第936話 大会のレギュレーション

特筆することのない一週間だった。

破極流の道場に行ったり、再び貴族学校に本を読みに行ったり。カスカジーニ山やムリーマ山脈で魔物を狩ったり。マイコレイジ商会で移動式シェルター小屋の発注もした。公衆浴場と公衆トイレも完成していたので、来週楽園エデンに運ぶことになった。




そして金曜日、いやケルニャの日の放課後。やっとアレクに会える。


いつも通り魔法学校の校門に佇みアレクを待つ。まだかなまだかなー。すでに『伝言つてごと』の魔法を使い私の到着は伝えてある。まだかなー。ちょっと早く来すぎたんだよなー。



ぼつぼつ人が出て来たな。見た感じ幼い感じがする。一年生とかかな? なんだかえらく会話が盛り上がっているようだ。よし、後ろをつけてみよう。霞の外套の出番だ。足音は『消音』の魔法で消す。


「明日はいよいよ大会だね!」

「負けないからなー!」

「俺は従者のクライムと出るぜ!」

「僕は兄上と出るよ!」


「二年ぶりの大会って話だよね。前回優勝の魔王カースってどんな人なんだろうね?」

「絶対ろくな奴じゃないよね。だって魔王だよ? よく王家が黙っているよね?」

「俺達の敵じゃないさ!」

「僕だって兄上の魔法で魔王なんか一発だよ!」


「優勝したら金貨二百枚だよね。それだけあったら母上や弟達に新しい服を買ってあげられるよ」

「実際には山分けだから一人百枚だけどね」

「辺境伯家の五女サテュラ様も付いてるしな。燃えるよな!」

「でもダミアン様と同腹の妹だよ? あんまり栄達には繋がらなくない?」


「あー、だよね。まあ僕としては賞金さえ貰えたら十分だし」

「でもサテュラ様ってえらく可愛いよね。賞金よりはサテュラ様がいいな」

「どっちもだろ! 男なら金と女を手に入れないとな!」

「それもそうだ! 君達と当たっても手加減しないからね!」


見たところ十一とか十二歳ぐらいだよな。やはり参加するのか。さすがに心配になるな。確かあの時も私は十二、三歳ぐらいだったよな。なら問題ないのか。


「ところで明後日の方はどうする?」

「僕は出ない……かな?」

「俺は出るさ!」

「僕も出ないよ。ちょっと危ないもんね」


明後日? 大会は二回あるのか? ダミアンから何も聞いてないんだよな。


「そうだよね。いくら明後日の大会の賞品がサテュラ様だからってさ」

「それが悩みどころなんだよね。あーどうしよう!」

「いらないんなら俺が貰うからな!」

「がんばって! 応援ぐらいするからさ」


「まあそれよりまずは明日の大会だよね」

「当たっても恨みっこなしでいこうよ」

「おう! 悔いが残らないようにやろうぜ!」

「二対二なんて学校でも珍しいもんね。少し楽しみ!」


何? 二対二だと!? 聞いてないぞ? 今からパートナーを探せと言うのか!? いや、アレクがいるから大丈夫に違いない。何も知らなかった私と違ってアレクはきっちり知っているはずだ。急いで校門に戻ろう。アレクが出てくる前に。




ほっ、アレクはまだだ。霞の外套を脱いでゆるりと待とう。




「カース!」


「アレク!」


五分もせずにアレクが出てきた! そしていつものように私の胸に飛び込んでくる。なんてかわいいんだ。


「こんなに早くカースに会えるなんて嬉しいわ!」


いつもは二週間空くもんな。


「僕もだよ。さあ帰ろう。」


帰ってイチャイチャするんだ! 珍しくアレクに取り巻きが一人もいないことだし。


「ええ、早く帰りたいわ!」


やはりアレクも同じ気持ちか。これこそ幸せだ。




帰りながら明日の大会のことを聞いてみると、なんとアレクはアイリーンちゃんと組むことになっているらしい。なんてこった……


「カースはすでにペアが決まってるってダミアン様が言ってたわよ?」


「え!? そうなの?」


ダミアンめ……当日を楽しみにしとけとか言ってたな。


「アイリーンもかなり燃えていたわよ。スティード君はバラデュール君と組んで出るそうよ。」


「それは強力そうだね。前回の大会でも結構強い人達はいたし、どうなるか楽しみだね。」


「今回は全員打倒カースを狙ってくるわよね。油断しないでね?」


「うん。全力とはいかないけど、可能な限り早く終わるようにするよ。手抜きはしない。」


「それはそうと、そのウエストコートにトラウザーズってもしかして……」


「おっ、分かる? 例のドラゴンの装備だよ。アレクの分もあるから帰ったら着てみてね!」


さすがにアレクは違いが分かるな。着ている私ですらあまり分からないぐらい似たデザインだってのに。


「やっぱり凄いわ……自分でドラゴンを仕留めてその皮でウエストコートを作るなんて……」『氷弾ひだん


いきなりだなぁもう。効いてないけど。


「やっぱり凄いのね……かなり魔力を込めた氷弾だったのに……」


「アレクだってこれと同じ物を着るんだよ。僕らの装備は反則だね。」


子供武闘会に一流冒険者や王族並みの装備で参加するなんて反則すぎるぜ、ふふふ。


「そうね。当日発表のルールがあるらしいから、もしかしたらその辺りを改善するのかも知れないわね。」


「あー確かダミアンの奴、魔法使いに不利なルールにするって言ってたよね。」


魔法禁止って言われたら私の勝ち目がなくなってしまうぞ。


「どうなるのかしらね? 明日が楽しみね。」


さて、我が家に到着。コーちゃんとカムイが出迎えてくれた。明日のことはともかく、今夜はめいいっぱい楽しもう。

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