には確かチャーシューババアってあだ名を付けたんだが、そこからこんな女の子が生まれるとは……人類の謎だな。アレクによく似た豪奢な金髪。派手な顔立ちに大きい胸。アレクサンドル一門の女の子はみんなこうなるのか? おまけに魔力も高いし。


「いやいや、もう済んだことだからね。とっくに解決しているし。じゃあまたどこかで。ステラちゃんと仲良くね。」


このクラスはきっと彼女を中心にまとまっているんだろうな。これだけの上級貴族がいたらそりゃあまとまりやすいよな。彼女の実力があってこそとも言えるが。


「はい! 本日はありがとうございました! あの、魔王様……」


「ん?」


おやおや、抱き着いてきちゃったよ。もしかして私のファンかな? とっさに自動防御を密着タイプに変えてあげた。私は優しいね。


「カース! お待た……何やってるの……?」


おおっ! ついにマイハニーが来てくれた。待っていたんだよ。アレクはいつ見ても可愛らしいなぁ。逆にこんなところを見られても私にやましいところなんて全然ないから平気。

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