第937話 第二回領都一子供武闘会

十一月上旬の週末、デメテの日。

本日、ダミアン主催の領都一子供武闘会が開催される。しかも今回はタッグマッチだとか。どのようなルールになっているのか少し楽しみだったりする。


私とアレク、コーちゃん。そしてマーリンとリリスは馬車でコロシアムまでやって来た。


「それでは旦那様の勇姿を楽しみにしておりますね!」

「お気を付けて。」

「ピュイピュイ」


「行ってくるよ。」

「行ってくるわね。」


さすがに人数が多すぎる。来るのが少し遅かったせいか混雑しまくりだ。ここは五千人ぐらい入るって話だったもんな。


どうにか受付に到着。ルールが張り出してある。しっかり読んでおこう。


『領都一子供武闘会対戦要綱


一日目

・二対二のタッグマッチ

・どちらかが戦闘不能、降参、場外に落ちたら負け

・『浮身』『風操』で浮いたり飛んだりするのは禁止

・防具は大会指定の物に限る

・用意していない者には貸し出し可

・ポーションや魔法による回復は不可


何だと?


「アレクは知ってたの? 制服着てるし。」


「ええ、聞いていたわよ。せっかくカースが作ってくれたドラゴンの装備を着れないのは残念だけど。」


「もおー言ってよぉー。」


「ごめんなさいね。ダミアン様がカースには内緒にしとけって言うものだから。」


「あの野郎……まあいいか。受付しようか。」


「ええ。」


どうやらペアで受付をする必要はないようだ。私のペアはどうなるんだ?


申し込み用紙に記入をして、参加費の金貨一枚を払う。子供大会の参加費にしては高すぎるよなぁ。まあ賞金もすごいけどさ。そしてルールを遵守する旨の契約魔法をかけられる。


「では服装をこちらに着替えてください」


渡されたのは何の変哲もない麻の服。無尽流の道着より薄いじゃないか。まあいいけど。各学校の制服はオッケーだってのに。




さて、コロシアム内部の武舞台の周辺には参加者が続々と集まっている。前回は三百人ぐらいだったかな? 今回はもっとたくさんいそうだ。




『皆様、本日は領都一子供武闘会へようこそお越しくださいました。私は本日の実況、及び進行を担当いたします領都の黒百合ことギルドの花形受付マリアンヌでございます。では主催者のダミアン・ド・フランティア様よりご挨拶申し上げます。』


声は聞こえるが姿は見えない。拡声の魔法か何らかの魔道具だよな。




『野郎ども、今回もよく来たな。お前らが欲しいのは金か? うちの妹か? それとも両方か? ここには領都民が五千人集まっている。お前達が欲に塗れた姿を晒すのも、スタイリッシュに勝つところを見せつけるのも自由だ。今後の人生と相談しながら勝ちに行け! 面白い勝負を期待している。』


どこかで聞いたような挨拶なのに、会場はえらく盛り上がっている。


『次に、サテュラ・ド・フランティア様よりご挨拶です。』


『領都のみなさん、おはようございます。明日の賞品となりましたサテュラですの。今回ダミアンお兄様が賞品で悩まれておりましたので、立候補してみましたの。なぜなら私、婚約者がおりませんの。どうせなら強い男がいいんですの。明日の優勝者は私の婚約者になる可能性が高いんですのよ。楽しみにしておりますの。』


鈴を鳴らしたような声って言うのかな。えらく可愛らしい声だった。拍手だけでなく一部の男性陣から熱狂的な声援まで飛んでいるではないか。


『それでは一回戦を開始します! 一番から四十番までは第一武舞台へ! 四十一番から八十番までは第二武舞台へ! 八十一番から…………』


今回は武舞台がやけに狭い。確かに魔法使いには不利そうだ。私は百二十一番なので第四武舞台へと移動した。私だけペアがいないけど、いいのか?


『さあて野郎ども! ここで特別ルールを発表するぜ! 知っての通りこの大会には魔王カースも参加している! まともにやっちまったら誰にも勝ち目がねえ! それじゃあ詰まんねーよな!? そこでハンデをつけるぜ! カースのペアはこの俺だ! と言っても戦うわけじゃねえ! 武舞台の真ん中で突っ立ってるだけだ! 頭にアプルの実を乗せてなぁ!』


何だと!? ダミアンが出場するってのか? しかも私はダミアンを守りながら戦うってのか? 大したハンデだよな。


『つまり!カースの対戦相手は俺の頭からアプルの実を落としても勝ちってわけだ! ハンデなしでカースとやりたい奴は自由にしろや! そんじゃあ一回戦始めるぜ!』


いきなり私の出番が来た。相手はもちろん二人。ダミアンもやって来た。


「ってわけだ。気張ってくれや。」


「まったくお前って奴は。アプルの実、落とすなよ。」


そして試合が始まった。


『氷壁』


誰もダミアンに近づけないようにしてから……


『風球』

『風球』


二人とも場外へ落としておいた。氷壁解除。




「おいカース。寒ぃじゃねーか。どうにかしろよ。」


「五秒ぐらい我慢しろよ。」


まったく、あれこれと贅沢な奴だ。仕方ないから二回戦は『風壁』を張ってやった。それも温風バージョンだ。


「おー、カース。やりゃあできるじゃねーか。快適だったぜ。」


「そりゃあよかった。くれぐれもアプルの実を落とすんじゃねーぞ。」


「当たりめーよぉ。」




さて、三回戦。実況がないと淡々と進むよなー。どこかで見た覚えのある対戦相手だが……


「やあ魔王さん、お久しぶりですね。」

「久しぶりだな。僕を覚えているか?」


一人はアレクと同級生の童顔筋肉ダルマだよな。もう一人は魔法学校の先輩だったはずだが……


「どうもお久しぶり。」

「カース、オメー知らねーくせにテキトーこいてんな?」


ダミアンうるさい。まあ魔法学校生ってことは間違いない。油断せずにいこう。




終わった。可哀想だが実力差は開いていたらしい。四十組いた第四武舞台も残りは五組。対戦はどうやるんだ?

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