第961話 決勝トーナメント 二回戦

あー、疲れた。狭い武舞台でストップゴーを繰り返したもんな。こりゃ足にくるわ。それにしてもよく勝てたもんだ。武器でも地力でも負けてたもんな。勝てたのは実戦経験の差かな?




ぼんやりと試合を見ていたら一回戦最後の試合となった。変な参加者も何人かいたなぁ。


『さぁー! いよいよ一回戦も大詰めです! 第十六試合を始めます! 一人目はぁー! ヒイズルからの刺客! セキヤ選手ぅー! 自称ヒイズルの勇者だそうでーす! 先ほどのクワナ選手同様に木刀を持って登場です!

さあ、二人目はぁー! 老け顔だけど自称二十歳! スティング選手ぅー!』


『面白い戦いになりそうだ。セキヤ選手の剣の腕とスティング選手のあの武器、確かトンファーと言うんだったか。達人なら攻守とも堅実にこなせるそうだ。さて、賭け率は……五対二か。セキヤ選手優勢だな。』


『なんと! トンファーですか!? 変わった武器を使う選手もいるんですね! さあ! それでは一回戦最終試合! 双方構え!』




『始め!』


スッと間合いを詰めるのはセキヤ。大柄なのに静かに動くもんだな。そのまま上段から打ち下ろし。それをスティング選手は右のトンファーでさらりと受け流した。どっちも私よりよほど腕が立つな……


そのままガラ空きのセキヤの右脇腹にトンファーを叩きこもうとするも、セキヤは受け流された勢いそのままにやや左に前進。トンファーは空振りに終わった。


その後も似たような展開が続く。間合いで有利なのがセキヤ。防御が堅いのがスティング選手。一進一退の攻防が続いた。




『うぅむ、どちらもいい腕をしている。このままだと体力で上回るセキヤ選手が優勢に見えるが、そこをスティング選手がどう対処するか、楽しみだな。』


『まさかトンファーがそこまで防御が堅いものとは思ってもいませんでした! 非常に拮抗しております!』


長くなるのかな? 意外に見てて面白いから構わないけど。


「おめぇ、何モンじゃあ? ホントに二十かよぉ?」


「ヒッヒッヒ、おぬしこそ。三十過ぎであろう?」


「バカたれがぁ! 俺ぁピチピチの十七歳じゃあ! ヒイズルの勇者舐めんじゃねぇぞぉ!」


あいつ十七歳だったのか……もっと歳上かと思ったよ。十七で故郷を追われて出稼ぎとは……可哀想に。


「さて、体も温まった。そろそろ終わりにするかのう。」


「舐めんなジジイ!」


猛然と間合いを詰めるセキヤ。剣を振り上げると見せかけ、スティング選手に唾を吐いた。うっわ汚ぇ……な!? スティング選手避けもしない! そのまま頬で受けながら右のトンファーを振るう。


「おらぁ!」


荒々しく木刀で迎え打つセキヤ。トンファーは弾かれ木刀がスティング選手の上腕を打つ。


「痛ってえええー!」


しかし、セキヤが足を押さえて武舞台上を転がっている。何が起こった!?


「ヒッヒッヒ、トンファーは二本あるんだぞぃ? 甘いのぉ。ヒイズルのモンはヒイズルで大人しくムラサキメタリックでもいじっておればえかろうにのお。終わりだ。」


転げ回るセキヤにトンファーの打ち下ろし。これまでか。


「があああああぁーー!」


セキヤめ、転げたまま歯を剥き出しにしてスティング選手の足を狙った……獣かよ。


「ヒッヒッヒ、無意味だのう。そのように口を開けて。そんなに蹴って欲しいのかぇ?」


もう蹴ってる。エゲつないな……歯が何本か飛んだぞ? そして改めてトンファーでトドメか……


『勝負ありー! スティング選手の勝利です! これにて決勝トーナメント一回戦の全試合が終了いたしました! それでは抽選の後、二回戦を開始いたします!』


『どことなく達人アッカーマンを彷彿とさせる選手だったな。絶対二十歳じゃねえよな。隙のない恐ろしい選手だぜ。』




さてと、二回戦が終われば昼休憩だな。キアラとお弁当だ。私の相手は誰になるんだろうな。スティング選手は嫌だぞ。

それにしても昨日と違って三十二人も決勝に進出したものだから待ち長くて面倒だったな。普通決勝トーナメントと言えば十六人だろうに。




さて、抽選も終えた。私の出番はなんと、第一試合。相手は誰だ?


『大変長らくお待たせしましたー! 決勝トーナメント二回戦を始めたいと思いまーす! 第一試合! いきなりあの選手の登場です! 一人目はぁー! カース選手だぁー! 先ほどは見事な奇襲を見せてくれました! 次なる一手は何を用意しているのでしょうかぁー!

二人目はぁー! ターブレ選手です! 騎士学校五年生二位! 自称スティード選手のライバル! カース選手より大きな体で勝利を掴めぇー!』


『さーて賭け率は……二対五か。さすがにターブレ選手が優勢だな。』


ターブレ・ド・バラデュール君。初めて会ったのはクタナツでの秋の大会の時だな。あの時は弱かったのだが、スティード君つながりであれから何度も模擬戦をやっている。対戦成績は私の勝ち越し。しかし油断は禁物だ。ここ最近は全然やってないんだから。


『双方構え!』




『始め!』


「いくぞぉ!」


うっ、バラデュール君たらえらい気合い入ってる。ちなみに武器はセルジュ君と同じく破極流で使ってる木の槍だ。私は鍛錬棒のもう片方。長さでは勝負にならないな。


くっ、離れた間合いから槍が叩きこまれる。近寄れん……が、構わん。今度こそ装備の力でゴリ押ししてくれる。上からの打ち下ろしを肩で受け、その槍を押さえ込む。そして槍を引き寄せるようにして、少しずつ間合いを詰めたい……が、びくともしない。やるなバラデュール君、力では勝てそうにない。


『おーっとカース選手! ターブレ選手の木槍を身を挺して押さえ込んだぁー! そして膠着! どう見ますかダミアン様!?』


『まあ槍相手に離れてちゃあ勝てねぇよな。カース選手は少しでも近付きたいわな。』


そうだよ。近付きたいんだよ。とりあえず嫌がらせでも……ふん!

私が掴んだ少し先を叩き折ってやった。三割ほど短くなったぜ。切れ端は場外に投げ捨てておく。やはり普通の木槍のようだ。


「さすが魔王だな。これだってそこそこいい木を使ってんだぜ? だが、先を折ったのは失敗だったな……はあっ!」


ちっ、突いてきやがった。胴体に当たる分には問題ないが、あんなのが目に当たったら目も当てられない。ぷぷっ。私は何を言っているんだ?


「おらぁ隙だらけだぜぇ!」


痛って、あっぶね。頬をかすめてしまった。マジで目にくらうところだった。あの勢いで突きまくられるとやりにくいな。私とバラデュール君はお互いに手の内を結構知ってるからなぁ……搦手が使いにくいんだよな。何かアイデアは……


「あっ!」


「な、なんだよ……」


思いついた。


「ふふっ、いやーバラデュール君。アイリーンちゃんのことなんだけどね。」


「ア、アイリーンがどうしたってんだ!」


ふっ、もう手が止まってるぜ。甘い甘い。


「いつだったか我が家でダミアン達と夕食を食べたんだよね。その後さ。ダミアンが酒を飲み始めたんだ。すると、アイリーンちゃんも一緒に飲み出したんだよね。」


「ああ!? アイリーンが酒だとぉ!?」


「そう。やたらとダミアンと距離が近くてさ。知っての通り、ダミアンって口がうまいじゃん? 武骨なアイリーンちゃんでもねぇ?」


「そ、そんなバカな! アイリーンに限って、そんな……」


今だ! 隙あり!

ブン投げた鍛錬棒がバラデュール君の胸元を直撃した。そこにすかさず走り込んでドロップキック。場外へ落ちるバラデュール君。私の勝ちだ。

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