第970話 準決勝 第一試合

『さぁー! 色々ありましたが準決勝を開始いたしまぁーす! 第一試合、一人目はぁー! クワナ・フクナガ選手ぅー! 冷静な戦いぶりでここまで勝ち残ってきましたぁー! しかし今回は相手が悪ぅーい! 二人目が王国一の剣士! スティード・ド・メイヨール選手なのだからぁー! 先ほどは素手にもかかわらず! 虎が獲物を仕留めるが如く獰猛な戦いぶり! まさに猛虎とあだ名されるのもうなずけるぅーー!』


『さあて賭け率だが……二対七だ。さすがにスティード選手優勢だな。しかしなぁ……』


さすがにダミアンは気付いているのか。スティード君に勝ち目が少ないことを……


『何ですかダミアン様? 何かご懸念点でも?』


『いいや、始めれば分かることだ。さっさとやりな。』


『はいはーい! それでは準決勝第一試合を始めます! 双方構え!』





『始め!』


「猛虎さん、始める前に賭けをしませんか? 僕が勝ったらあの刀を返して欲しいんです……魔王さんに頼んでもらえませんか……」


「それはいいけど何を賭けるの?」


「これでどうでしょう……脇差と言いまして短いですが、切れ味は抜群ですから……どうか……」


「うーん、短剣ならいいのを持ってるからいらないんだけど、困ってるんだよね……頼むだけだからね?」


「お願いします……あれがないと困るんです……」


おやおや、妙な賭けをやってるね。それにしてもスティード君もお人好しだよな。


『さーあ! 何やら賭けが成立したようです! しかしクワナ選手動かなーい! 木刀を構えたままその場にぴしりと立っているぅー!』


『片やスティード選手は素手か……無理もない。剣どころか拳も握れない状態だろうからな……』


『なんですって!? 一体なぜ!?』


『あれだけカース選手の頭部、顔を殴ったんだぜ? それどころか防具、籠手もさんざん殴ったと見える。指の骨が折れてないはずがないさ。それを見越して賭けを持ちかけたクワナ選手は抜け目がないな。それでも受けるスティード選手も男だぜ。』


そう。私も顔中血塗れだったが、あれだけ殴ってスティード君の指が無傷なはずがない。エルダーエボニーエントの籠手すら殴ったのだから。


しかし、私と対戦した時のようにスティード君は悠然と歩いて近寄って行く。今度は目潰しも効かないだろうし、どうするつもりなんだ?


スティード君が間合いに入った、はずなのにクワナは動かない。構えたままだ。


スティード君はじわじわと自分のパンチが届く間合いにまで接近した。何を考えてるんだ?


そう思っていたら一瞬だった。スティード君は右肘でクワナの顔を狙い、クワナはその肘を木刀で叩き返した。流れるように左肘で攻撃するも同じく弾かれ、金的への膝も同様だった。あいつの防御の堅さは並みではないようだ。それでも間合いを取ろうとしないスティード君。ダメージだけが蓄積してしまうじゃないか……なっ、さらに近付こうとしている……が、今度はクワナが引いている。先ほどまでと同じ距離を保とうとしているのか。


それにしてもクワナの恐るべきところはスティード君が動いた後に動いていることだ。いくら待ちに専念してるからってあの反応速度は驚異じゃないだろうか。


『クワナ選手の堅牢さが光ります! スティード選手の肘、膝を的確に叩き落しております! まるでチェスの名人のようにじわじわとスティード選手にダメージを与えています!』


『防御がそのまま攻撃にもなっている。一種の交差法ってやつだな。ここまで徹底して自分から攻撃をしない奴も珍しいがな。』


普通に考えれば相手が攻撃をしてこないならこっちも何もしなければいいんだがな。しかしこれは大会。双方何もしなければ興業として成り立たない。クワナはその辺何も考えてないようだが、スティード君はダミアンを知ってるもんな。少しは気を使うものかねえ。いや、たぶん違うな。




さすがのスティード君も両肘、両膝にダメージを受けすぎている。このままでは動けなくなってしまう。それでもスティード君は同じ行動を繰り返している。むしろスタミナ的にはクワナの方がバテてきているようにも見える。がんばれ……


「ふぅふぅ、さすがローランド王国若手一の剣士……剣なしでもここまでしぶといとは……」


「勝ち目が……あるうちは諦めないよ……」


スティード君の上体が前へふらりと倒れ込む、足が付いていってない。しかし懸命に踏んばろうとした結果なのか、全体重が乗った右肘突きへと変化した。当然クワナも迎え打つ、が、折れた! ついにクワナの木刀が折れた! スティード君の体より先に限界を迎えたのだ。スティード君の勝ちだ!


そのままの勢いで左の肘を叩き込むスティード君、の体が宙を舞っている!?


そして脳天から武舞台へと落下……クワナの野郎……スティード君を投げやがった……あの小さな体で……

それも一本背負いに近い技、突き出した左肘の下に潜りこみやがった……

スティード君は受け身をとる間もなく頭から石畳に叩きつけられた……


『勝負あり! クワナ選手の勝利です! 治癒魔法使いさん早く! スティード選手が危険です!』


『クワナ選手もだ。治療するしないはともかく、診てやってくれ。』


ふと武舞台を見るとクワナも武舞台に四つん這いになり、倒れることを拒否している。スティード君がただ投げられただけで済ませるはずもないか。さすがだな。


『後頭部に膝をくらったようだ。スティード選手ほどじゃあねぇが結構ヤバいぜ。決勝戦はどうなることやらな。』


そうだよな。決勝はどうなるんだ? ラグナはヤバい状況だって言うし、まさかセキヤとクワナのヒイズル勢同士で決勝か? なんだか悔しいなー。

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