第967話 スティング VS キアラ

スティングが負った全ての傷がなくなっている。


「キアラちゃん! 燃やして!」


「はーい」『火球ひのたま


「ヒッヒッヒ、遅い遅い。先ほどの恐ろしい攻撃はどうしたあ?」


豪炎ごうえん


「ヒッヒッヒ、無駄じゃ無駄じゃあ。そんな遅い魔法がワシに当たるものかあ!」


キアラの魔法もベレンガリアの魔法も避けてみせたスティング。


『すないぷ』


鉄の弾丸がスティングの額と言わず心臓と言わず貫通するも、全くの無傷。いや、傷が端から治癒してしまう。きっと神酒の欠片を飲んだのだろう。


「ヒッヒッヒ、そうら魔女の娘え……おぬしから死ぬがええ!」


スティングがキアラに向かい何かを投擲する。だが……


水壁みなかべ


スティングの周囲数メイル全てが水に覆われてしまった。その上で水が小さく絞り込まれた。もうスティングは逃げられない。魔力を放出し、キアラの水壁を破ろうとしているようだが効果はない。


『氷結』


そしてスティングを囲む水の立方体が凍りついた。身動き一つ取れずに、かと言ってまだ死ぬこともない。窒息と氷温の苦しみを味わいながら薬が切れるまで生き続けることだろう。



『さぁー! 大変なことになってしまいました! 確たる証拠もなく人一人を氷漬けにしてしまったキアラ選手! ほぼ間違いないとは思いますが、恐るべき決断力! かわいい娘にここまでさせる魔女イザベル様恐るべしです!』


「キアラちゃん、このまま殺しておいて。生かしておいても無意味だしね。」


「はーい!」『風斬』


キアラは自らの氷を真っ二つに割る。スティングの体も上下に分かれた。


『風斬』


左右に分かれた。


『風斬』


斜めに分かれた。


『風斬』


どんどん細切れになっていく。


『待てぇ!』


そこに声をかけたのはダミアンだった。


しかし、キアラはやめない。スティングはさらに細切れになっていく。


『頼む! 待ってくれ! 俺は情報が欲しいんだ!』


「キアラちゃん。待ってあげて。」


「はーい!」


ベレンガリアの言うことは聞くらしい。


『せっかくの機会だ! 尋問魔法にかけてぇんだ! 頼む! 譲ってくれ!』


「仕方ないですね。貸しですよ?」


『ありがてえ! すまんがキアラちゃんよぉ! そいつをそのまま運んでくれるか? こっちだ!』


「いいよー!」


神酒の欠片を飲んでいる以上、スティングがすぐに死ぬことはない。しかし、寿命は残りわずかだろう。それまでに尋問魔法をかけて、搾れるだけ搾りとる必要がある。奴は闇ギルド連合の会長かも知れないのだ。本物かどうかの確信は持てないが、やるだけやって損はないとダミアンは考えていた。




そして武舞台上には誰もいなくなった。ダミアンも引っ込んでしまい、残されたのはマリアンヌだけだった。


『えー! こんな結果になりましたので、只今の試合につきましては払い戻しとさせていただきまーす! せっかく好勝負だと思ったのに! 第四試合に期待です! しばらくお待ちくださいませ!』




その頃、医務室ではカースの治療が終わったところだった。


「はい! バッチリ治ったよー。たぶんもうすぐ目を覚ますよー。」


「ありがとうございました。お代はおいくらで?」


「金貨一枚でいいよー。簡単だったからねー。」


「ではこちらをお納めくださいませ。カースがお世話になりました。」


「いいよー。目が覚めたら出ていってねー。」


カースの手を握り、心配そうに見つめるアレクサンドリーネ。スティードの剛腕に数えきれないほど殴られたのだ。自分も昨日顔の骨が折れるほど殴られたばかりだが、カースは明らかにそれ以上に殴られていた。


「アレックスちゃん。カース君の具合はどう?」


訪ねて来たのはセルジュだった。


「もう大丈夫よ。後は目を覚ますのを待つだけ。会場はどう?」


「ラグナさんがヤバいことになったよ。別室で治療中みたいだね。」


「ラグナが? そう……」


セルジュから大方の事情を聞くアレクサンドリーネ。キアラが対応しているのなら問題ないだろうと判断し、その場を動かない。カースがここで眠っている以上、余程のことがない限り動くことはないだろう。

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